そのさよなら、代行します × ウーバータクシーのある乗車客

あらすじ

親が社長を勤めている会社で働く達夫(四十過ぎ)だったが、急な重病に患い社長は死んでしまう。社長の代理で入った者に達夫は即刻リストラされ、無職の中仕方なくウーバータクシーを始める。夜中、初老の帽子を深く被った男性を拾い、目的地まで届けるとその男性が札束を手渡す。一度は断ろうとした達夫だが無理に懐に押し込められ男性は去ってしまう。気を落ち着かせようと車を適当に停め、飲み屋に入る達夫だったが…。

〇昭和のような裏路地

走る達夫。一軒の飲み屋に入りジャケットを椅子にかけ、ビールとおでんを注文する。

〇居酒屋

テーブルの下で札束をもう一度出し、震える手で札束を見返す。五、六百万はありそうだ。

店主「はい、ビールとおでんお待ち!」

達夫「は、はい」

店主「兄ちゃん、顔が青白いぞ。具合でも悪いんじゃないか?」

達夫「そ、そうですかね」

店主「不景気だからといって働きすぎてもな。自分の歳も考えないと。」

達夫はビールとおでんを口にする。動悸がまだ止まらない。

店主「なんか訳有りな金でも掴んだか?五、六百万だとか」

達夫「え!いや…」

店主「兄ちゃんウーバータクシーやってるだろ。俺はな、『さよならメッセンジャー』ってのをやってんだ。最近は誰でもできるんだ。」

達夫「…はい?」

店主「あんんたのお父さんから頼まれてな、まあ話を聞け」

〇昔の会社の中

達夫の父(川上)と同僚(山田)の二人が部屋にいる。

川上「山田、それだとウチの部下を何人も失うことになるぞ」

山田「しかしな川上、今ここであの会社と合併しないと資金が調達できないだろ。これは仕方がない事なんだ。」

川上「お前は今まで育ててきた人材を何とも思わないのか!?」

山田「リスクがあるのはどちらも同じだろ!」

山田の合併案は最後の最後で会長の判断により通らなかった。元より批判をしていた川上はこれにより評価をうけ社長の椅子を受けることになる。それ以来、山田は川上のポジションを狙い続けていた。

〇居酒屋

達夫「今の社長は…」

店主「そうだ、山田が社長に上がりお前は恨みを晴らすべきかに巻き込まれたという感じだ。」

達夫「親父は、親父は何故俺に言わないで…」

店主「脳梗塞だったんだろ。時間がなかったんだ。ほら、兄ちゃん、もう閉店の時間だ。帰りな。その金で一商売始めるんだな。」

達夫「あなたは一体…」

店主はニッと笑いさっき見せた帽子をくるくると回し、

店主「山田の案件を断った輩だよ」

押されながら外に出てシャッターが閉まる。寒い中達夫は歩き出し、ウーバータクシーを自宅に向けて走り出す。

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