失明した妹犬を連れて、視覚の専門医のもとへ。 青い光を探す旅。🐕


夜の桟橋で

失明した妹犬を連れて、眼科へ。
犬の視覚の専門医のもとで診察を受けて来た。

生まれつき白内障でほとんど目が見えなかった兄犬が、16年ほど前に手術をしてもらった病院だ。

動物の治療費は高くつくものが多いけれど眼科は特に高額で、本来なら100万円ほど必要な手術費用を、当時の院長が半分に抑えてくれたのだと妻から聞いていた。

安定した仕事でなく、その日暮らしに近かった当時の妻がよく他人からとつぜん押し付けられた捨て犬のためにその金を工面したなと思う。

兄犬の手術は成功し、それでも他の犬にくらべて視力はだいぶ弱かったが、「見たいものだけ見る、聞きたいことだけ聞き、やりたいことだけやる」というなかなか真似のできない方法論で誰よりも楽しく人生を謳歌して、まわりにいる私たちまで笑わせ続けた。

兄犬と妹犬

私が妻と犬たちに出会うずいぶん前の話だが、そんな経緯でなんとなく自分自身でも恩義を感じてきた病院だったので、妹犬を診てもらうならここしかないと決めていた。


お世話になった老齢の院長ではなく、同世代か少し年下に見える医師がひととおりの検査をしてくれた結果、先日の獣医大のK先生の見立てどおり、ここでも「網膜変性症」との診断を受けた。

原因不明の病気で、治療方法もないとされてきたが、最近アメリカの研究施設では、投薬による回復が認められたケースも出てきていると。
しかしまだまだ実験段階であり、臨床の現場では表立って行われていない治療になるとのことだった。
またその方法は、病変が認められた直後に、即座に始めなくては意味をなさないそうで、光を失って2週間程度しか経っていないこの子であっても「残念ながら間に合わない」と。
脳梗塞や神経症状の併発から検査にも慎重にならざるを得ず、どうしようもなかったこととは言え、ちくりと刺すような悔いの感覚が残った。

網膜は、構造的に多層をなしているそうで、妹犬は、その九層目にあたる、赤い光を感じ取る視細胞が機能していないと。

青い光に対しては、わずかに瞳孔が反応するとのことだったので、これは素人考えの気休めに過ぎないかもしれないが、これからの生活の中で、何か青っぽい綺麗な光を見かけることがあったら、注意を向けてあげたいなと思った。

冬の星あかりや、近所の桟橋から見える、港のひかり。
多層になったロウソクの炎のなかで、いちばん温度が高いという、青いひかり。
もしかするとそれが、妹犬のまぶたの裏側で、夜の匂いとともに、瞬くかもしれない。

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