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【読書日記】スリー・アゲーツ 三つの瑪瑙

五條 瑛/集英社文庫
鉱物シリーズ2作目。

※ネタバレあります。


<あらすじ>

北朝鮮工作員のチョンが日本に潜入し、偽ドルを浄化し始めた。
チョンには北朝鮮に妻と娘、日本にも妻と息子がいて、両方の家族をとても大事にしている。
北朝鮮の妻と娘はチョンの指示で脱北のために行動している。
葉山はチョンが残した文書から、チョンの日本の家族に辿りつく。
坂下は基地内に入ってきた偽ドルの線からチョンの活動に辿りつく。
チョンとの司法取引の場をセッティングされ、葉山はチョンと話すが、チョンは脱走する。
葉山と坂下は韓国大統領が訪日の際に暗殺されると知り、阻止のために奔走する。
大統領暗殺は殺し屋の峰岸をチョンが抑えこんで阻止するが、その後チョンは殺されてしまう。
チョンが死ぬ前の告白したテープが後日葉山に届き、葉山はそれを元にエディと洪と交渉。
日本の妻子の情報がマスコミにもれないようエディに依頼し、洪には亡命した娘を迎えに行くよう依頼した。

<勉強になったところ>

チョンのキャラクターが絶妙だった。
主人公サイドが追いかけている上に北朝鮮の工作員というポジションから、悪者だろうという予測で読み始めると、途中から作中のキャラクターみんなから、あいつはいい奴だという情報が出てくる。
葉山といっしょに読者は混乱する。
北朝鮮と日本の両方に家族がいて、両方とも本当に大事にしていることがわかると、ますます混乱する。
実際に穏やかで、頭がよくて、本当にいい人だから、中盤以降ものすごく同情してしまう。
チョンのキャラクターがあるから、この話の「やりきれない感」が引き立てられていてるんだと思う。

スタックの作戦には二つの効果がある。

①読者の感情操作
読者はチョンの日本の妻子がどういう位置づけか、葉山とのやり取りを通して見ている。
 ↓
かわいそうだと思うし、応援したくなる。
 ↓
そんな母子を囮にしてチョンをおびき出そうとするなんて、スタックは外道。
葉山もといっしょに読者も怒る。

②最後の舞台にキャラクターを終結させる
葉山や坂下は放っておいてもクライマックスのシーンに登場する。
チョンの日本の妻子はひっそりと暮らしているだけで、登場させるのが難しい。
それを囮作戦にすることで違和感なく舞台に上げている。

ひとりのキャラクターの動きで複数の効果がある。
無駄なエピソードや文章がなくなって、すごくスマートだと思った。

<感想>

北朝鮮側の母娘の亡命にものすごくドキドキさせられたし、日本の母子も物悲しいし、事件が起こっている以外にも心が忙しかった。
この「どうなっちゃうの~?!」感があって、どんどん先を読みたくなる。
三人称多視点で、色んなキャラクターが得た断片的な情報で少しずつ画面が埋まっていって、段々と全体の絵が見えるようになっていく快感がものすごい。

スタックの作戦に対し、エディが嫌な顔しながらも許可するところが、感情に流されないエディらしくて最高に好き。
しかも保険でOKしただけで、他にメインの作戦持ってるところがかっこいい。

葉山やさしい……!
結局二つの家族を守ったのはチョンのカセットで、チョンは務めを果たしましたっていうのがすごく救いがあった。
今作限りのキャラクターに、オチがきちんとついていて美しいと思った。

<前作の読書日記>


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