見出し画像

遅い車は私を守るタイムキーパーかもしれない

私は過去に、何度か危険を運良くすり抜けてきた経験がある。

例えば高速道路を走っていたときのこと。
途中、トイレ休憩のためにサービスエリアへ寄った。用事が終わったならすぐ出発するべきなのだろうが、このときの私はなかなか出発せず、いつまでも車内にいた。

疲れていたのか、ケータイをいじりたかったのか、物思いにふけりたかったのか――
今となっては思い出せないが、なんとなく「まだ出発したくないなぁ」とのんびり過ごしていた。
ケータイで姉から「まだちんたら休憩してたのか!」と叱られるほど。

ようやく出発して再び高速道路を走り始めたが、ほどなく減速の指示が目に入る。
工事だろうかと思っていたら、なんと事故現場が現れた。

ヘソ天状態にひっくり返った乗用車。
そこら中に散らばっているのは、ガラスの破片。
それと車内にあったと思われるいくつもの物。
すでに救出されたあとらしく、車内は無人で、救急車の姿もない。

私の車を含めた車列が、遠巻きに、粛々と、事故現場を通過した。

このとき心底、「ちんたら休憩してて良かった」と思ったことは言うまでもない。
状況から推察するに、あのときトイレ休憩だけしてすぐ出発していたら、恐らく私もこの事故に巻き込まれていた可能性が高いと思う。

 

つい最近も、結果的にうまく難を逃れていたことがあった。

自宅から職場までのルートはいくつかあって、私が通勤路として届出していたのはAのルート。

ある朝、私の車の前をとても遅い車が走っていた。

その車は分岐点で右折。Aのルートへ進んだ。
私はすぐにAのルートをやめて直進。Bのルートを選択。

職場に着くと、上司たちがなぜかちょっと慌てている。
「大丈夫だった? よくたどり着けたね」
「え、何かあったんですか?」
和珪わけいさんが通る道、消防車で道通れなくなってたみたいだよ?」

なんと。私の通勤路であるAのルートで、火事があったらしい。

「えーと、今日はたまたま別の道を来たので……」
職場に報告してある通勤路ではないルートで来たので、少々ばつが悪い。とは言え、火事や渋滞に巻き込まれずに出勤できたのは良かった。

 

こういう経験を重ねていると、一本道でスピードの遅い車に出くわしたときも、
「もしかしたらこの車、タイムキーパーかもな」
なんて考えるようになる。

それまでのスピードで走っていたら、もしかしてこの先で事故に遭うのかもしれない。この遅い車は、私が事故に遭わないように、タイミングをずらすために現れたのかもしれない、と。

そんなふうに考えると、のろのろ運転の車にイライラしなくなるどころか、別れ際に
「どうもありがとねー」
と感謝の言葉すら出てくる。

だから、よほど後続車が連なっているのでなければ、こういうときは追い越すわけでもなく、タイムキーパーの導きに従うことにしている。

おかげさまで。
今日も一日、つつがなく暮らせている。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?