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なぜか日記にとても萌える

人の日記が好きだ。――というと悪趣味極まりないが。もちろん家族や友達の日記を盗み見するということではない。
偉人から庶民まで、著者の気持ち、当時起こった事件や災害の描写などなど、大昔の人たちの日記にとても興味がある。
(大昔の人たちも後世の人に日記を読まれるなんて心外かもしれないが)

いつから日記好きになったかは覚えていないが、少なくとも中学のときにはできあがっていた。教科書に『土佐日記』や『蜻蛉日記』の文字を見つけると、マーカーを引かずにはいられない。
「日記」という文字を見るだけで萌えた。

そんな感じだったので、中学か高校のときには学校の図書室から『紫式部日記』などを借りて読んでいた。
ただ、いざ読んでみると当時の私にはそんなにおもしろいものでもなく、大部分は斜め読み。有名な「清少納言への悪口」の記述を探して楽しむ程度に終わった。

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『赤毛のアン』の作者の『モンゴメリ日記』は、赤裸々かつ辛辣で、小説やエッセイのようでもあり、読み物としてなかなかおもしろかった。
「結婚したいが愛せない男」と「愛しているが結婚したくない男」との恋愛模様についてや、原稿を書き続け、採用されたことなどなど。

『モンゴメリ日記』は、当時のカナダ社会を知る上でも資料的価値があるとか。さすがである。
そういうの、萌える。
私も日記を書く際はダラダラと心情を吐露するのではなく、自分を取り巻く世界も描写するように心掛けよう、と大いに感化された。

それにしても、日本では3巻までで出版が止まっているようだが。続きは出ないのだろうか。

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『サンソン家回顧録』――これはフランスで死刑執行人の役目を担った一族の記録。
特に4代目のシャルル=アンリ・サンソンは、フランス革命時代を生きた人。ルイ16世やマリー=アントワネットの処刑に関わっている。

この回顧録は彼の孫がまとめたもので、シャルル=アンリ・サンソンの日記も収録されている。処刑の描写は過激ではあるが、この本は貪るように読んだ。何せ歴史の大転換点の記録であるし、有名人もバンバン出てくる。マンガ『イノサン』も並行して読んでいたから、読み比べが楽しい。
贅沢な読書だった。

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最近では話題になった『武漢日記』も入手したものの、これはまだほんの数日分しか読み進められていない。
牛歩の理由は多分、時代が「今」ということ。それと、もともとはオンライン日記だったからだろうか。

現代もので、デジタルで、初めから人に見せるものとして書かれた日記。
私としては、大昔の、手書きの、個人的な日記に心ひかれる。

なぜだろう。
やはり「のぞき見感覚」がいいのだろうか。

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私自身も、日記帳や手帳、ノートやメモ帳に、何かしら記録を残したがる性格である。

旅行など何か期間限定で普段と違うことをする場合、まず最初に考えることは
「日記書かなきゃ(ワクワク)」
「どのノートにしよう(ウキウキ)」
「タイトル何にしよう(キャッキャ)」
である。

先日見たテレビ番組で、森鴎外も日記を書く人だと知った。タイトルも細かく分けているようで、ドイツへ留学すれば『独逸日記』、小倉へ左遷されれば『小倉日記』としている。ちなみに平常時は『明治〇年日記』としているようだ。

こういうのも、萌える。
『○○日記』っていう言葉に萌える。
同じ時代に生きていたらぜひとも友達になりたい。

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日記の他に、日記についての解説本も好んで読んでいる。

例えば平安時代の女性の日記は「日記文学」と言われるほど文学性が濃いが、男性の場合は業務日誌や家業のマニュアルとしての要素が強い――ということを知る。
中でも『小野宮流日記』……だったか(うろ覚え)は、大変に優れたマニュアル系日記で、それまでは一族で代々受け継がれていたが、没落して役職から外れると、その日記を売却。かなり高い値がついたとか。

こういう、日記について解説している本や番組も大好物である。私が昔から歴史番組を録画しておくのは、こういう日記や古文書などの映像を手に入れたいという目的もある。
いつでも好きなときに愛でられるように。
待ち受け画像にしたこともある。

日記が好きすぎて、サスペンスドラマでよくある『ナントカの事件日記』みたいなタイトルにも飛びついてしまう。
しかし(当然ながら)日記がメインではないわけで、心底ガッカリするのである。

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なんでこんなに日記が好きなのか。
自分でもよくわからない。

だけどここまで書き連ねてみて、私が日記に何を求めていたのか、ちょっとわかってきた気がする。

日記を読むことで書き手に入り込み、あるいは近くに控え、その時代、その環境、その人の気持ちを、一緒に感じる。
あるいは俯瞰し、「ああ、これがのちのアレに繋がるのだな」などと思いを馳せる。

私にとって日記は、一種のタイムマシーンだったのだ。

近頃は、改めて『紫式部日記』を読みたいと思っている。日記を通して宮中に忍び込む感覚を楽しみたいし、10代の頃とはまったく違う感じ方をすることだろう。


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