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AB型の話
28歳で初めて献血をするまで、私の血液型はA型だと思っていた。なぜなら母がそう言っていたから。ところがその献血をするときに、そうじゃないことが明らかになる。
「高橋さん、問診票にA型って書いてあるけど……」
「はい、A型ですけど。……え、違うんですか?」
「検査したら、あなたAB型なのよね」
スタッフさんの言葉に私は相当混乱したのだろう。「ええ⁉︎ いや、だって私、母がA型で、父はB型ですけど!」などと口走るが、その組み合わせの親ならAB型の子が生まれてもなんらおかしくはない。スタッフさんにも「うん。だから」と呆れられた。
「私、AB型だった」
元看護師の母に告げると、私同様に相当驚いていた。
「私はA型だって、子供の頃にお母さんから聞いたんだけど」
「うん。だってA型だと思ってたから」
「それって検査してA型だったの?」
時がたって検査結果が変わったという話は聞く。うちの父も、昔検査したらA型だったのに、何年も経ったらB型判定だったという。そうなった理由を父は、昔のことだし、冬の寒さで検査薬が変化したのだろうと推測している。
「や、検査はしてないよ」
「じゃあなんでA型だってなったの?」
「母親の私がA型だから、あんだもそうだと思って」
それでよく看護師が務まったもんだ。
*
「私、AB型だった」
「ふうん」
母と違って、幼なじみは冷静だった。
「驚かないね」
「AB型って言われた方が納得する」
それってよく言う「AB型は変わり者」とか「天才肌」ってやつか。ぜひとも後者であってほしいものだが。
しかし常々思うことだが、たかだか4種類しかない血液型で性格を分けるのは、少々雑ではないだろうか。「A型は神経質」「O型は大雑把」などと言うその根拠はなんだ。
と思っていたら、テレビか何かでこんな話を聞いた。かつてA型は病気にかかりやすく、O型はかかりにくかった。だからA型は神経質になり、O型は大胆に行動することができたと。
諸説あるだろうが、そういったことが背景としてあるなら一理あるかもと思った次第である。
それから、数年前に読んだ本やテレビで言っていた、「血液型によって脳の使い方に特徴がある」という話。これは医学的なこともあり、ちょっと興味が湧いた。脳の使い方に特徴があるから、性格にも影響が出るということだ。
例えば、A型は記憶を司る海馬を活発に使う。だから過去の成功体験をずっと覚えていて、それを繰り返す。故にあまり冒険しない。会話をしていても、どんどんいろんなことを思い出してしまうので、話が脇道にそれ、長くなってしまう。――というようなこと。
他にも、血液型によって右脳左脳の使い方に特徴があるとか、いろいろ興味深い説はあるが、やはり皆が皆それに当てはまるわけではない。
鵜呑みにして、人の性格を決めつけるようなことだけは避けたい。
*
そんな中、血液型による行動の違いを実際にこの目で見て、大変驚いた出来事があった。
前に農協女性部の行事で、「血液型漫談」というのを見たときのこと。その名のとおり血液型に関する漫談なのだが、冒頭のつかみで、観客一人一人の血液型が何か、挙手をすることになった。そこでわかったのは、血液型によって、明らかに座る位置に特徴があったということ。
あちこちの地区の女性部が集まっていたから、同じ地区ごとにまとまって座ってはいる。だけど漫談師さんがステージ上から「A型の人~」と声をかけると、各地区のまとまりの中で、A型さんはA型さん同士で集まっていることがわかった。
会場がどよめく。しかし日本人はA型が圧倒的に多い。A型がまとまっているように見えても不思議はない。
しかしそのあとのB型さんやO型さんたちにも、特徴あるまとまり方が見られ、会場はますますどよめいた。
そしていよいよAB型さんの番である。
このとき私が座っていたのは、同じ地区の女性部さんが集まって座っている列の、一番はじっこ。すぐ隣は通路。お手洗いのときなど、自由にスッと離席したいから、「誰かと一緒」という座り方ではなく、「一番はじの席、通路のすぐ隣」に一人で座りたがる。
普段の集まりでも、人の群れの中よりも、ちょっと離れた、はじっこを好む。その方がのびのびできて落ち着くから。あまり中心にいると物事を客観的に判断できなくなって、自分の意見がよくわからなくなるから好きじゃないのだ。
「じゃあ最後、AB型の人~」
ステージから言われて手を挙げる。すると、私の前後の人たち――つまり各列の一番はじっこに座っていた人たちが一斉に手を挙げた。
□□□□□□□□□■←AB型
□□□□□□□□□■←AB型
□□□□□□□□□■←AB型
これにはその日一番のどよめきが起こった。はじに座っていたAB型さんたちは互いに顔を見合わせ、自分とまったく同じ行動をとっている人たちに照れ笑いなり苦笑いなりをした。
私も、すぐ後ろの先輩女性と顔を見合わせた。この先輩女性とはなんとなく馬が合って、集まりがあると自然に雑談していた。ベタベタしすぎず、飄々としていて、それでいて冷たいわけでもなく。そういう先輩女性のことを私は好ましく思っていた。同じAB型だとわかったとき、互いに「ああ」と納得の声が出て笑った。
病院の駐車場などでも、前の方が思いっきり空いているにも関わらず、後ろの方にぽつんと停めている車を見ることがある。運転手はもしかしたら、AB型かもしれない。
かく言う私も、病院の駐車場はわりと後ろの方へ停める。どうせ前の方は混んでいる。だったら最初から後ろへ行った方がいい。それにたとえ前の方で停められたとしても、近くに人の気配があったり、窮屈なところでドアの開け閉めをするのは嫌なのだ。
やっぱり私は、人の群れから離れたはじっこの方が、のびのびできて落ち着くのである。
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