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ライナスの毛布、牡牛座さんのペロペロ

私がまだ1、2歳のヨチヨチだった頃。祖父は脳梗塞で1年ほど入院していて、祖母はその付き添い。両親は共働きで、姉は保育園へ通っていた。だから私は、昼間、母の実家へあずけられていた。

母方の祖母はいつも微笑んでいて、茶の間に座っている姿に後光が差しているような菩薩タイプだった。幼すぎて記憶もおぼろげだが、私はそんな祖母が好きだったから、よくなついていたと思う。

おやつにはよく、すりおろしリンゴが出された。
「今日のリンゴ、ちょっとしょっぱい」
「ありゃ。ほんじゃ色悪くなんないようにって入れた塩、多かったんだな」
リンゴの色止めのために塩を使うことは、このとき学んだ。そんなふうにのどかな日々を送っていた。

だがその日は珍しく、母の職場に祖母から急ぎの電話が入った。

和珪わけいが、『あか、あか』って言って、すんごい泣くんだけど。『あか』ってなんだべ」
母はすぐに状況を理解し、詫びた。
「『あか』って、和珪のお気に入りの赤いバスタオルのことだ……。ごめん、今日そいづ、洗濯したから持たせなかったんだ。やっぱないとダメかぁ……」

その「あか」というものを、私は赤ん坊の頃からずっと気に入っていて離さなかったらしい。ヨダレまみれで汚いからと洗濯しようものなら、ギャン泣きして抗議したという。

占い師のしいたけ.さんが牡牛座さんの生態を説明するときに、犬がお気に入りのものをペロペロするよう、と表現したことがある。牡牛座さんは五感に長けている。だから気に入ったバスタオルなどをボロボロになるまで使い続ける。肌触りが最高だから。――「ペロペロ」とは言い得て妙である。

牡牛座さんの生態というか、三つ子の魂百までというか、30代で入院しまくっていたときも、「あか」のような唯一無二のものはなかったものの、タオルにはうるさかった。

「ごめんお母さん。このタオルだと新しすぎてなじまないから、私が使ってたタオル持ってきてくれるかな」
「ごめん和珪ちゃん。あんだのタオル、年季入りすぎてサレてっから、病院に持ってくんの、オショスい(恥ずかしい)」

私のお気に入りのタオルがよそ行きに耐えられないオショスいものだと、このとき学んだ。私にとっては宝物なんだが。

スヌーピーでおなじみの『ピーナッツ』に出てくる、毛布を持ったライナス少年も、きっと牡牛座に違いない。

……と思ったら10月生まれだった。残念。


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