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【小説】太陽のヴェーダ

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どう見ても異常があるのに「異常なし」しか言わない医者たちに失望した美咲。悪化した美咲に手を差し伸べたのは、こうさか医院の若き院長、高坂雪洋。雪洋の提案は、一緒に暮らすことだった。…
小説の本編は無料で読めます。番外編や創作裏話などは有料になることが多いです。
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#秘密

【小説】太陽のヴェーダ 先生が私に教えてくれたこと(32)

(第1話/あらすじ)   ●三十人のうちの一人 日曜日。 館内は平日より利用者が多く、職員はほとんどが対応に追われている。 沢村はいつものように書庫にこもっていた。 美咲もいつも通り、沢村の手伝いをしながら業務をこなしていた。 沢村はいつもと変わらない態度で美咲に接してくれた。いつも通り美咲に仕事の指示をし、いつも通り雑談もする。 でもそれは沢村の優しさであって、いつまでも甘えていいものではない。 早く、決着をつけなければ―― 「沢村さん、ファイル持って来ました。

【小説】太陽のヴェーダ 先生が私に教えてくれたこと(29)

(第1話/あらすじ)   ●問診 その日の午後、想定外の体力仕事が課せられてしまった。公民館での催し事の準備に、美咲が助っ人として駆り出されたのだ。 脚立を運んだり、展示物を飾る台やパネルを設置したり。正職ではない美咲がこういった助っ人仕事をするのは時々あったが、連日足へ負荷がかかることだけは、心底避けたかった。明日木曜日は、学級文庫を選ぶ作業があるというのに。 「これからは……公民館側の予定も、チェック……しておこう……」 重量物を持って、すでに階段を五往復していた

【小説】太陽のヴェーダ 先生が私に教えてくれたこと(16)

(第1話/あらすじ)   ●責任 窓の外は大雨。 うるさいほどの雨音は余計な雑音を払い、かえって心の内にこもることができた。 暗く生ぬるい海の底にいるようで、できることならこのままずっと漂っていたい―― 雨音に紛れて電子音が鳴り響く。 美咲は暗い海の中で細くまぶたを開けた。 「はいよ、もしもしー」 瀬名の軽快な声が聞こえ、途端に美咲の意識が暗い海の底から引き上げられた。 今自分がいる場所を思い出す。 ――瀬名の自宅マンションのリビング。 抱えていた膝から顔を上

【小説】太陽のヴェーダ 先生が私に教えてくれたこと(15)

(第1話/あらすじ) 第3章 救急搬送   ●ネームプレート 「ただいまぁ……」 薄暗い家の中へ声をかける。 美咲にしては珍しく早い帰宅だった。 「先生はまだお仕事かな?」 今日は足もさほど痛くない。 こんな時くらいなるべく家事をやっておこうと、リビングへ寄る。 電気をつけ、適当に荷物を置いて、キッチンでヤカンを火にかける。湯が沸くまでの間、部屋を移動して、雨が降るからと室内干ししていた洗濯物を畳む。 「夕飯、何作ろうかな……」 考えながら畳んだ洗濯物を持って、二