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【小説】太陽のヴェーダ

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どう見ても異常があるのに「異常なし」しか言わない医者たちに失望した美咲。悪化した美咲に手を差し伸べたのは、こうさか医院の若き院長、高坂雪洋。雪洋の提案は、一緒に暮らすことだった。…
小説の本編は無料で読めます。番外編や創作裏話などは有料になることが多いです。
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#医者と患者

【小説案内】太陽のヴェーダ 番外編

「同居入院」開始直後から、本編ラストの、ほんの少しその後のお話まで。 『太陽のヴェーダ  先生が私に教えてくれたこと』の番外編、 『先生が私に教えてくれないこと』。 番外編は有料です。 第1話はこちら↓ 未読の方は本編から先にお読みください。 本編はすべて無料で読めます。 第1話はこちら↓

【小説】太陽のヴェーダ 先生が私に教えてくれたこと(21)

(第1話/あらすじ) 「美咲! どうしました!?」 雪洋の声―― 倒れたおかげで頭に血が巡り始めたのか、めまいは少し治まっていた。 「水を何回も流す音がしたから心配していたんです。嘔吐ですか? 下痢ですか? 倒れたとき頭は打っていませんか?」 ゆっくりと体を起こされる。 頭に異常がないか、雪洋が指先で探っている。 「頭は平気……。おなか、急に痛くなって……便意が、何回も、何回も……」 「下痢ですか?」 美咲はかすかにうなずき、でも、と唇を動かした。話すのがひどく億劫

【小説】太陽のヴェーダ 先生が私に教えてくれたこと(18)

(第1話/あらすじ)   ●月夜の誓い 少し欠けた月が天高く座し、冴え冴えとした光を注いでいる。美咲は窓辺にイスを寄せて、月をぼんやりと見ていた。 心は、五年前を漂っていた。 最初の病院で「異常無し」と言われた時は、素直にそうなのかと思った。 だが一向に治る兆しがなく、病院を変えた。 そしてまた、「原因不明」とか、「検査結果は異常無し」などと言われた。 とりあえずで出された薬。 症状は一時的に治まったが、結局治らなかった。 そんなことを何度も繰り返し、行き着いた

【小説】太陽のヴェーダ 先生が私に教えてくれたこと(17)

(第1話/あらすじ) 「美咲っ?」 二回目のコールが鳴る前に雪洋が出る。 「先……」 先生、と言いかけたところで手からケータイが抜けた。 「先生―? ワタシー!」 言ったのは瀬名だ。 美咲が呆気に取られていると、一瞬の間を置いてケータイから怒鳴り声が聞こえた。瀬名が耳からケータイを離して笑っている。 「こんな短時間にユキの怒鳴り声何回も聞くなんて、俺もついてるなー」 『こんな短時間に私を何回も怒鳴らせないでください!』 美咲の耳にも怒鳴り声が届いた。雪洋が怒鳴る

【小説】太陽のヴェーダ 先生が私に教えてくれたこと(16)

(第1話/あらすじ)   ●責任 窓の外は大雨。 うるさいほどの雨音は余計な雑音を払い、かえって心の内にこもることができた。 暗く生ぬるい海の底にいるようで、できることならこのままずっと漂っていたい―― 雨音に紛れて電子音が鳴り響く。 美咲は暗い海の中で細くまぶたを開けた。 「はいよ、もしもしー」 瀬名の軽快な声が聞こえ、途端に美咲の意識が暗い海の底から引き上げられた。 今自分がいる場所を思い出す。 ――瀬名の自宅マンションのリビング。 抱えていた膝から顔を上

【小説】太陽のヴェーダ 先生が私に教えてくれたこと(15)

(第1話/あらすじ) 第3章 救急搬送   ●ネームプレート 「ただいまぁ……」 薄暗い家の中へ声をかける。 美咲にしては珍しく早い帰宅だった。 「先生はまだお仕事かな?」 今日は足もさほど痛くない。 こんな時くらいなるべく家事をやっておこうと、リビングへ寄る。 電気をつけ、適当に荷物を置いて、キッチンでヤカンを火にかける。湯が沸くまでの間、部屋を移動して、雨が降るからと室内干ししていた洗濯物を畳む。 「夕飯、何作ろうかな……」 考えながら畳んだ洗濯物を持って、二

【小説】太陽のヴェーダ 先生が私に教えてくれたこと(12)

(第1話/あらすじ) 着替えを終えて、二人で食卓を囲む。 泣いた後だから味がわからない。 「先生、どうしたら先生のようになれますか?」 唐突に美咲は問いかけた。 あんなふうに癇癪を起こしても、結局何もいいことはない。自己嫌悪だけが残る。そんなのは、もう疲れた。 「私も先生みたいに、穏やかに笑って、見守っている側の人間になりたいです。先生みたいに『特技・平常心』って履歴書に書きたいです」 「そんなこと書いたことありませんよ」 雪洋が声を上げて笑う。 笑いがやむと、雪洋

【小説】太陽のヴェーダ 先生が私に教えてくれたこと(5)

(第1話/あらすじ) 「おはよう天野さん」 聞きなれない声に、美咲はびくっと肩を震わせた。 笑顔でのぞきこんでいるこの男―― ああ、昨日のお医者さん。 ええと……高坂先生。 白衣、着てる……。 「あれから眠れましたか?」 「はい、おかげさまで」 いつもより体が軽い。 それでもやはり寝起きは関節が強張っている。 横向きで寝ていたから下になった右腕は力が入らず、支えにして立とうとすると、ガクッと力が抜けて体勢が崩れた。 「体、痛いですね?」 雪洋が支えてくれる。 白衣を

【小説】太陽のヴェーダ 先生が私に教えてくれたこと(4)

(第1話/あらすじ)   ●同居入院、開始 「天野さん、一人で歩かないでください。何のために私がいると思ってるんですか」 同居は開始されたが、雪洋の目が離れると、美咲は自分一人で歩こうとしていた。 「すみません。つい、いつもの癖で……」 でも本当の理由は別にある。 「先生、普段は白衣……着ないんですよね……」 「白衣? 白衣が好きなんですか?」 「そういう趣味はありません」 「勤務中はもちろん着てますよ。スクラブ白衣ですけど」 スクラブ白衣……医院で着てた紺色のあれか

【小説】太陽のヴェーダ 先生が私に教えてくれたこと(3)

(第1話/あらすじ) 「体の痛みはいつからですか?」 「五、六年前から……」 「この紫斑は?」 「一年くらい前から時々。今は、毎日……」 診察台で仰向けになったまま、美咲は答えた。 「病院へは?」 「先月、個人病院から出された薬で一ヶ月様子をみましたけど、何も変わりません」 「先月? 一年前と、五、六年前は?」 「……五年前までは行ってましたけど、それ以降、病院へは行ってません」 あからさまに美咲の声のトーンが落ちた。 雪洋から目をそらす。美咲の口元は笑っていたが、目

【小説】太陽のヴェーダ 先生が私に教えてくれたこと(2)

(第1話/あらすじ) アスファルトに足を引きずる乾いた音が響く。夏の日差しが反射して、足元からも攻撃してくる。 「暑い……。暑いし痛い……」 ぴったりめのTシャツがやせた体のラインをなぞる。 この暑さの中、紫斑を隠すためにカーゴパンツを足首まで下ろしてはいている。 以前住んでいた場所は職場までやたら遠かったこともあり、二年ほど前に今のアパートへ引っ越してきた。平日は仕事に追われ、休日は体の痛みでダウンしているから、近所に何があるのかまったく把握していない。 瀬名に教

【小説】太陽のヴェーダ 先生が私に教えてくれたこと(1)

(あらすじ/あとがき) 第1章 「異常なし」   ●もうやめた 市内にある高坂総合病院。 皮膚科診察室。 「天野美咲さんですね」 白衣姿の若い医者が所見を述べる。 「検査の結果は――」 うつむいて次の言葉を待つ。 膝に乗せた、節々が不格好に腫れている手指をにらみながら。 「特に異常無しですね」 「――え?」 医者の言葉に思わず顔を上げる。 目が合ってしまったので、また自分の両手へ視線を落とす。 「異常……無し……」 医者の言葉を力なく復唱する。 この病院で何回目

【小説案内】太陽のヴェーダ 先生が私に教えてくれたこと

(第1話/あとがき) 太陽のヴェーダ 先生が私に教えてくれたこと ■あらすじ どう見ても異常があるのに「異常なし」しか言わない医者たちに失望した美咲。病院に行かないまま五年が経ち、美咲の体は悪化の一途をたどった。 そんな美咲に手を差し伸べたのは、柔和で温厚な、こうさか医院の若き院長、高坂雪洋。 雪洋からの提案は、 「ここにしばらく住んでみませんか?」 面食らいながらも、この人なら助けてくれる、と確信した美咲。かくして美咲と雪洋の同居生活が始まった。 「私、治るん