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【小説】太陽のヴェーダ

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どう見ても異常があるのに「異常なし」しか言わない医者たちに失望した美咲。悪化した美咲に手を差し伸べたのは、こうさか医院の若き院長、高坂雪洋。雪洋の提案は、一緒に暮らすことだった。…
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#難病

【小説】太陽のヴェーダ 先生が私に教えてくれたこと(36:最終回)

(第1話/あらすじ) 花火の打ち上げはとうに始まっている。 華やかな音と彩りに急かされながら丘を登り、頂上が見えたところで美咲は足を止めた。 万が一雪洋が誰かと来ていたら、そっと帰ろうと思っていた。 花火の明るさを頼りに目を凝らす。 だがそこには「誰か」のみならず、人影はひとつもなかった。 「いない……か、やっぱ……。そりゃ、そうだよ……ね……」 雪洋と約束したわけではない。 あちらに行けと言われたくらいなのだから、ここに雪洋がいる保証など、はなからなかった。 来る

【小説】太陽のヴェーダ 先生が私に教えてくれたこと(12)

(第1話/あらすじ) 着替えを終えて、二人で食卓を囲む。 泣いた後だから味がわからない。 「先生、どうしたら先生のようになれますか?」 唐突に美咲は問いかけた。 あんなふうに癇癪を起こしても、結局何もいいことはない。自己嫌悪だけが残る。そんなのは、もう疲れた。 「私も先生みたいに、穏やかに笑って、見守っている側の人間になりたいです。先生みたいに『特技・平常心』って履歴書に書きたいです」 「そんなこと書いたことありませんよ」 雪洋が声を上げて笑う。 笑いがやむと、雪洋

【小説】太陽のヴェーダ 先生が私に教えてくれたこと(9)

(第1話/あらすじ) 「すっきりしたでしょう? 今まで言いたかったこと、粗方言えたんじゃないですか?」 横になった美咲は、ベッドに腰掛けている雪洋から顔を隠すように夏掛けを口元まで引き上げた。さっきまでの自分の乱心を思い出すと恥ずかしくていたたまれない。 「本当は止めたくなかったんですけどね。叫び足りないなら明日また聞いてあげますよ」 「いいですもう……。自己嫌悪で立ち直れません」 すっかり毒気の抜けた美咲を見て取り、雪洋は話し始めた。 「美咲はね、いわゆる人生の岐

【小説】太陽のヴェーダ 先生が私に教えてくれたこと(8)

(第1話/あらすじ) 深夜、美咲の部屋のドアを軽くノックする音。 部屋に滑り込み、足音もなく颯爽とベッドのそばに近付く気配。 夏掛けがそっとはぎ取られる。 「やっぱり」 白衣を着た雪洋がため息をつく。 美咲は涙まみれで泣きじゃくっていた。 すみません―― 声も出ない。 目の前で揺れる、羽織っただけの白衣の裾に美咲は手を伸ばした。 「どうしてあなたは……白衣だと素直なのに……」 しがみついている美咲を見て、雪洋はまたため息をついた。ベッドに腰掛け、美咲の頭に優しく

【小説】太陽のヴェーダ 先生が私に教えてくれたこと(7)

(第1話/あらすじ) 「血管炎……?」 「正確には、『顕微鏡的多発血管炎』と言います」 雪洋から告げられた病名はまったく聞いたことのないものだった。「何ですかそれ」と尋ねると、雪洋はわずかな間を置いて答えた。 「特定疾患です」 え? と声が出た後は沈黙が流れた。 我が耳を疑う。 雪洋は美咲の思考が追いつくまで見守っている。 「特定疾患……って、あの、お国が定めた、あの特定疾患ですか?」 「はい。その特定疾患です」 ということは、それは、つまり…… 「難病ってこと…