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【小説】太陽のヴェーダ

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どう見ても異常があるのに「異常なし」しか言わない医者たちに失望した美咲。悪化した美咲に手を差し伸べたのは、こうさか医院の若き院長、高坂雪洋。雪洋の提案は、一緒に暮らすことだった。…
小説の本編は無料で読めます。番外編や創作裏話などは有料になることが多いです。
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#告白

【小説】太陽のヴェーダ 先生が私に教えてくれたこと(36:最終回)

(第1話/あらすじ) 花火の打ち上げはとうに始まっている。 華やかな音と彩りに急かされながら丘を登り、頂上が見えたところで美咲は足を止めた。 万が一雪洋が誰かと来ていたら、そっと帰ろうと思っていた。 花火の明るさを頼りに目を凝らす。 だがそこには「誰か」のみならず、人影はひとつもなかった。 「いない……か、やっぱ……。そりゃ、そうだよ……ね……」 雪洋と約束したわけではない。 あちらに行けと言われたくらいなのだから、ここに雪洋がいる保証など、はなからなかった。 来る

【小説】太陽のヴェーダ 先生が私に教えてくれたこと(35)

(第1話/あらすじ)   ●螺旋の指輪 約束の日。 美咲は出勤日ではないが、沢村は仕事をしている。花火大会は十九時からの開催。図書館を閉館してから落ち合う手筈だ。 「俺のことは待たせていいから、ゆっくりおいで」と言われていたが、美咲は早めに身支度を整え、家を出た。 沢村が指定した場所には植え込みがたくさんあり、ふちに腰かけて待つことができた。待っている間も体に負担がかからないようにと、気を利かせてくれたに違いない。 「本当に沢村さんとなら、上手くやっていける……」

【小説】太陽のヴェーダ 先生が私に教えてくれたこと(32)

(第1話/あらすじ)   ●三十人のうちの一人 日曜日。 館内は平日より利用者が多く、職員はほとんどが対応に追われている。 沢村はいつものように書庫にこもっていた。 美咲もいつも通り、沢村の手伝いをしながら業務をこなしていた。 沢村はいつもと変わらない態度で美咲に接してくれた。いつも通り美咲に仕事の指示をし、いつも通り雑談もする。 でもそれは沢村の優しさであって、いつまでも甘えていいものではない。 早く、決着をつけなければ―― 「沢村さん、ファイル持って来ました。

【小説】太陽のヴェーダ 先生が私に教えてくれたこと(31)

(第1話/あらすじ) 約束通り、勤務を終えた瀬名が車で送ってくれた。ぐっすり寝たおかげで、体がだいぶ軽い。 最寄りの駅前で降ろしてもらい、スーパーで買い物をする。自宅までそう遠くはないが、買い物は体に負担がかからないよう、時間も重さも必要最低限に留めた。 外のベンチに座ると、美咲は深く息を吐いた。 今日はいろんなことがありすぎた。 深い呼吸を繰り返し、心を静める。 落ち着きを取り戻すと、今度は意識を巡らせ、内側から体を見つめた。――たしかに軽くはなったが、やはり不調は

【小説】太陽のヴェーダ 先生が私に教えてくれたこと(30)

(第1話/あらすじ) 高坂総合病院、皮膚科診察室。 「さて、問診をしようか」 瀬名がメガネを指で押し上げた。 レンズ越しに美咲を眺める様は、間違いなく楽しんでいる。 「あの付き添いの男性は?」 「……職場の方です」 「一昨日、昼に喫茶店で一緒だった人?」 「……そうですけど」 「プライベートの付き合いは?」 「瀬名先生、それって問診ですか?」 「大事な問診だけど?」 はあ、そうですか、とあきらめる。 「……付き合ってほしいと言われました」 「いつ?」 「……さっき」

【小説】太陽のヴェーダ 先生が私に教えてくれたこと(29)

(第1話/あらすじ)   ●問診 その日の午後、想定外の体力仕事が課せられてしまった。公民館での催し事の準備に、美咲が助っ人として駆り出されたのだ。 脚立を運んだり、展示物を飾る台やパネルを設置したり。正職ではない美咲がこういった助っ人仕事をするのは時々あったが、連日足へ負荷がかかることだけは、心底避けたかった。明日木曜日は、学級文庫を選ぶ作業があるというのに。 「これからは……公民館側の予定も、チェック……しておこう……」 重量物を持って、すでに階段を五往復していた