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【小説】太陽のヴェーダ

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どう見ても異常があるのに「異常なし」しか言わない医者たちに失望した美咲。悪化した美咲に手を差し伸べたのは、こうさか医院の若き院長、高坂雪洋。雪洋の提案は、一緒に暮らすことだった。…
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2023年6月の記事一覧

【小説】太陽のヴェーダ 先生が私に教えてくれたこと(21)

(第1話/あらすじ) 「美咲! どうしました!?」 雪洋の声―― 倒れたおかげで頭に血が巡り始めたのか、めまいは少し治まっていた。 「水を何回も流す音がしたから心配していたんです。嘔吐ですか? 下痢ですか? 倒れたとき頭は打っていませんか?」 ゆっくりと体を起こされる。 頭に異常がないか、雪洋が指先で探っている。 「頭は平気……。おなか、急に痛くなって……便意が、何回も、何回も……」 「下痢ですか?」 美咲はかすかにうなずき、でも、と唇を動かした。話すのがひどく億劫

【小説】太陽のヴェーダ 先生が私に教えてくれたこと(20)

(第1話/あらすじ)   ●体からのサイン 元気になります、と宣言したものの、その後美咲の体調はいまひとつ冴えなかった。 雪洋が土曜日の午前診療をしている間に昼食の用意をしてみたが、いつも以上に疲労感がある。 食欲よりも睡眠欲の方が強い。 『少し調子が悪いので休みます』 雪洋宛のメモの筆跡が我ながら弱々しい。 ベッドに潜り込む。――至福の時。 疲れと意識が、心地よくベッドに吸い込まれていった。   美咲、と伺うような囁き声がした。 薄目を開けると、雪洋がのぞきこ

文学フリマ岩手8 出店します

6月18日(日) 文学フリマ岩手8に出店します。 サークル名:和楽風天 ブース:ウ-13 ・Webカタログはこちら ・文学フリマ岩手8のご案内はこちらをご覧ください ■新刊 『体験記 体の調子を整える』 マガジン『体の調子を整える』を中心に8編収録。詳細はWebカタログをご覧ください。 内容に大きな変更はありませんので、本でほしい方向けです。 新刊制作の話↓ ■既刊 『太陽のヴェーダ 先生が私に教えてくれたこと』は、本編全5巻セットで販売します。 バラ売りはし

【小説】太陽のヴェーダ 先生が私に教えてくれたこと(19)

(第1話/あらすじ) 冷えた体でベッドに座ったところで、美咲はぱっと顔を上げた。 「そうだ先生、好きな人いないんですか?」 「――え?」 雪洋の虚を衝いたようだが構わず続けた。 「好きな人です、好きな人! いないんですか? いい若いモンなのに」 「……どうしたんですか急に」 それまでの鬱々していた気持ちが嘘のように、美咲の心はすっきりと晴れ渡っていた。 「先生だって私と年、そんな変わらないでしょう?」 美咲の質問に、雪洋はベッドに腰掛けながら「三十二です」と答え

【小説】太陽のヴェーダ 先生が私に教えてくれたこと(18)

(第1話/あらすじ)   ●月夜の誓い 少し欠けた月が天高く座し、冴え冴えとした光を注いでいる。美咲は窓辺にイスを寄せて、月をぼんやりと見ていた。 心は、五年前を漂っていた。 最初の病院で「異常無し」と言われた時は、素直にそうなのかと思った。 だが一向に治る兆しがなく、病院を変えた。 そしてまた、「原因不明」とか、「検査結果は異常無し」などと言われた。 とりあえずで出された薬。 症状は一時的に治まったが、結局治らなかった。 そんなことを何度も繰り返し、行き着いた

【小説】太陽のヴェーダ 先生が私に教えてくれたこと(17)

(第1話/あらすじ) 「美咲っ?」 二回目のコールが鳴る前に雪洋が出る。 「先……」 先生、と言いかけたところで手からケータイが抜けた。 「先生―? ワタシー!」 言ったのは瀬名だ。 美咲が呆気に取られていると、一瞬の間を置いてケータイから怒鳴り声が聞こえた。瀬名が耳からケータイを離して笑っている。 「こんな短時間にユキの怒鳴り声何回も聞くなんて、俺もついてるなー」 『こんな短時間に私を何回も怒鳴らせないでください!』 美咲の耳にも怒鳴り声が届いた。雪洋が怒鳴る