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生きる力

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戻ってきた実家での田舎暮らし。里山の風景。染みるご近所付き合い。親類のありがたみ。母から学ぶ農作業。できなくてもいい。知っておきたい。
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2021年11月の記事一覧

幼い頃私は、多分ジェンダーについて悩んでいた

父は男の子がほしかったらしい。私が生まれたとき「女の子ですよ」と言われた父は、がっくりと長椅子に座り込んだと聞いた。失礼な。 だからなのか、父は幼い私に、段ボール工作の本を買い与えたことがある。私はそれを読み、昼間せっせと段ボールであれこれ作り、夜帰宅した父にそれを披露していた。 庭で遊ぶときは、父が使っていいと許可したノコギリや金槌で大工さんの真似事をした。子供の力ではなかなかノコギリの刃が木材へ真っすぐ入っていかない。釘も打つと曲がってしまう。父は時々、少ない言葉で指

初めての大冒険は幼稚園バスで

幼稚園児だった頃。朝と午後、幼稚園バスに乗ると、座る場所はなぜかいつも、同じ席だった。毎日毎日、吸い込まれるように同じ席へ座った。 多分、初めてバスに乗ったときに座ったのが、たまたまそこだったのだと思う。幼稚園での私は人見知りが激しかったから、バスの中で顔を上げることができず、うつむいたまま視界に入るその席へ座り、その後も座り続けたのだろう。おかげでよく乗り物酔いをした。 幼稚園へは2年間通ったが、その席しか知らずに、そのまま卒園するものだと思っていた。それがある日。なぜ

大空をゆく

愛犬との朝の散歩。天気はいいが、その分朝晩の空気がピリッと冷える季節になってきた。いつものように庭を抜けて、畑へ向かう。すると先に畑へいた母が、空を指さして叫んだ。 「早く早く! あれ見て!」 木々に遮られ、母が指さす方向が見えない。愛犬と駆ける間、ギャアギャアという鳥の声だけがやたらと聞こえた。ようやく空が見えたその瞬間―― ひときわ大きいギャアギャアという鳴き声とともに、渡り鳥の、今までに見たことがないほどの大編隊が、私たちの頭上をかすめていった。 とんでもなく、