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2022.11.16 〜調理場という戦場〜

人生で大きな変化があったとき、何度も読み返している一冊。出産を控えたタイミングでまた手にとってみたけれど、やっぱり今回もとてつもなく勇気づけられた。

私には3冊ほど、お守りのように大切にしている本がある。10年に1回くらいそうした1冊に出会う。どれも自分の生きる指針に対して、強い影響を与えてくれた。
「調理場という戦場」は、その3冊のうちの1冊だ。(ちなみに残りの2冊は小川洋子の「猫を抱いて象と泳ぐ」と、佐藤多佳子の「黄色い目の魚」である)
自分の仕事への原動力は、こうした「お守りのような本」に、ひとりでも多くの人が出会う機会を作りたい、という想いだ。

「調理場という戦場」は、三田にあるフレンチレストラン『コート・ドール』のオーナーシェフ、斉須政雄さんが、二十三歳で単身パリに修行に向かい、日本に帰国して『コート・ドール』を開く経験の中から得た、仕事論がみっちり詰まった作品である。

料理人だけでなく、あらゆる職種の人に響く言葉で溢れている。
私が特に印象に残った言葉をいくつか紹介させてほしい。

自分の常識に社会を振り向かせる気持ちでやっているなら、自分自身は天然のままで、作為のないまま輝くことができる

調理場という戦場

ひとつひとつの工程を丁寧にクリアしていなければ、大切な料理を当たり前に作ることはできない。大きなことだけやろうとしていても、ひとつずつの行動が伴わないといけない

調理場という戦場

毎日やっている習慣を、他人はその人の人格として認めてくれる

調理場という戦場

「これは、夢のような幸運だ」と思っているうちは、その幸運を享受できるだけの力がまだ本人に備わっていない頃だと思うんですよ。幸運が転がってきたときに「あぁ、来た」と平常心で拾えるときには、その幸運をつかめる程度の実力が宿っていると言えるのではないでしょうか。

調理場という戦場

斉須さんは、フランスで5店ほど渡り歩いて修行をしたそうだ。鬼のように忙しい日々、ロールモデルとなるオーナーの元での修行、志を共にできる友との出会い。料理人としての実力を身につけるだけでなく、組織づくりや経営面での学びを深め、自分の店を持つための準備を着実に着実に進めていく。
渡仏直後のフランス語が話せなかった頃、斉須さんは言葉で表現する代わりにひたすら職場と食材を観察したそうだ。そこで内省した結果が、その後の活躍や、この本に綴られた文章につながっているのだろう。

「調理場という戦場」を読むと、いつも背筋がピンと伸びるような心地になる。この本と共にいられる日々を、私はとても幸せに感じている。

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