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2022.06.26〜ヘルシンキ、生活の練習〜

二人のこどもと共にフィンランドに移住した社会学者が、日々を綴ったエッセイ。

フィンランドは幸福度が高い国とよく言われるが、その「幸福」と呼ばれるものの中には何が含まれ、人間としての幸せが国としてどう定義されているのか、筆者はその点について、実体験と共に解説してくれる。

例えばフィンランドは若者の権利を重要視しているので、保育サービスなどは労働者に与えられた権利ではなく、こども自身の権利に基づく思想から設計されている。そのため保育園、幼稚園という区分もない。
大学までの教育にお金がかからないのも、すべての若者に才能を活かす権利があるから、という考えからきている。(勿論そのぶん税金は高い)

そうした「公からもたらされるもの」への意識からか、フィンランド人の国民性として「必要であれば自分から助けを求めること」がとても大事にされているし、なにかトラブルが起きた際も、個人への責任追及より「システムのせいでは?」と考える人がいたりする。この辺は日本の「察する文化」「我慢する文化」とは大いに異なるので、筆者自身も新鮮な体験として記録している。

4章で語られた、こどもの特性に対する保育士たちの向き合い方は、とても印象に残った。「思いやりがある」「引っ込み思案」といった個々の性格と片付けられそうなこどもたちの特性は、「人の気持ちを察する力を習得している」「自分の気持を伝えることはまだ練習中である」という形で、「スキル」として捉えられ、「あらゆる特性はすべて練習して習得していくもの」として認識されている。
こどもたちに未発達な特性(スキル)の練習をさせるためには、どんなことをさせればいいのか、を保育士たちが検討し、実践していく。「人には優しくしましょう」と、ただただ言い聞かせるのではなく、行動として体感できる環境を作っていくのだ。

例えば楽器やスポーツも、何度先生から言われてもわからないけど、繰り返し練習したり、やり方を変えてみたら、ある日すんなりできた!みたいなことがよく起こる。何事も練習と実践だと言ってもらえると、とても背中を押されるような気がする。

もちろん物価が高いとか、税金が高いとか、フィンランドも暮らしにくいところもたくさんあって、そのことについても率直に語られている。
あの国はいい国!この国は住みにくい国!と一言で片付けず、政策ひとつひとつと、それを設計した思想や、国民に与えている影響などを学びながら、世界への理解を深めていきたいと思わされた。

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