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Nippon Soul / Cannonball Adderley

今回はアルトサックス奏者Cannonball Adderley Sextetの1963年東京公演を収録したライブ盤「Nippon Soul」を取り上げたいと思います。

as)Cannonball Adderley cor)Nat Adderley ts, fl, oboe)Yusef Lateef p)Joe Zawinul b)Sam Jones ds)Louis Hayes
1) Nippon Soul (Nihon No Soul) 2)Easy To Love 3)The Weaver 4)Tengo Tango 5)Come Sunday 6)Brother John On#1, 4~6 July 15, #2 , 3 July 14, 1963 Sankei Hall, Tokyo Producer: Orrin Keepnews Riverside Label

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日本は60年代に入り大物外タレの来日が始まりました。61年1月Art Blakey And The Jazz Messengers、62年1月Horace Silver Quintet、63年1月再びArt Blakey And The Jazz Messengers、そして同年7月Cannonball Adderley Sextetです。ジャズを真摯に受け止め、ジャズプレイヤーを本国とは比較にならない歓迎ぶりで受け入れる日本の聴衆の姿勢に、来日したミュージシャン達は精一杯の熱演で応えていました。本作も例外ではありません。
後年なおざりの演奏でお茶を濁す来日ミュージシャンによる演奏も無くはありませんでしたが、本作の演奏の充実ぶりは特筆に値します。当時の東京で来日ミュージシャンの演奏を受け入れる事の出来るキャパのハコはサンケイホール、厚生年金会館、銀座ヤマハホールくらいで、現在では枚挙にいとまがありませんが、本作はサンケイホールにて超満員の聴衆の前に初来日のCannonball Adderley Sextetはその全貌を明らかにしました。このメンバーで活動し始めておよそ1年半、脂の乗った素晴らしいコンビネーション、アンサンブル、インタープレイ、メンバー個々のアドリブソロ、選曲の妙、洒脱なCannonnballのMC、全てにバランスの取れたコンサートです。

1曲目はCannonballのオリジナルにしてタイトル曲Nippon Soul (Nihon No Soul)、和風のテイストは全く存在しない曲です。多分来日直前、若しくは来日中に曲が出来上がってタイトルがまだ決まっておらず、「大歓迎で迎えてくれた日本の聴衆へサービスしなきゃ。ついこの間出たHorace (Silver)の新作もThe Tokyo Blues(62年11月リリース)なんてタイトルだったし。Too Much Sake, Ah! Soなんて日本語のタイトルの曲も入ってたな、我々も負けちゃいられないよ。Tokyo Soulじゃあ二番煎じだからNippon Soulってのはどうかな」とばかりにこのタイトルを付けたのでしょう、ジャズご当地ソングの走りです。でも内容は相当ユニークなブルース・ナンバーに仕上がっています。「アメリカのミュージシャン、名前はCannonball Adderleyが書いた新曲をお送りします」と上機嫌のCannnonball自身によるありがちなギャグMCがあり(笑)、アメリカのジャズグループによる名誉ある最初の東京でのライブレコーディングを行う旨を伝え、実際日本フィリップス〜フォノグラム社がレコーディングを担当しました。曲がスタートします。曲の4小節目の1, 2拍目に可能な限り全員参加によるキメと吹き伸ばしがテーマ〜アドリブの最中毎コーラス入り、メチャメチャインパクトのあるアクセントになっていますが、管楽器によるメロディをピアノが受け継ぐのもジャズの基本であるコール・アンド・レスポンスを感じさせます。テーマが終わり、Sam Jonesのベースラインが浮き立ち、少しソロっぽいラインが聴かれます。Paul Chambersを彷彿とさせるタイムのOn Topさ、気持ち良いですね。ソロオーダーが決まっていなかったので途中からソロが始まったのかと思いきや、その後のアドリブ奏者全員アクセントの入る4小節目でソロを終えているので、ソロの開始は5小節目からという事になり、Jonesは先発ソロまでのリリーフだった訳です。その後5小節目から先発Natのコルネットソロ、やはりソロオーダーはしっかり決まっていたのですね。彼の正統派然としたスタイルには爽快感があります。続くソロはCannonball、それにしても物凄い音色です!これで生音が小さかったとは到底信じられません!強力にマイク乗りの良い音、効率の良い楽器の鳴らし方、アルトサックスの低音域から中音域を中心に、前人未踏の図太い音色、艶があってコクがあり、音の輪郭もくっきり、タンギングも絶妙です!常にクリエイティヴなチャレンジ精神を忘れないフレージングのアプローチはBenny Carterの流れを汲んでいますが、One & Onlyなテイストを確立しています。因みにCharlie Parkerの具体的な影響は殆ど感じられません。当時の彼の使用楽器ですがマウスピースはMeyer Bros. New York5番、リードはRicoかLa Voz、楽器本体はKing Super 20 Silversonic。彼のMCでの話しっぷりに通じる滑舌の良さ、明快な発音、聴衆を常に意識したはっきりとしたメッセージを受けて、ここで思い浮かぶのがサックス奏者Gerald Albrightのプレイです。実際AlbrightはCannonballのスタイルに影響を受けていると感じますが、正確なタンギングに裏づけされた超滑舌の良いフレージング、はっきりとしたメッセージ性、大好きなサックス奏者の一人です。余談ですがある日僕が楽器店に買い物で立ち寄ったところ、知っている従業員の女性が店の電話で話をしています。どうやら国際電話のようで会話にちょっと困ったような雰囲気です。僕を見かけるなりいきなり「達哉さんは英語喋れますよね?」「挨拶ができる程度ですよ」「私よりもきっと話をすることができるでしょうから、電話を代わってもらえませんか?」「マジっすか?」電話を代わると「Hi!, this is Gerald Albright!」いやはやびっくりしました。何に驚いたかと言えばAlbrightが電話口の向こうにいる事よりもその発音と滑舌の良さにです!彼の演奏をまさに耳にしているかの如く、猛烈な早口にも関わらず明瞭なイントネーションとはっきりとした話し方、電話は相手の顔が見えないので細かいニュアンスが伝わり難いはずですが、Albrightは相手に何を伝えたいかが明確に根底にあるので、実に聞き取り易い英語です。電話の内容は購入したマウスピースを交換したいという事だったと従業員嬢に伝えましたが、Albrightの英語が分かり易かっただけなのに彼女には僕が英語をよく喋れる人と思われました(爆)。Albrightとの電話で話し方と滑舌、喋る内容のメッセージ性は確実に演奏に出るものだと強く実感しました。話が些か横道に逸れてしまいましたが、素晴らしいCannonballのアルトに続くのはLateefのフルートソロです。声を出しながらフルートを演奏するのはRoland KirkやJeremy Steigを彷彿とさせますがLateefの方が寧ろ先駆者かも知れません。Cannonball, Nat, Lateefの3管は全く異なった個性を表現してCannonball Sextet内でしっかりと自分達の役割分担を行なっています。ソロのラストの「吹き切った!」感がハンパなく、オーディエンスのアプラウズが然もありなんです。続くJoe Zawinulのソロ、オーソドックスなスタイルに専念しています。この人はソロプレイヤーというよりも常にコンポーザー、オーガナイザー、プロデューサー的な立ち位置で音楽に向かっているように聴こえます。Cannonballとはウマがあったのでしょう、61年からおよそ9年間バンドに在籍していました。
2曲目、さあお待ちかねCannonball On Stageです!♩=330! 超高速アップテンポのナンバー、本作白眉の名演Cole PorterのEasy To Love、冒頭ドラムスとアルトのデュエットで始まりテーマに入りますがなんと艶やかでブリリアント、猛烈なスピード感でいてリズムがどっしりしているのでしょう、そして何しろ色っぽいのです!63年の東京でこんな演奏が行われていたなんて、日本人として大変名誉な事です!未聴の方はとにかく一度耳にして下さい!僅か3:46の収録時間にジャズの醍醐味を全て感じることが出来る演奏です!テーマやソロ中で聴かれる管楽器のアンサンブルもカッコ良くて適材適所です。一人吹きっきり状態でリズムセクションが悲鳴をあげる寸前にドラムスと4バースが始まりますが、物凄い集中力でCannoballと丁々発止のやり取り、その後ラストテーマに無事到達しました。レギュラーグループだからこそなし得ることが出来る超絶ハイクオリティな演奏です。

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3曲目はLateefのオリジナルThe Weaver、CannonballのMCによるとメンバー全員の友人New York在住のLee Weaverに捧げられたナンバーだそうです。こちらもブルース、エキゾチックなイントロから何ともユニークなテーマに突入します。Weaverさんの雰囲気のようなサウンドの曲だそうですが、一体どんな人物なのでしょうか、興味が尽きません。先発Cannonnballのソロは絶好調ぶりを遺憾なく発揮しています。続くLateefは野太い音色でフレージングに時折マルチフォニックス(重音奏法)や効果音的なオルタネート・フィンガリング、タンギングを駆使し、他の二人には無い危なさ、異端ぶりを聞かせてくれます。Natのソロの実に安心して聴けるスインガーぶりが場面を活性化させています。彼のフレージングにはDizzy Gillespieの影響も感じます。オーソドックスなスタイルでの演奏に徹するZawinul、後に展開するWeather Reportの片鱗を微塵も感じさせません。ここまでがレコードのSide Aです。
4曲目はAdderley兄弟の共作によるジャズタンゴTengo Tango、新曲でNatのネーミングだそうです。速いテンポのタンゴですが曲の中身はこちらもブルース、当時のジャズメンはジャズに様々なリズムを持ち込もうと健闘していたように感じます。Cannonballのゴージャスにしてアグレッシブなソロのみフィーチャーされた短い演奏ですが曲想、メロディ、リズム、ソロのバックグラウンドの構成、いずれにも緻密な工夫がなされ印象に残る演奏に仕上がっています。

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5曲目はZawinulとJonesの二人をフィーチャーしたDuke Ellingtonの名曲Come Sunday、Zawinulのアレンジが光ります。このような6人編成の大所帯バンドでピアニスト、ベーシストのみにスポットライトを当てられるのはレギュラーバンドならではの特権です。曲の終わりの方に出てくる3管によるハーモニーがまさにEllingtonサウンド、そしてアンサンブル内で聴こえるCannonballのアルトの音色からEllington楽団の名リードアルト奏者、Johnny Hodgesばりの芳醇なビブラートやニュアンスを感じます!美しい!
6曲目アルバムの最後を飾るのはLateefのオリジナルで彼の仲の良い友人John Coltraneに捧げたBrother John、アップテンポ3拍子のややモーダルな雰囲気の曲です。Lateef自身のoboeによるメロディ奏がフィーチャーされます。ジャズサックス・プレイヤーでoboeを巧みに扱えるのはこの人くらいでは無いでしょうか?Coltraneのソプラノサックス演奏を感じさせますが、中近東近辺のエスニックサウンドのようにも聴こえます。その後Natのソロ、最低音域を使ってトロンボーンの様な音色を聴かせます。Cannonballも曲想に相応しいアプローチを取るべく健闘していますが、本作収録63年はColtraneのモーダルなサウンドが熟した頃、その演奏を聴いてる耳にはこの演奏はハードバッパーが頑張ってモーダルサウンドに挑戦しているように聴こえてしまいます。確かに餅は餅屋ですがCannonballがMiles Bandでの盟友Coltraneの音楽を、日本のファンに自分なりの形で披露したかったのかも知れません。

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