短編映画脚本 "Noël in July for Lover" from Nighthawks (2023)

概要

シナリオの授業の課題として執筆した脚本です。第3稿です。テロップやナレーションを使わないという条件がありました。ドーム型の巨大不思議空間「真空地帯」を舞台とする『Nighthawks』シリーズの内の一つです。今作は本文20ページ前後という制限のある短編映画想定脚本だったので、物語は短編用にアレンジが加わっています。本文ページ数は23ページ。タイトルやキャラクターの名前はmiletやTaylor Swiftなど大好きなシンガーたちの楽曲などから。

登場人物

ノエル・ミレー / Noel Milet(16)
男性
真空地帯
 
オーガスト・テイラー / August Taylor(22)
男性
外の世界
 
チャーリー・ペリー / Charlie Perry(16)
女性
真空地帯
 
ベティ・アルウィン / Betty Alwyn(20)
女性
外の世界
 
カーリー・オコネル / Carly O'Connell(21)
女性
外の世界

脚本

一人称イメージ映像・パーティー会場・夜

音楽が大音量で鳴り響き、光が激しく点滅する会場で、体を揺らしたりダンスしたりする大勢の人々。
人々の中心で不安げな表情をしながら周囲を見渡すノエル。
ノエル、人々の隙間から、体を揺らすオーガストを見つける。
ノエル、咄嗟にオーガストの方へと歩き出す。
ノエル、必死に人々を掻き分けてオーガストの近くまで来る。
ノエル、手を伸ばそうとするが、人々が邪魔で届かない。
人々がノエルの視界を遮る。

外の世界・モーテル・室内・朝

勢いよく開くノエルの目。
ノエル、ゆっくりとベッドから上体を起こす。

ガソリンスタンド&ダイナー・昼

窓際のテーブル席に一人で座りサンドイッチを食べるノエル。
窓の外に視線を送るノエル。
手前の駐車場に駐車されている黄色のベスパ、車通りの多い田舎の道路、道路の向かい側を順番に見るノエル。
ノエル、食事する手が一瞬止まるも、視線を前に戻し急いでサンドイッチを平らげ、外に出る。
ベスパの目の前に歩いていき、座席にある収納スペースを開けるノエル。
ノエル、収納スペースにあるヘルメット二つのうち一つを手に取り装着すると、エンジンをかけその場を後にする。

墓地・昼

目を閉じ俯き両手を組んで祈りを捧げているノエルの右顔。
ゆっくりと顔を上げ目を開けるノエル。
腰を上げ立ち上がるノエル。
ノエル、目の前の墓標に書かれたオーガストの文字を見ながら
ノエル「ただいま。帰ってきたよ」
墓標の上部を撫でるノエル。
ノエル「行ってきます」
同じ型の墓標が均等に並べられ画一的に整備された墓地を後にするノエル。

ライ麦畑・午後

田舎の細い一本道の傍らにベスパが駐車されている。
腰の高さのライ麦で一面覆われた空間。
ノエルはライ麦を掻き分け進んでいく。
突如目の前に壁も屋根もトタンで作られたボロボロの小屋が現れる。
ノエル、小屋の入口の前で立ち止まる。
ゆっくりと扉を開ける。

真空地帯・ノエルの家・三年前・5pm

玄関が開きノエルが帰宅する。
ノエルの衣類には粉雪がついている。
キッチンで食事の準備をしていた母が玄関の前までやってくる。
母「こんな時間までどこほっつき歩いていたの?あれ、チャーリーは?」
ノエル「チャーリー?一緒じゃないよ」
母「一緒じゃないって。もう夜になるんだから。ほら、早く迎えに行ってきて」
ノエル、不機嫌そうな顔になり
ノエル「なんでさ」
母「なんでって。昔からそうでしょ。今更」
ノエル「それもあるけど。そうじゃなくて」
母、ノエルの顔を覗き込み
母「どうしたの?そんな顔してそう言って」
ノエル、口を一瞬ムッとしつつも
ノエル「迎えに行ってくる」

ノエルの街・広場・5pm

小さい雪がゆっくり降っている。
クリスマス一色で賑わいを見せる広場。
食事や買い物を楽しんでいる人々。
広場を一人早歩きで歩くノエル。

ノエルの街・チャーリーの家・5pm

住宅街に並ぶ家々の窓から住人がパーティを楽しんでいる様子が漏れている。
チャーリーの家の前に立ちドアベルを鳴らすノエル。
家の中からバタバタと騒がしい音が聞こえ、玄関が勢い良く開く。
チャーリー「はーい」
ノエル「僕だよ。迎えに来た」
チャーリー「丁度良かった。いつもより迎えが遅いから向かおうって話していたところ」
ノエル「ごめん」
チャーリー「いいよ。反抗期とか思春期なんだから」
ノエル「うるさいな。ほら、行くよ」

ノエルの家・6pm

玄関を開け家に入るノエルたち。
ノエル「ただいま」
母「おかえり。あら、チャーリー。なんだか久しぶりね」
チャーリー、ノエル母とハグを交わし、
チャーリー「お久しぶりです」
チャーリー父がチャーリーの横にやってきて、ノエル母とチャーリー父がハグを交わす。
チャーリー父「いつもこうして招待いただきありがたいです」
母「いいえ。毎年の楽しみですから」

ノエルの家・ダイニング・7pm

食卓に七面鳥やワインが並んでいる。
ミレー家とペリー家が合同で賑やかなクリスマスパーティを楽しんでいる。
ノエル、黙々と食事を口に運んでいるが、その表情は固く楽しそうでない。
チャーリー、隣に座るノエルの顔を横目に見る。

ノエルの家・9pm

リビングで両家の大人たちがリラックスしながら談笑をしている。
ノエル、カーテンを全開に、外の明かりだけで照らされた薄暗い部屋の中で、机に向かい日記を書いている。
「ここ数回のクリスマスはいつも困ってしまう。家族にもチャーリーにも、そして何より自分にも。接し方が分からない。どうしてだろうか。」と記述されたノエルの日記。
部屋の扉が外からノックされる・
チャーリー「ノエル?入るよ」
扉が開く。
ノエル「やあ。チャーリー」
チャーリー「もうそろそろ帰ると思うから。大丈夫?気分が優れない?」
ノエル「うん。ごめんね」
チャーリー「謝らなくていいよ。今のノエルのこと私はあまり分からないけど、私がそうした時みたいに、いつでも頼ってもいい」
ノエル「ありがとう。君はずっと良い人だ」
チャーリー、口角を上に上げる。
チャーリー「じゃあ、また明日」
ノエル「おやすみ。そうだ。メリー・クリスマス。」

ノエルの家・3am

ベッドで眠るノエルの顔。
三年前のノエルに切り替わる。

ノエルの家・回想の夢・更に三年前・11pm

サイレンの音とサイレンランプの光が窓から部屋に漏れている。
ベッドで寝ているノエルが目を覚ます。
ノエル、起き上がり窓の外を見る。
街の向こうに見える北の山の辺りから煙が上がっていて、パトカーや消防車は街を絶え間なく走っている。
ノエル、ふと空を見上げる。
無数の星の光に混じって、強く光を放つ穴のようなものが発生しているのを見つける。

ノエルの家・3am

三年前の回想の夢から目が覚めるノエル。
体を起こし、しばらく静止した後、窓の方にゆっくり視線を向けるノエル。
起き上がり窓の前に立ち、外を眺めるノエル。
北の山に注目するノエル。
急いで服を着替えるノエル。
ノエル、部屋の扉をこっそり開け、忍び足で廊下と階段を歩く。
リビングに飾られたクリスマスツリーの下に沢山の未開封のプレゼント。
ノエル、玄関に到着し、扉をゆっくりと開けて外に出る。

街・3am

ノエルの家の庭に立てかけられた青の自転車に乗り込むノエル。
ノエル、北の山が望める道に出ると、一直線に向かって自転車を漕ぐ。
街外れに入り道に傾斜がかかる。
坂道を自転車で登るノエル。
フェンスで封鎖され整備がされていない道の前にノエルが止まる。
ノエル、ゆっくりと自転車を降り脇に止める。
フェンスの奥へと歩みを進めるノエル。
ノエル、背の低い木や不安定な足場をかわして歩いている。
目の前に開けた空間が現れる。
ノエル「ここは……」
開けた空間の中央には白い扉がある。
ノエル、扉の前まで歩みを進め、扉のドアノブに触ろうとする。
ドアノブに手が接触する直前で手が止まる。
警戒して強張っているノエルの顔。
ノエル、手を引いて振り返り、来た道を戻る。
ノエルの背後から扉が開く音がする。
ノエル、振り返ると、扉が半開きになっている。
動きを止め、扉を見つめるノエル。
再度扉に近づいていくノエル。
ノエル、ゆっくりとドアノブへと手を伸ばし、力強くドアノブを握る。
ノエル、ドアノブを回し、扉を開ける。

外の世界・ライ麦畑・早朝

ノエルが扉をくぐり外に出る。
トタン小屋から出てくるノエル。
辺り一帯にライ麦が広がっている。
ノエル、困惑の表情を浮かべる。
ノエルの背後から前方へと風が吹き、ライ麦が一斉に揺れる。
ノエル、前方へと歩き出す。
ライ麦を掻き分けて進むノエル。
舗装された細い道に出てくる。
ノエルの右方向から車が走る音が聞こえてくる。
ノエル、道を右に進む。
ノエル、大きい車道に出てくる。
ノエル、車道の先の遠くに街の明かりを見つける。
拳を握るノエル。
ノエル、街の方向へと歩き始める。

道沿い〜ダイナー付近・早朝

ノエル、額に汗をかき、息を切らして歩いている。
ノエル、疲れ果て道の脇の茂みの前に腰を下ろす。
ノエル、おもむろに着ていた上着を脱ぎ始める。
ノエル、空が少し明るくなっていることに気づき表情が変わる。
ノエル、上着をその場に置いたまま腰を上げ、茂みの獣道へと歩いていく。道路の向かい側にあるガソリンスタンドでノエルの様子を観察しているオーガスト。
茂みに入っていくノエルを見て不審な表情を浮かべるオーガスト。
ノエル、高台に着く。
ノエルの目の前には広大な自然の風景が広がり、日の出が出始めている。
ノエル「凄い。起きたまま夢を見てるみたい」
ノエル、突然ふらつき倒れ込む。
ノエルの背後からオーガストがやってくる。
オーガスト、倒れているノエルを見つけ、ノエルを抱えてその場を後にする。

オーガストの家・寝室・夜

ベッドで寝ていたノエルが目覚めベッドから起き上がる。
ノエル「ここは?」
ノエル、部屋を歩き回り、棚の上のスノードームを見つける。
ノエル、スノードームに手を触れようとする。
玄関が開いてオーガストが家に入る。
オーガスト「やぁ。起きたね。体調はどう?」
ノエル「大丈夫です……あの、ここは?」
オーガスト「ここは僕の家。僕はオーガスト。君が倒れていたところを通りがかってね。勝手に連れてきて申し訳ない」
ノエル「いえ。助けてくれたんですね。ありがとうございます」
オーガスト「見ない顔だね。どこから来たんだ。家まで送ろう」
ノエル「家……」
ノエル、俯いて首を横に振る。
オーガスト「そう。もし頼りがないならこの家に住めばいい」
ノエル「そんな」
オーガスト「僕もちょうどこの間帰ってきたばかりなんだ。僕以外はもう誰もいないから部屋は余っている。だから大丈夫」
ノエル「……ありがとうございます」
オーガスト「僕の子供時代の部屋を貸すよ。でも今日はもう遅いから、このベッドで寝て。じゃあ、おやすみ」
ノエル「おやすみなさい」

オーガストの家・子供部屋・朝

ベッドの上で本を読んでいるノエル。
サイドテーブルに本が積まれている。
オーガストが部屋にやってくる。
ノエル、本を読むのを止める。
オーガスト「僕のことでいちいち気を使わなくていいよ。本が好きなのか?」
ノエル「本を読むぐらいしかすることがなかったんです。昔は体が弱かったし。でも本は大好きです」
オーガスト「この部屋の本は全部僕のものだから自由に読むといい。ところで、今から出かけようと思ってたんだ。よかったらこの街を案内するよ」

オーガストの街・昼

オーガストとノエルを乗せた黄色のベスパが街を走っている。
図書館の前にベスパが止まる。
オーガスト「この周辺が街の中心。そしてこれが図書館だ。君も気にいるだろう」
図書館の曲がり角からベティが歩いてきて、オーガストを見つけ駆けつける。
ベティ「オーガスト!やっぱり帰ってきていたのね」
オーガスト「ベティ!偶然だね。久しぶり」
ベティ「今度いつものパーティするのよ。オーガストも来るでしょ?あれ、その子は?」
オーガスト「ああ、この子はノエルだよ。向こうの友達の弟を預かっているんだ。な」
ノエル「えっと……ノエルです。よろしくお願いします」
ベティ「へえ、オーガストも大変だね。よろしくノエル君。私そういえば待ち合わせしているんだった。じゃ。パーティ来てね〜」

オーガストの家・朝

オーガストがベッドから起き上がり、部屋からリビングへと歩いていく。
ノエルがキッチンに立っている。
オーガスト「驚いた。おはよう。助かるよ」
ノエル「これくらいは当然ですよ」

オーガストの家・朝

ダイニングテーブルに向かい合って座って食事をするノエルとオーガスト。
オーガスト「美味しいね。とても初心者とは思えない」
ノエル「ありがとうございます。本当に初心者ですよ」
小さめのテレビからニュース番組が流れている。
オーガスト、テレビに注目する。
ノエル、つられてテレビを見る。
ノエル「これは?」
ノエル、オーガストを見る。
オーガスト「ついこの間、海の向こうで戦争が始まったんだ。この国もどうせ参加することになる」

ベティの家・庭・夜

カラフルな照明と大音量の音楽が流れている庭の中心で大勢の若者が自由に踊ったり弾んだりしている。
庭の中心でオーガストが一人で音楽に乗っている。
ベティがオーガストの元へと近づく。
ベティに気づいたオーガストはベティと共に楽しそうに踊り始める。
庭の端に置かれた椅子に座って、ドリンクを片手に、オーガストのことを一人で観察しているノエル。
カーリーがノエルの隣の椅子に座る。
カーリー「君がオーガストの連れてきた子?」
ノエル「はい、そうですけど」
カーリー「私カーリー。オーガストとかベティの友達。」
ノエル「ノエルです」
カーリー「ずっとオーガストのこと見てどうしたの?」
ノエル「いや、オーガストとベティ、さんってどういう関係なのかなって」
カーリー「ああ、昔付き合ってたんだよ。見ての通り、今も仲は良いけど」
ノエル「へえ…」
カーリー「でも面白いね。友達の弟を地元に連れてくるなんて。仲いいね」
カーリーの元にカーリーの友達がやってくる。
カーリーの友達「ねえカーリー。ちょっと」
カーリー「ん?分かった。今行く」
カーリー「ごめん、また後でね」
ノエル、再び一人になり、オーガストの方を見る。
楽しそうに踊るオーガストとベティ。
その様子を無言で見つめるノエルの顔

街・夜

自転車を走らせるノエルとオーガスト。
オーガスト「途中から放置してすまなかった。カーリーたちと話したんだって?」
ノエル「最初すぐどっか行っちゃったんですけど。また戻ってきてくれました」
オーガスト「それは良かった」
ノエル「でも、一人も知り合いが居ないから心細かったです」
オーガスト、ノエルの顔を見る。
ノエル、オーガストを見つめる。
オーガスト「この近くにとっておきの場所があるんだ。寄って帰ろう」

川辺・夜

木の下に二つの自転車が横たわっていて、木の根元に荷物が置かれている。
オーガストが川の中に足首まで浸かっている。
オーガスト「ここは昼間でも人が少なくて、昔から僕の隠れ家にだったんだ」
ノエル、ゆっくりと足を川に入れる。
ノエル「つめたっ」
オーガスト、笑いながら
オーガスト「最初は冷たいぐらいが心地良い」
ノエル、時間をかけながらも両足を川に入れ、オーガストの方へ歩き出す。
オーガスト、ノエルに近づいて、ノエルに向かって水を蹴る。
ノエル、すかさずオーガストに向かって水を蹴ろうとする。
ノエル、勢い余って尻餅をつく。
オーガスト、ノエルの前に立つ。
ノエルの前に差し出されたオーガストの左手。
ノエル、オーガストの左手を掴もうとする。

一人称イメージ映像・パーティー会場・夜

音楽が大音量で鳴り響き、光が激しく点滅する会場。
ノエルの視界の先には、パーティを楽しむ人々と、少し奥にオーガストの背中が見える。
ノエル、また人々を掻き分けてオーガストの元へと進む。
会場の光の点滅が早まる。
ノエル、勢いづいて前に進む。
ノエル、オーガストのすぐ近くまで到達し、オーガストの手を掴む。
オーガスト、驚いて後ろを振り返る。
オーガスト、ノエルの顔を見る。
ノエル、オーガストにハグをする。
オーガスト、困惑しつつも手をノエルの背中に回す。
暫くした後、オーガストがハグを解消させる。
顔を見合わせるノエルとオーガスト。
オーガストが微笑む。
オーガスト、後ろを振り返る。
ノエルの視点からオーガストが消える。

川辺・夜

オーガストを見るノエルの顔。
ノエルを見るオーガストの顔。
ノエルとオーガストが手を握っている。

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