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ケーキセットとコーヒーゼリー

「彼女と別れたんだって?」
「誰から聞いた?」
「俺の彼女」
「え?」
「俺の彼女の友だちの兄貴の彼女がおまえの彼女と友だちでさ」
「はぁ…そいつ誰?って聞いても多分オレわかんないだろうな」
「彼女の友だちとか把握してない?」
「キノちゃんって子とアイナちゃんって子は紹介された」
「どちらも安全牌キャラだな」
「オマエよくわかるな。そのとおり。キノちゃんは二次元にヨメのいる子で、アイナちゃんはマッチョな彼氏がいる子だ。アイナちゃんはまだ彼女の友だちと言われても頷けるが、キノちゃんは全くジャンルが違うと思ったんだよな」
「でも可愛かったろ?キノちゃん」
「え?そのキノちゃんがそのオマエの彼女の…って子?」
「いや。キノちゃんは俺の妹の友だち…だと思う。妹の友だちにもいるんだ。キノって子。俺の妹も二次元に嫁と推しがいる」
「ヨメとオシは違うのか?」
「よくわからない」
「あー、でも、オマエの妹もすんげぇ可愛いよな」
「惚れるなよ。惚れても相手にされないぞ」
「当分、女はいいや。若干オレはジョセイフシンだ」
「いつもの俺なら理由は訊かないが、今回だけは訊ねる。何があったんだ?」
「些細な話だよ」
「でも女性不信になるような話なんだろう?」
「別れ話をしようとしているのに、ケーキセットを注文されちゃうとね」
「何それ?」
「話が終わってからだったらわかるけどさ。これから話をしようの段階でさ、期間限定だからってケーキセット頼むか?普通」
「残念ながら、俺も彼女も甘いのはあまり得意じゃないからな」
「え?あの彼女さんが甘いの苦手って意外」
「ショットバーでロックでバーボンいける口だ」
「意外」
「だろう?そこがまたいいんだ…って、おまえの話だ」
「あぁ…」
「まさかケーキセットで別れたとか言わないよな」
「うーん。最後に背中を押してくれたのはケーキセットかな?なんか、オレに興味ないんだって思ったわけよ」
「はぁ…」
「いや、そればっかりじゃないよ。もちろん。オレに興味ないんじゃないか?って思ってたのはもうしばらく前からだけどね。だからそのへんも確認しつつの別れ話だったんだけどね。話する前にわかったというかなんというか…」
「・・・」
「オレはコーヒーを頼んだんだけど。オレのコーヒーよりも先にケーキセットきてさ。彼女食べ始めて驚いたよ」
「・・・」
「それ見てさ。なんか仕方ないやって思った。別にオレだけを見てとか、そういうシチュエーションにならないのは確かだな…って思ったんだ」
「わざと頼んだ、とかではなく?」
「うーん…どうだろう?でも、まぁ、ケーキを幸せそうに食べてたよ。オレだったら話が全部終わって、相手が店を出て行った後に好きなコーヒーゼリーを頼むかもしれない」
「別れ話に対してはどうだったの?」
「少し前からお互いに違和感というか、相手に対してそれまでほど熱くなれないというか…オレさ、今仕事が一番なんだよね。いろいろ認めてもらえるようになって。彼女のこと邪魔というわけではないけど後回しになってしまうところがあってさ。でも彼女はそれに対して何も言わない。でも、我慢しているというのとも違うような気がしていたんだ」
「うん」
「彼女にもオレよりも優先させたいことがあるんじゃないかと思ってたんだ」
「うん」
「お互い様だと思っていたんだけど…まぁ、それとかいろいろ話してみようっていう感じで会ったんだ」
「彼女にはそういう意味合いで会うというのは話していたのかい?」
「あぁ。それで、それなのに、ケーキセットだよ。オレはケーキセットにも負けるんだと思ったら、のっけから別れ話していた」
「それで彼女は?」
「『いろいろ拗れて別れるよりも、今がそのタイミングかもね』って」
「うん」
「ケーキセット、最後にオレが奢って終わりさ」
「『ご馳走様』って言ってた」
「うん」
「彼女が店を出た後、オレ、コーヒーゼリー頼もうかな?と思った」
「好きだよな。コーヒーゼリー」
「うん。けどそのまま冷めたコーヒー飲んで店を出たんだ」
「うん」
「どんなふうにアイツが話しているかわからないけど、まぁ、そんな感じ」
「別れてよかった?」
「うーん。今はよくわからない。でも、ケーキセットを頼むような女の子とはしばらく付き合うのはないな。って感じかな」
「そうか」
「そう。あー、コーヒーゼリー食いたい!」
「奢るよ」
「マジで。あ、スーパー、コンビニで売ってるのはなしだから」
「わかってるって。いつもんところ行こうぜ」
「うおー。わかってるぅ」