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椿の木の下にも

椿の花がぽとりと落ちる。
落ちた花はそのまま空を見上げて咲き続け、ある日、突然朽ち果てる。

「オレ的には、桜の木の下よりも椿の木の下の方が死体を埋めるのに相応しいと思うんだ」
「いつか埋める予定でもあるのか?」
「まぁ、埋めなきゃならない時があったらそうしようかな?」
「おまえっていつもそんなこと考えているの?」
「いつもじゃないけど…考えない?」
「考えない。死体を埋める予定もないし」
「おまえはさ、リアリストだからさ、空想するってことない?」
「うーん…鬱蒼とした雑木林を見ると、死体のひとつやふたつ埋まってそうだな、とは思う」
「推理小説の読み過ぎだな」
「俺もそう思う。埋めなくてもちょっと奥に転がしておくだけでも誰も気がつかないんじゃないかな?って思うようなとこよくあるよ」
「どんなとこだよ」
「青森とか」
「それも推理小説、いや、2時間ドラマだよな。犯人の出身地は青森とかいうの。青森行ったことあるの?」
「母親の実家があるからね」
「そうなんだ。でさ、なんで森じゃなく林なの?」
「森と林の違い知ってる?」
「え?広さ?」
「惜しいな。森は盛り上がっていて林は平地なんだ」
「まじ?」
「ホント。他の定義もあるけど。人が植えた方が林とか。木が生えている、木を生やしているから林で、木が生えてこんもりと盛り上がっているから森の方がそれらしくない?」
「なるほどね。で、どうして林なの?」
「理由は単純。死体を抱えて行くなら平地のが楽だろう?」
「うわぁ…想像までリアル。森で殺すというのはないの?」
「俺がいきなり森に誘って、おまえついてくる?」
「いいや」
「だろ?」
「なるほど。やっぱり現実的だわ」
「でも、おまえの言うのちょっと解るな」
「何?」
「椿の木の下に死体があってもいいかもな」
「だろう?」
「地面に落ちた花がしばらく咲いているのはそういうことか、と納得できる」
「おいおい。それじゃ、椿を植えるにはまず死体を埋めなきゃならないじゃん」
「そういうことになるな」
「いやだよ。怖いな」
「言い出したのはおまえだろう?」
「リアリストのおまえが言うと怖いんだよ」

真っ黒な土の上で空を見上げる花を思い出す。
全ての花が落ちるわけでもない。
落ちる花は何かにひかれて落ちるのかもしれない。
花を呼ぶのは、こちらへ来いと呼ぶものはいったい何だというのだろう。