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【山岳カルマ】#毎週ショートショートnote

登山仲間の葬式の後は約束などなくても皆いつもの店に集まる。
「なぜ山に登るのか?」「そこに山があるからだ」
それはあまりにも有名すぎるが、山を登る者にとってそれはまさに真理だ。
「山本は山岳カルマと呼んでいたな」
「カルマ。業ねぇ」
「業は俺たちの業なのか?それとも山の持つ業なのか?」
「どっちにもあるんじゃねぇの?」
山の恐ろしさは誰もが知っている。知っていても、知っているからこそ登るのだ。しかし、誰かが死ぬと少しだけいつも感じている恐ろしさとは別の怖さを感じる。
「でもそれは山にじゃないんだよ」
葬式で泣いていた山本の家族を思い出す。
「誰かを泣かしちまうと思うと少しな」
今こうして話している誰もの心にそれはある。
こうして酒を飲み、別れ、眠って、朝が来て、それぞれの日常に戻る。
そして気がつくとまた山に登っているのだ。
「死んだ仲間と共に」と言いながら。
そこには泣いていた家族の姿はない。
「それこそが山岳カルマだ」
皆が無言で頷いた。