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【真夜中万華鏡】#毎週ショートショートnote

「眠れない?じゃあ、これをあげよう」
差し出されたのは万華鏡だった。
「眠れない夜に覗いてみるといい」
断ったつもりだったが、気がつくと鞄の中に入っていた。
眠れない。
わざと難解な本を読んだ。少し前なら数頁も読まずに寝落ちていた。今はつまらないと思いながらも読み進めてしまう。
諦めて電気を消して本を置く。
本を置いた手に何かが当たった。
万華鏡だった。
「真夜中万華鏡とか言ってたな?」
定かではない。
暗闇で覗いても何も見えない。そう思いながらもそのまま万華鏡を覗き込んだ。
「なんだ?これは?」
それは自分の知っている万華鏡ではなかった。
そこに見えたのはキラキラした何か…。
星空だと思った。
波だと思った。
いつか見た懐かしい景色だと思った。
大好きだったあの人だと思った。
そして、いつか巡り会う大事な人だと思った。
気がつくと朝だった。
久しぶりに眠った感があった。
「夢?」
枕元に転がる万華鏡を手にして覗いてみた。
朝の光が反射しているだけだった。