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荒ぶる何もない野の果てで


「荒野って、こういう字もあるの知ってる?」
ー曠野ー
「初めて見た」
ー曠ー
「この字はおもしろいんだ。まったく違う意味を持っている」
ー 広々としている。明るい。
「文字そのままだよね」
「そう、遮るものなく日の当たる広々とした場所だ。でも、こういう意味もある」
ー むなしい。
「むなしい?」
「何もないというのは虚しいことらしい」
「でもさ、その荒野を行く人ってやる気満々だよね」
「実際はどうなのかな?追い詰められて荒野を行く人も結構いたと思うよ」
「荒野は今もあるのかな?」
「あるんじゃないかな…そこかしこに」
「そこかしこに?」
「自分たちが道を開いて歩かなくてはならない、となればそこは荒野になるし、自分たちが何かを作らなくてはならないと思えばそこは曠野だ」
「概念的な荒野?」
「俺にとって何かに挑む時のイメージだな。荒野は。大海に漕ぎ出ると言うより、荒野に挑む。自分の足で歩いているっていうのがいいんだ。海を渡るには船が要る。泳いで渡っちゃ、疲れても休めない。休んだら沈んでしまう。空も同じだ。でも荒野は自分の足で進み、疲れたら立ち止まってもいい」
「うん」
「俺、結構弱いからさ、休み休みじゃねぇと前に進めないけど、機械もあんまり信じてねぇからさ」
「うん」
「だから、行くんだったら荒野がいい」
「うん」
「行けるんだったら荒野がいい」