【日野和日之丸最後の作品】#妄想レビュー返答
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「まぁ、通常はこの立札を見て我々が日野和日之丸の最高傑作を妄想して終わりとなるだろう?でも、相手は日野和日之丸だ。掘り出せない何かを埋めている、と俺は睨んだ」
アート評論家の宿儺彦千幸は言う。
そうかもしれないしそうじゃないかもしれない。
「あの日野和日之丸だぜ?月の裏側に月読の神殿を誰にも気付かれないうちに作るくらいのこともしていた日野和日之丸だ。とんでもないものを作って埋めている。絶対」
宿儺彦は日野和日之丸の甥だという話だ。
「日野和さんは叔父さんでしたっけ?」
「うん。そう」
子どものいなかった日野和日之丸の財産、作品の管理をしているはずだ。ならば最後の作品のことも聞いているのかもしれない。
「ふん」
宿儺彦が笑う。
「どうせ僕は全てを知っていると思っているんだろう?」
「あ、まぁ」
「甘いな。日野和日之丸をなめてもらったら困る」
「すみません」
大型ドローンを飛ばす。
「地中に埋まっているんですよね」
「あぁ。だから、これからスキャンする」
高性能スキャナーを搭載した大型ドローンで立札を中心に10km四方の地下をスキャンするという。
「そんな大きなものなんですか?」
「大きいかもしれない」
宿儺彦は車を走らせる。スキャンエリアから出るためだ。
立札がある場所はかつては小学校の校庭だった。
町の人口が減り子どもたちも減った。学校は役目を失った。
「あそこを買い取っていた話は聞いていたし、今回も遺産の管理のためにやってきたらあれだよ」
「買い取っていたのは10km四方?」
「いや、学校の敷地分」
田舎でも学校の敷地分を買えるというのは才能だけでなくきちんとしたマネジメントも付いているアーティストだということだ。
「大きいとも限らない。月の裏側にあった月読の神殿は掌に乗るほどだったろう?」
異星人の遺物とも言われた代物だ。日野和日之丸が自分の作品だと言っても信じてもらえなかったが、全く同じものが日野和のアトリエから出てきて、月で見つかったものの内側から日野和の指紋が採取され、ようやく日野和の作品と認められた。月で見つかったものは見つけた国が所有を主張したが、同じものは(本人が作ったものだからレプリカではない)日野和美術館にある。
「高性能スキャナーだから0.1mmサイズのものでも見つけられる」
車を停めて、後ろのコンテナに移動する。
コンテナの壁にはいくつものモニターが並んでいた。
「さて、始めますか」
日野和日之丸の最後の作品にして最高の作品の捜索が始まった。
宿儺彦はドローンを操作しながらモニターの画像を検索していく。
「ひとつ訊いていいですか?」
「いいですよ」
「何故私を同行させたんです?」
宿儺彦はちらりとこっちを見た。
「あなただけが日野和の作品に懐疑的だったから、かな?」
「え?」
いやむしろ日野和日之丸の作品に辛口だったのは宿儺彦の方だ。
甥だと知った時は驚いた。
日野和美術館の館長は日野和日和。本名は宿儺彦日和。日野和日之丸のマネージメントも一手に引き受けていた。
「あの立札も日和さんの提案ですか?」
「いいえ。あれは、あの立札も作品の一部…」
宿儺彦の視線がひとつのモニターに向けられた。
「これは…」
モニターには巨大な迷路、いや街が映し出されていた。
宿儺彦はスキャナーの解析度を上げていく。
「校舎の真下に入り口があります」
宿儺彦の声が緊張をはらんでいた。
「掘り出さずに見ることができるんですか?」
「中に入ることが本当に出来れば、ですが」
日野和日之丸はいつからこの作品を作っていたのだろう?
「すみません。母に連絡してもらえませんか?」
「はい」
地下都市を模した迷路は2km四方に及び、ビル3階分にも及ぶ階層も確認された。調査のために入った日野和美術館館長をはじめとする調査団で間違いなく日野和日之丸の作品と認定された。
「ここはね、私たち姉弟の母校なのよ」
日野和日和が言う。
日野和の作品だという決定的証拠はいくつかあったが最終的な決め手は2冊の卒業アルバムだった。迷路のゴールに置かれた宝箱の中に入っていた。
「失くしたと思っていたらこんなところにあったのね」
日野和日和の笑顔がとても印象的だった。
この大き過ぎる芸術品は保存の観点からも無事に出て来れない可能性があることからも封印されることになった。
調査団もスキャンデータを頼りに入口から出口まで、そしてあらゆる行き止まりを映像データとして残した。
美術館ではそのデータを元にしてバーチャルで迷路を体験できるようにするという。
宿儺彦千幸は「まだ自分達が知らない作品があるかもしれない」と言っていたが果たしてどうだろう。
でも…
「調べる際にはお付き合いさせてくださいね」
そう言うと宿儺彦は笑って頷いた。
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いきなり妄想レビューをお借りしました。
ステキな記事をありがとうございます。