感想:ゴミ清掃員の日常〜ゴミ分別セレクション〜:素晴らしきゴミ兄さん

本書は、芸人である滝沢氏が副業でしているゴミ収集の体験をマンガにしたものです。

本書の冒頭では、滝沢氏の芸人仲間が侮蔑の意味で氏のことを「ゴミ兄さん」と呼んでいるエピソードが紹介されます。
このエピソードから分かるように、ゴミ収集や清掃など私達の生活を支える仕事をしてくれている人のことを見下す人達がいます。
彼らは、ゴミ収集の仕事を、誰でもできる仕事、何の能力もない人間が生活の為に仕方なくしている仕事と思っているのでしょう。

ですが、正直に言えば、私も心のどこかで「ゴミ収集は退屈で難しくない仕事」と思っているところがありました。
本書は私のそんな偏見を根本から改めてくれました。

ゴミ収集には重い物を繰り返し運ぶ体力が必要ですが、この世に存在する多種多様なゴミを正しく分別する知識も必要になります。
分類を間違えて捨てられたゴミを現場の判断で回収可能か判断しないといけないからです。特に資源ごみは、正しく分類しないと資源として再生できなくなります。
例えば、牛乳パックはリサイクル可だが、豆乳のパックは自治体により異なるとか、ビデオテープやCDは可燃ゴミで、油の入ったペットボトルは資源ごみではない等々、覚えるべきことが山のようにあります。
世の中で販売される商品の数が増えるごとに、覚えるべきことも増えていきます。

また、ゴミをケガをしないように回収していくには、創意工夫と細心の注意も必要とされます。
本作では、コロナ禍において、ゴミを介して感染する危険をいかに回避しながら回収するかのエピソードが紹介されています。
ゴミ収集は経験豊かなプロフェッショナルがいなくては成り立たない難しい仕事でありました。

また、本作では、ゴミの出し方やゴミの種類から、その地域や家庭の生活習慣が推測できるエピソードが紹介されています。
刑事や探偵は捜査対象者のゴミを調べて、相手の人物像を把握するという話がありますが、ゴミ収集の人は無意識の内に毎日それをしているわけです。
もしかすると、地域の生活レベルや習慣に最も詳しいのはゴミ収集の人達なのかもしれません。

ゴミ収集は、観察眼を持っていれば、様々なことを知る事ができる面白い仕事でもありました。

そして、ゴミ収集は、資源回収でもあります。
本作のテーマはゴミ分別であるので、資源ごみをどのように回収して、再生していくかのエピソードが多く紹介されています。
ゴミ収集は、口先だけの政治的な一部の環境保護活動とは異なり、持続可能な世界を作るのに実際に貢献している素晴らしい仕事でもあります

本書を読んだ後には「ゴミ兄さん」の呼び名が、侮蔑の意味ではなく、誇るべき素晴らしい称号と思えるようになることでしょう