感想:明日クビになりそう (1):意識高い系へのアンチテーゼ、労働者よ、怠惰たれ!

この作品の主人公の宮本は、仕事をサボることに全身全霊を捧げるサラリーマンです。
「バイトも経営者目線で働きましょう」とか言うタイプの経営者が本書を読んだら発狂することでしょう。

宮本は仕事をさぼり、仕事のミスをごまかして同僚に迷惑をかけまくり、簡単な書類仕事さえできず、得意先に極大の失礼を働いて上司に殴られ、それらの数々のクズエピソードは、ギャグを通り越して笑えないレベルでさえあります。
笑うよりも、自分や同僚の仕事の失敗を思い出して胃が痛くなります。
もし自分の会社にこんな社員がいたら、確実に激怒して大嫌いになるはずです。
それなのに何故か たまに私はこのクズ野郎の言動を痛快に思い、共感してしまうのです。

現実の世界では口先で意識高い労働訓を垂れ流し、それを真に受けた純朴な労働者を安い給料で過労死寸前まで働かせ、簡単に解雇するクズ経営者がいます。
本書の主人公の会社の利益を1mmも考えない自分本位な言動は、そんなクソ経営者に対する仕返しに見えるので、私はそれを痛快に思って共感してしまうのでしょう。

ブラック企業にいる人は、周囲の同僚が会社に忠誠を誓うタイプの社員ばかりなので、それが普通になり、身を削るような激務に何の疑問も抱かなくなることがあります。
宮本はそんな視野狭窄に陥った読者に対して怠けている姿を見せつけ、もっと怠惰になれと煽ってきます。
つまり本書は、自分の働き方に問題がないかの自省を促す負の啓蒙書なのであります