感想:「私物化」される国公立大学:味方の大学私物化は正義で、敵の大学私物化は悪

本書は「国公立大学が個人や役所によって私物化されている」という批判をしています

ですが、学長選出において学内政治の不透明な立ち回りがあったり、学長の意向が多少経営方針に反映されるのは昔から変わらないことだと思います。
本書で批判されている大学と従来の大学の違いは何かといえば、学長が保守的か否かの違いです。

要するに左派の学長が選ばれれば、不透明な選出も学長の独断も「大学の自治が守られている」ことになり、保守派の学長が選ばれれば「不正だ!、独断専行だ!」となるわけです

役所による大学の私物化も、どんな悪事をしているのかと読んでみれば、軍事研究をしているからケシカラン、大学は国の言いなりだ、と怒っているだけでした。
軍事研究は悪という前提に立っているので、安全保障の為に軍事研究も必要になるのでは?という視点は一切ありません。
「国が大学に軍事研究をさせている。許せない!」という主張をするのは自由ですが、その意見の正当性を少しも疑っていないのが、現在の世界情勢を無視した暴論に聞こえます

私は実は槍玉にあげられている大学の学長の施策に反対し、大学の軍事研究にも慎重な立場であり、本来は著者らと同じ側に立つはずの人間ですが、このような雑な批判では相手を利するだけだと思いました。

意外にリアリスティックな現代の若者や海外情勢に明るい知識人は、この手の「防衛技術を絶対悪とする思想」には昔のように簡単に同意してくれないことを自覚すべきであります。
さもなければ、本書のように得意げに「皆さん、この大学は防衛技術を研究して国家による殺人行為に加担する大悪党です」と吹聴するはめになります