大通りの真ん中で「すみません」

あれは今から13年前のことだった。
当時の僕は仕事を転々とし、ハローワークに通っていた。

ハローワークに行くと分かるのだが、
仕事を探している人は、ため息顔の人が多い。
｢はぁ～｣と何か言いたげな顔をしている。
まあ、僕もため息顔のひとりではあるのだが。

｢今日も仕事見つからなかったか｣
テンションだだ下がりで原チャリで家へ向かった。
当時は那覇市に住んでいたので車の渋滞がひどく、
余計に気分が悪くなっていた。

イライラするなぁ。早く家に帰りたかったので
急いで走っていると前の原チャリとぶつかりそうになった。
｢すみません‥｣
心の中で謝って、その原チャリよりも急いで前の方へ走らせた。

妙だな、後ろから原チャリが追いかけて来る気配が感じる。
｢おい！｣
声が聞こえるが聞いてないフリをした。
大通りの信号機の前で止まっていると後ろから原チャリが来た。

僕のすぐ側に来ると運転手はヘルメットを取った。
パンチパーマの、いかついチンピラのお兄さんが
「お前さっきバイクにぶつかりそうになっただろ死なすんどー！｣
と、ものすごい剣幕で怒ってきたではないか。

どうしよう。自分が悪いし、大通りの渋滞の前なので他の車の人もこっちを見てる。どうしよう。
その瞬間、僕はヘルメットを取りチンピラに言われた以上の声で
｢すみませんでした‼︎」と大きな声で謝った。
声は大きく顔は本当に困ってますよ感いっぱいで謝った。
するとチンピラは
｢ううん‥まぁ謝ればいいんだけど‥｣
と言うと、すぐにその場を立ち去って行った。

その瞬間、僕は思った。
試合に負けて勝負に勝ったのだと。
中途半端に謝っていたら、もっとからまれたのかもしれない。

実はその事件の前日に家で漫画『お〜い竜馬！」を読んでいた。
土佐藩の武市半平太は自分で腹を横に3文字に切ると前のめりに倒れ込み
そのまま死んでいった。側近の人たちは半平太のあまりの凄まじさに
肝をつぶしたという。その時の場面を思い起こしたに違いない。

原チャリチンピラお兄さんも僕の謝り方が凄まじかったのか
逃げるように帰って行った。

皆さんも人に謝るときは中途半端に｢ごめんなさい｣と言わない方がいい。
全身全霊を込めて頭を下げ、前に倒れ込みそうな勢いで
｢すみません‼︎」と言おう。