【一句鑑賞(002)】 菌(きのこ)無き石炭紀とぞ茸喰ふ (矢島渚男)
菌(きのこ)無き石炭紀とぞ茸喰ふ 矢島渚男
石炭紀というのは地質時代の区分で古生代に属するらしい。句にある通り菌類が十分に進化していなかったために、死んだ木が完全に分解されずに石炭として蓄積されていったため、このように呼ばれると。
作者はこのようなことを「菌無き石炭紀と」知ったのだろう。作者はきのこを食べながら遠い時代の地球の生態系に想いを馳せる。(厳密には菌とウイルスは異なるが)新型コロナウイルスが猛威を振るう前の時代についても重ねて思いを巡らせたくなる。
地球に埋蔵された石炭は産業革命で重要なエネルギー源として活躍したが、脱炭素が叫ばれる現在では世界はその消費を控える方向に動いている。しかし、ウクライナ戦争をはじめ世界のエネルギー問題の見通しが不透明になるなか、完全に石炭から脱却することはできていない。
石炭紀に菌類は繁栄していなかったということだが、人類が存在しはじめるのもそのはるか先のことだ。コロナ禍が過去と化す未来、人間はどのような環境のもとにあるのだろうか。
出典:矢島渚男(梟)「万年茸」(角川『俳句』2023年1月号、「新年詠7句」)
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