【一句鑑賞(001)】 餅の白今も昔も雑煮椀 (宇多喜代子)
餅の白今も昔も雑煮椀 宇多喜代子
安倍川餅にしても磯部焼きにしても、ありのままのおもちはまずは白い。
作者は「今も昔も」餅の色に共通するものを見出している。作者(宇多喜代子さん)の生きてきた時代を考えると、そこに戦争の影を認めることもできるかもしれない。それでもなお、おもちは白い。
正月、真っ白な気持ちで一年が始まる。しかし「真っ白な気持ち」と言ってみたとしても、毎年「真っ白な気持ち」を反復して積み重ねてきたのだ、とも言えるかもしれない。
正月に雑煮を食べるひととき。雑煮は変わらないけれども毎度別のものに入れ替わる。雑煮を食べる私も新陳代謝を繰り返して入れ替わりつつ、変わらない部分を確かめる。
出典:宇多喜代子(草樹)「松七日」(角川『俳句』2023年1月号、「新年詠7句」)