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一足早く振り返る、デジタル証券市場の直感的グラフと”2024年へのインサイト”

こんにちは、プログラマブルな信頼を共創したい、Progmat(プログマ)の齊藤です。

第7回から、「セキュリティートークン(ST)/デジタル証券」編として解説しています。(プレスリリース発信週の【速攻解説】を除く)

第7回記事では、実際どんな感じの市場になってきたか、マクロな概観をファクトデータベースで俯瞰しました。

第8回記事では、ST/デジタル証券市場の牽引役である「不動産デジタル証券(不動産ST)」について、何がそこまで魅力的なのか?を生みの親の目線からひも解きました。

第9回記事では、プレスリリース2件の発信内容と合わせて、「【速攻解説】まとめて知りたい、デジタル社債のポイントとST流通市場のインパクト」を解説しました。

別の【速攻解説】(第10回記事)を挟んだ第11回の本記事のテーマは、
「一足早く振り返る、デジタル証券市場の直感的グラフと”2024年へのインサイト”」です。

これさえ読めば、2021年から現在に至る業界動向について、表層ではなく1歩踏み込んで語れるかと思います!

※全て公開情報(有価証券届出書)を基に分析しておりますが、解釈については大いに齊藤の私見が含まれる内容ですのでご留意ください。記載内容で事実誤認等ございましたら、優しく指摘いただけますと大変助かります…!


結論、インサイトは何?

先にザックリいってしまうと、こんな感じ☟です。

  • 「不動産ST」において、「新規参入AMの経年逓増」と「参入済AMの新規組成ペース逓増」が持続的に続く。

  • 上記傾向を支える前提の1つとして、各信託銀行における「量産化態勢の構築」が進んでいく蓋然性が高い。

  • 上記傾向を支えるもう1つの前提として、「参入済み証券会社における量産化態勢の深化」と「先行証券会社に続く新規証券会社の裾野拡大」と「製販一体モデルの成長」が更に進んでいくことが想定される。

  • 「不動産ST」における「大型案件化」も持続的に続く。

  • 上記傾向を支える前提として、「”対面”証券トップ2社に続く販売態勢の深化」と「ネットチャネルにおける訴求価値の拡がり」が想定される。

  • 「社債ST(自己募集対応含む)の裾野拡大」と「新規アセット拡大」が重要テーマ。

では、順番にみていきましょう。

まずは直近の市場規模=「1,450億円超」

それではまず、全体の規模感の推移を振り返ります。

ST案件残高推移

前提は以下のとおりです。

  • 市場規模算出の集計対象は、全て公開情報=有価証券届出書(SRS)が提出されている(いわゆるローンチ後の)公募案件、の全量です。
    ※ローンチ後発行前の案件も、発行予定月(~1月末)に計上

  • 金額は、不動産や金銭債権のST案件であれば、ST発行ファンドのSRSに記載されているバランスシートの「資産の部」合計額で、社債STであれば発行予定額、です。
    ※販売実績額は追えないため

  • 各時点における「残高合計」ですので、償還済み案件については償還後の月から「0」となります。

という前提で、足許の市場規模は全ST案件合わせて「1,450億円超」です。
元々、私たちとしては「2023年度中(2024年3月末)に1,000億円」という規模感を目標としていたので、「想定よりも早く大きくなっている」という受け止めをしています。

それでは、具体的に何がどのように伸びているのかを見ていきます。

新規ST案件金額のアセットタイプ別内訳

上のグラフは、各年度における新規ST案件金額を図示したものです。

2023年度は、年内に1,037億円超のST案件がローンチし、年度末(2024年3月末)までに新規発行が見込まれている非公開の案件を合わせると、1,400億円超となる見込みです。

前年度の新規発行が356億円ですので、YoYで約400%の成長になりそう、といえます。

内訳をみると、成長ドライバーは一目瞭然で「不動産ST」です。
ということで、次のパートからは「不動産ST」を中心に焦点を当て、プレーヤー別の動向を深堀してみていきます。

※以下、登場する会社名は冗長になるので略称で記載していますが、心では「さん付け」しているので、心の目で補完してください…!笑
※KDX=ケネディクスさん
※MDM=三井物産デジタル・アセットマネジメントさん

オリジネーター(AM会社等)の動向と特徴

まず、各STプロジェクトのビジネスオーナー(対象アセットと座組みを決定する立場)である、「オリジネーター(アセットマネジメント(AM)会社等)」を深堀りします。

ST業界俯瞰図でいう、左半分(=発行サイド)の一番左列の方々です。

ST業界俯瞰図と本パートの分析対象

まず、年度別の不動産ST組成件数と、「オリジネーター」の内訳を見ていきます。

不動産ST組成件数とAMの内訳

色々な見方ができそうですが、齊藤としてはこう見ました☟

  • 年を経るごとに、「新規参入AM」(と新規案件)が積みあがっていく
    Y1|「KDX」「MDM」「トーセイ」
    Y2|+「いちご」
    Y3|+「丸紅」(+α)
    Y4|+?

  • 「参入済AM」の新規案件組成ペースは、年を経るごとに増えていく
    KDX|2件→2件→5件(+α)→?
    MDM|2件→2件→5件(+α)→?
    いちご|1件→2件(+α)→?

金額ベースではどうでしょうか?
年度別の不動産ST組成金額と、「オリジネーター」の内訳を見ていきます。

不動産ST組成金額とAMの内訳

件数ベースではKDX=MDM=5件でしたが、金額面ではKDXの全体に占めるインパクトが凄まじいですね。

ということで、
不動産ST1案件あたりの組成金額規模を時系列で追ってみます。

不動産ST1案件あたりの組成金額推移

これも色々な見方ができそうですが、齊藤としてはこう見ました☟

  • 25億円~50億円規模が一定の目線になっている。

  • KDXのみ、意図的に案件の大型化で先行している。

「新規参入AMの経年逓増」「参入済AMの新規組成ペース逓増」は持続的なのでしょうか?
組成金額の規模感には、どのような背景があるのでしょうか?
KDXが先行している「案件の大型化」に、他の「オリジネーター」は追従可能なのでしょうか?

ということで、
各ST案件の組成と販売を支える「原簿管理者(=不動産STにおいては信託受託者となる信託銀行等)」と「仲介者(=販売を担う証券会社等)」を順番に見ていきます。

原簿管理者(信託銀行等)の動向と特徴

まず、「原簿管理者(=不動産STにおいては信託受託者となる信託銀行等)」を深堀りします。

ST業界俯瞰図でいう、左半分(=発行サイド)の左から2番目の列に位置し、「オリジネーター」と「ST発行管理基盤」を繋げる立場の方々です。

ST業界俯瞰図と本パートの分析対象

前パートで見てきた「オリジネーター」関連の傾向との関係性を確かめるために、「オリジネーター」別に「誰がどの程度受託しているか」から見ていきます。

オリジネーター別の不動産ST受託態勢

色々な見方ができそうですが、齊藤としてはこう見ました☟

  • 各新規AMの参入を、三菱UFJ信託銀が支えている。

  • 特にMDMの大量の案件組成は、三菱UFJ信託銀が支えている。

  • KDXは、「大規模×大量」の案件組成により、三菱UFJ信託銀(レンダーとしてのMUFG)だけではなく、他の信託銀行(レンダーとしての他のメガバンク)の参入も促している。

  • トーセイは独自路線(※)。
    ※「(特定)受益証券発行信託」スキームではなく、「GK-TK」(の応用を含む)スキームでの組成

各信託銀行は、今後も「新規AM参入の逓増」や「参入済AMの新規組成ペースの逓増」を支えることはできるのでしょうか?

ということで、
年度別の不動産ST受託件数と、「原簿管理者」の内訳を見ていきます。

不動産ST受託件数と原簿管理者内訳

他の信託銀行が1案件/年度の受託態勢であるのに対し、三菱UFJ信託銀は量産化態勢で先行しているといえそうです。(23年4月~12月で11案件受託=1案件/月以上のペース)

金額面ではどうでしょうか?
年度別の不動産ST受託金額と、「原簿管理者」の内訳を見ていきます。

不動産ST受託金額と原簿管理者内訳

色々な見方ができそうですが、齊藤としてはこう見ました☟

  • 金額規模面では、みずほ信託銀も大幅に伸長している。

  • 年を経るごとに、信託銀行の受託金額シェアも分散化してきている。

これは、前述の”大型案件による信託銀行参入促進(by KDX)”によるところが大きい(※)ですが、ここから何が言えそうでしょうか?
※みずほ信託銀が受託している「月島案件」はワンショットで300億円

前提として、「原簿管理者(というか信託受託者)」の採算は、基本的に「受託件数」ではなく「受託金額」に連動しています。(受託金額×信託報酬率、等)

他方で、受託に伴う各種オペレーション(≒負荷&コスト)は、基本的に「受託金額」ではなく「受託件数」に連動しています。(契約書/SRSのドキュメンテーション、受託稟議、信託設定、期中事務、…etc.)

つまり「原簿管理者(というか信託受託者)」目線から率直にいうと、
「大規模案件」の方が”美味しい”わけです。

ということで、
量産化態勢で先行している三菱UFJ信託銀のみならず、2023年度以降で”相対的に高採算”となっている各信託銀行においても、「量産化態勢の構築」と「ノウハウの蓄積」が進んでいく蓋然性があると思います。

※なお、齊藤=Progmatの立場ですが、「三菱UFJ信託銀」も「みずほ信託銀」も「三井住友信託銀」も「SMBC信託銀(SMFG)」も等しく株主であり顧客ですので、特定の信託銀行に肩入れするものではないことは明言しておきます

では、「新規参入AMの経年逓増」や「参入済AMの新規組成ペース逓増」を「原簿管理者”群”」が組成面では支えられるとして、販売面ではどうでしょうか?

また、「原簿管理者」側では金額面はむしろ大型化が望ましいとすると、前述の組成金額規模の傾向(25億円~50億円の目線、又は”大型化”の拡がりのフィジ)を捉えるには、「仲介者(=販売を担う証券会社等)」に着目する必要がありそうです。

仲介者(証券会社等)の動向と特徴

ということで、
次に「仲介者(=販売を担う証券会社等)」を深堀りします。

ST業界俯瞰図でいう、右半分(=流通サイド)の右から2番目の列に位置し、「投資家」と「ST発行管理基盤」を繋げる立場の方々です。

ST業界俯瞰図と本パートの分析対象

前パートで見てきた「オリジネーター」関連の傾向との関係性を確かめるために、「オリジネーター」別に「誰がどの程度販売を担っているか」から見ていきます。

オリジネーター別の不動産ST販売態勢

色々な見方ができそうですが、齊藤としてはこう見ました☟

  • KDXは、大手証券(特に”対面”証券)と万遍なく付き合っている。

  • MDMは、製造~販売まで一気通貫で行う「製販一体モデル」がメインになっている。

  • 各新規AMの参入を、SBI証券が支えている。

  • トーセイは販売面でも独自路線(※)。
    ※現時点で、唯一の東海東京証券(with ST基盤「ADDX」)や HashDasH(with ST基盤「HashDasH」)利用先

「新規参入AMの経年逓増」や「参入済AMの新規組成ペース逓増」の持続可能性を販売面からみるとどうでしょうか。

ということで、
年度別の不動産ST取扱件数と、「仲介者」の内訳を見ていきます。

不動産ST取扱件数と仲介者内訳

色々な見方ができそうですが、齊藤としてはこう見ました☟

  • ”対面”証券の中では、大和証券が量産化態勢で先行している。(前述の図と合わせると、KDXの大量組成を支えているのは大和証券

  • MDMは、「製販一体モデル」での自社チャネル「ALTERNA(オルタナ)」スタート後、自社販売が急伸している。

  • 各新規AMの参入を支えているSBI証券でも、相対的に量産化態勢が進みつつある。

「ALTERNA」での取扱件数急伸は、中立の立場からいっても目を見張るものがあります。

特定のエンティティや案件に肩入れしないために、齊藤自身は銀行員時代から特定案件を購入しないようにしているのですが、”齊藤の周辺”から「ALTERNAいいよね!」という声を沢山頂戴しています。

個人の主観としてどう感じるかはぜひご自身の目で確かめていただければと思いますが、少なくとも客観的なデータからは「販売数急伸≒ビジネスモデルとしてお客様の継続的な支持がある」といえます。

金額面ではどうでしょうか?
年度別の不動産ST販売金額と、「仲介者」の内訳を見ていきます。

不動産ST取扱金額と仲介者内訳

これも色々な見方ができそうですが、齊藤としてはこう見ました☟

  • 販売金額面で、”対面”証券の2社(大和・野村)が突出している。(前述の図と合わせると、KDXの大型案件化を支えているのが、大和&野村

  • ”対面”証券2社の販売規模拡大=「確りとした顧客説明と販売規模の両立」の実績ができている。(特に他の”対面”証券が販売態勢を構築するうえで”実績”としてベンチマークにできる)

  • MDMは、金額面でもSBIを上回る販売実績が挙がっている。

ということで、
「オリジネーターとの組み合わせ」「件数」「金額」を組み合わせて考えると、以下のようなことがいえるのではないかと思います。

  • 不動産STにおいてKDXが意図的に牽引している「大型案件化×大量組成」の傾向は、”対面”証券2社(大和・野村)が着実に顧客を開拓してきたことで、他証券会社にも面的に拡がり、持続的といえそう。

  • 25億円~50億円の目線は、新規AM案件の販売を支えているSBI、又は自社チャネルをスタートしたMDMの、現時点でのネット販売キャパシティが制約になっていそう。(各チャネルの登録顧客数=各販売時点での需要量に上限あり)

  • SBIとMDMに共通している点は”非対面”という点だが、MDMが切り開いた「不動産ST×ネットチャネルでの訴求価値」は確かな需要が確認されており、各ネット販売のキャパシティも伸長していきそう。

最後に、あらためて「不動産ST」から一段上に戻って、「全アセットタイプ」を対象に現状と今後の動向を探りましょう。

アセット不問で業界全体の成長に依拠しているのが、「プラットフォーム(ST発行管理基盤)」です。

プラットフォームの取扱状況と「次のテーマ」

ということで、
最後に「プラットフォーム(ST発行管理基盤)」の状況を確認します。

ST業界俯瞰図でいう、真ん中上部に位置し、「原簿管理者」と「仲介者」(及び「ST流通市場」)を繋げる立場の方々です。

ST業界俯瞰図と本パートの分析対象

各プラットフォームのST案件取扱状況(ローンチ後償還前のST案件数)を、アセットタイプ別に可視化したのが次のグラフです。

プラットフォーム別の取扱件数とアセットタイプ内訳

色々な見方ができそうですが、齊藤としてはこう見ました☟

  • (ST案件自体、ほぼ「不動産ST」が占めているため当然だが)基本的にどのプラットフォームも「不動産ST」が主力となっている。

  • 例外はSecuritizeで、”証券会社非介在”モデルの案件(丸井の自己募集社債ST、ソニー銀の金銭債権ST)は、基本的にSecuritizeが開拓してきた。

  • これまでの社債ST(デジタル債)は”短期のみ”だったため、”トライアル”で終わった”発行済償還後”の社債STは計上されていないが、丸井の自己募集社債STは確りとリピートされている。

  • 漸く、Progmatでも社債STの取扱が開始されている。

  • どのプラットフォームにおいても、「不動産STの次」は重要なテーマ

※私募のため情報がとれないものや、ローンチ前のため未計上のST案件が各プラットフォームで予材として存在している点は、ご留意いただければと思います

ということで、各プラットフォーム≒業界横断のテーマとして、「不動産STの積み上げ」は当然として、「社債ST(自己募集対応含む)の裾野拡大」と「新規アセット拡大」が重要といえそうです。

中締め(詳しくは「デジタル証券フォーラム」で!)

ということで、改めてインサイトをまとめると、こんな感じ☟でした。

  • 「不動産ST」において、「新規参入AMの経年逓増」と「参入済AMの新規組成ペース逓増」が持続的に続く。

  • 上記傾向を支える前提の1つとして、各信託銀行における「量産化態勢の構築」が進んでいく蓋然性が高い。

  • 上記傾向を支えるもう1つの前提として、「参入済み証券会社における量産化態勢の深化」と「先行証券会社に続く新規証券会社の裾野拡大」と「製販一体モデルの成長」が更に進んでいくことが想定される。

  • 「不動産ST」における「大型案件化」も持続的に続く。

  • 上記傾向を支える前提として、「”対面”証券トップ2社に続く販売態勢の深化」と「ネットチャネルにおける訴求価値の拡がり」が想定される。

  • 「社債ST(自己募集対応含む)の裾野拡大」と「新規アセット拡大」が重要テーマ。

実は、最後に触れた「社債STの裾野拡大」と「新規アセット拡大」に関して、Progmatとして仕込んでいる諸施策を近日公開予定です。

本記事の内容と合わせて、1年に1回の業界棚卸ビッグイベント「デジタル証券フォーラム」の「講演&パネルディスカッション」で直接解説予定ですので、お楽しみに…!

※昨年までのスリーピーススーツ(as 信託銀行員)から心機一転、齊藤はもちろんProgmatパーカーで参戦します(皆さんばっちりスーツ写真…)

「デジタル証券フォーラム2023」(日経新聞全面広告)


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