『バーチャルさんはみている』はバーチャル世界の縮図だった

 『バーチャルさんはみている』(以下、『バーチャルさん』)の全12回の放送(13話はBlu-rayのみ)が終了した。視聴者からの評価ははっきり言えば賛否両論であった。しかし、「賛否両論」と言うと、一般的にはほとんどが否定的意見という印象があるが、それほど酷いものだったかと問われれば疑問が残る

 批判者の中には「平成最悪のアニメ」などと罵詈雑言を並べる者もいるが、この程度の出来はよくあるレベルである。しかし、具体的に良かった点、悪かった点を評価することが難しいアニメであったのは確かである。以下、両点について言語化していく。

 アンケート結果

 下記に『バーチャルさん』のニコニコ生放送アンケートで「とても良かった」が押された率と「ニコ生アンケートの記録一覧」を示す。なお『バーチャルさん』のニコニコ生放送は通常放送と実験放送に分かれ、アニメ本編の事前、事後にVTuberが出演する放送があったことは留意しておきたい。また、通常放送には事後放送は含まれていなかった。

話数 来場者数(実験放送) コメント数(実験放送) アンケート(通常放送)
01話 来場者:51028人 コメ:63641 63.7
02話 来場者:40080人 コメ:57466 48.6
03話 来場者:30182人 コメ:52996 58.3
04話 来場者:15248人 コメ:47601 44.3
05話 来場者:54833人 コメ:50182 55.7
06話 来場者:59497人 コメ:63167 64.1
07話 来場者:65739人 コメ:76818 63.9
08話 来場者:61531人 コメ:87904 75.1
09話 来場者:48205人 コメ:47221 59.9
10話 来場者:38304人 コメ:44712 64.7
11話 来場者:54763人 コメ:95070 71.9
12話 来場者:58928人 コメ:93272 64.4

 上記を見ると、『バーチャルさん』は平均して約60%の視聴者に「とても良かった」と評価されていることが分かる。

 一方で、「とても良かった」のワースト記録に名を連ねるのは『遊☆戯☆王ARC-V』『けものフレンズ2』『王様ゲーム The Animation』などであり、いずれも10%未満である。

 尤も『けものフレンズ2』は、1期のアニメ監督であるたつきが降板したとされる事件があったことや、各種トラブルに対する公式関係者の杜撰かつ傲慢な対応などが原因として大きいとみられ、正当なアニメの評価とは言い難いかもしれない。『遊☆戯☆王ARC-V』にしても初めは正当な評価だったにせよ、長く続くシリーズであるため低評価することがお約束になってしまったという面もあるのかもしれない。

 しかし、いずれにしても『バーチャルさん』はここに名を連ねるほどの低評価はされていない。原作ファンからの期待を大いに背負いながらも最終話では「とても良かった」が25.5%を記録した『艦隊これくしょん -艦これ-』(以下、『艦これ』)のアニメも記憶に新しい。

 あえて有名な事例にのみ触れたが、このように『バーチャルさん』より低評価を受けたアニメなどは他にもいくらでもある。ひとつ言えるのは『バーチャルさん』は上記のアニメのように既存ファンからの失望を大きく買うほどのものではなかったということである。これに関しては、『艦これ』のような原作ファンにとってはショッキングな展開や、出来の悪い二次創作のようなキャラ崩壊があったわけではないからだと思う。

 とは言え、ニコニコ生放送アンケートはご祝儀のような感覚で「とても良かった」を押す視聴者が多く、『咲-saki-全国編』1〜6話上映会のように4話を2回放送してしまうなどの放送トラブルもなく、70%を切るというのは何か重大な原因があったと考えざるを得ない

 そもそも一般にアニメと言えばストーリーもの、あるいは日常系、ギャグ系のものというイメージがあるようである。実際にはストーリーどころかキャラクターの台詞が一切ない映像作品でもアニメとされることも多いのだが、確かにそうした形式のアニメ作品で広く知られているものとなると事例をあげるのが難しく、『バーチャルさん』に衝撃を受けた者が多かったとしても不思議はない。

 また、『バーチャルさん』はコント番組として見てもオチが弱く、天丼とは言えない形での似たようなオチが多かった。さらに雑学知識を披露するだけのコーナーも多く、VTuberの強みを活かし切れているものではなかった。そうした理由により面白くないと評価されたし、アンケートの低評価にもつながったとみられる。

 ただ、先に触れたように既存ファンからの怒りを買うような「崩壊」があったと言うほどのものではなかった。また、3DCGによるアドリブアニメとしては『てさぐれ!部活もの』が広く知られ、前期には同アニメ監督による『ひもてはうす』の放送もあり、コント形式のアニメとしては『おそ松さん』『ポプテピピック』などが有名である。無論それ以外のアニメも含めての話となるが、ストーリー性を重視しないアニメに対する耐性があった者も多くいたのではないだろうか。その結果が約60%の「とても良かった」という評価である。

 話題性

 ただ、留意事項としてすでに触れたが、『バーチャルさん』のニコニコ生放送ではアニメ本編の前にVTuberが出演する事前放送があり、アンケート結果はそれを含めた評価であると見做さなければならない

 実際、人気VTuberとして『バーチャルさん』のメインキャストも務めるバーチャルリアルの6人が出演した1話、7話、12話や、熱狂的なファンが多いアイドル部が出演した8話、11話、バーチャルタレントとしてマルチに活動する富士葵(および元祖VTuberとも言えるポン子ことウェザーロイド Airi)が出演した6話が60%を超える評価となっている。

 このことにより「この高評価はVTuber人気によるものなので、アニメの評価としては見做せない」とする者もいるかもしれない。しかしながら現実はポジティブな理由であれネガティブな理由であれ、アニメ本編とは無関係な事象もニコニコ生放送のアンケート評価に含まれてしまう。アニメ本編外の事象というネガティブに働きやすい要素をプラスに活かしたという点においてはドワンゴの手腕を褒めるしかない

 なお、それ以外の話数では10話も60%を超えているが、これに関しては正直なところ事前放送に出演した響木アオとバーチャルゴリラの人気と言うより、全話通して最も一般的にイメージされるアニメらしい回だったからだと思われる。

 また、当然のことながら、こうした人気VTuberの出演はいい意味での話題性があった。そもそも『バーチャルさん』に出演するVTuberは、形式上はにじさんじの友情出演であるシスター・クレアや、VTuberとしてはほぼ無名だったユニティちゃんこと大鳥こはくなどを除けば、多くのイベントにも参加している人気VTuberばかりだった。人気俳優や人気声優を出演させることで話題を呼ぶのは他の映像作品でも当たり前に行われていることである

 余談だが、バーチャルゴリラに関しても、これまで大きなイベントでの目立った活動は少なかった。『バーチャルさん』に出演することは認知度・存在感の向上という対外的なメリットが大きかったとみられる。『バーチャルさん』に出演したピーナッツくんも下記のように述べている。

 自分のコンテンツを充実させるっていう本筋の活動に重きを置くのはもちろんなんですが、大きな対外的なイベントとかにも多少は出ておかないと存在感薄れるナッツからね!

 また、人気バーチャルアイドルであるときのそらの事実上のプロデューサーを務めるえーちゃんこと友人Aも下記のように述べている。

 メジャーデビューが正式に決まりそうだった頃は、ちょうど普段の生放送と、アニメ『バーチャルさんはみている』や、ドラマ『四月一日(わたぬき)さん家の』の収録などが重なっていたんですね。とても有難いことではあるのですが、すべてを並行してやっていかなくてはならない状況だったので、

 なお、ときのそらは2018年12月頃、自チャンネル上の活動は意図して抑え、同月のライブイベントの練習などに力を入れていた。また、音楽活動を主軸にしたいとの活動方針をたびたび語っている。

 そんな中で『バーチャルさん』や『四月一日さん家の』の収録を行っていたというのは、対外的なイベントにおいて存在をアピールすることによるメリットを理解していたからではないかと思う。正直なところ、ときのそらにはやりたいことと実際にやっていることとの間で乖離がみられるが、そうした理由であるならば理解・納得はできる。

 オープニング曲・エンディング曲

 ところで、音楽活動と言えば、『バーチャルさん』1〜6話OP曲のキズナアイ『AIAIAI』、7〜12話OP曲のバーチャルリアル『あいがたりない』、ED曲のHIMEHINA『ヒトガタ』の存在も見逃せない

 上記のように公式に投稿された動画では、現在『ヒトガタ』は驚異の437万回再生&7.2万の高評価、『ヒトガタ』から遅れること一ヶ月以上経った2019年3月29日に投稿された『AIAIAI』は2日間で60万再生&7万の高評価となっている。一度卒業したのち復活を遂げたことで大きな話題となったにじさんじゲーマーズ出身・笹木咲の『笹木は嫌われている。』でも125万再生&4.3万の高評価に留まっていることを考えると、貫禄の結果であると言えよう。

 また、個人的には、音楽活動に消極的である株式会社アップランドが運営するVTuber事務所.LIVEに所属する電脳少女シロの歌を聴くことができる『あいがたりない』にも注目したい。これだけでもVTuberがアニメ化したことは良かったと思う。

 総括

 以上により、『バーチャルさん』は賛否両論の評価はあるものの、概ねの狙いは成功したものだと考えたい。無論アニメとしての面白さが伴っていれば、なお良かったことは言うまでもないが、そもそもアニメにとって面白さというのは必須要件なのだろうか? 私見だが、「面白くない」と批判している人たちも本当は面白さ以上に癒しを求めているのではないかと思う。そういう意味ではストーリー性の薄さにより何も考えずに観られることは良かったと言えるだろう。

 ところで、「『バーチャルさん』はドワンゴ(正確には株式会社ドワンゴを中心に共同設立された株式会社リド)がやっつけ仕事で制作した作品である」という批判もあるが、これにも異論を挟みたい。そもそもやっつけ仕事であるならば、もっとVTuberたちのフリートークの時間が長くなっていたはずである。何も考えていないのであれば、むしろVTuberたちの力量任せの構成になる。結果的には、VTuberたちの最大の強みであるトークを封じることになってしまったのだが、やっつけ仕事のつもりで制作したわけではないだろうということは言っておきたい。

 また、出演者のほとんどが人気VTuberであったことからもVTuberに対する知識・理解自体はそれなりにあったものだと思われる。というか、彼女たちはニコニコ生放送にもよく出演するメンバーなのだから、その縁で『バーチャルさん』にも出演依頼があったと考えるべきだろう。また、ニコニコ生放送での大型コラボイベントに関しては概ね高評価であることは言うまでもないことであり、『バーチャルさん』は確かにVTuberの強みを活かしたアニメではなかったという点では失敗であるが、その1点においてこれまでの功績すべてを否定することはないようにしたい。

 しかし、それにしても大きな存在感を示しながらも直接的に他のVTuberと絡むことは少ないキズナアイと、イベントにもよく出演するVTuberたちの絡みを見ると、これはまさしくバーチャル世界の縮図だったという感想が浮かんでくる。彼女たちはこれからもバーチャル世界の中心として活躍してくれることだろう。

 もちろん今回出演しなかったVTuberたちもさらなる存在感を示していって欲しい。バーチャルアニメのために設立された株式会社リドも2018年末に放送された『NHKバーチャルのど自慢』は好評であったし、1クールのアニメではないとしても、何かしらの形でVTuber界隈を盛り上げていって欲しい。月並みな望みではあるが、今後に期待したい。

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