VTuberは2Dで十分説と、相反して3D化を急ぐ理由

 皆さんはバーチャルYouTuber、通称VTuberと呼ばれるものをご存じだろうか? ご存じでない方にも簡単に説明するが、VTuberとは主にYouTubeで動画投稿、あるいは生配信を行う架空のキャラクター群のことを指している。もっと簡単に言えば、言葉通りバーチャル空間上に存在するYouTuber(※1)だ。

 しかしながら、彼女ら(※2)の中にはOPENREC.tvやSHOWROOMといったYouTubeではない動画サイトを主な活動の場とする者もいる。さらに言えば、テレビで活躍するニュースキャスターがバーチャルな身体に受肉することもVTuber化と言われることさえある。そして、彼女らの持つ身体は2Dであったり3Dであったり、果ては単なる静止画であってもVTuberを名乗る者さえいる。

 さて、ここで質問だが、最初にVTuberを知っていると答えた方たちはまずどのようなイメージを思い浮かべただろうか? おそらくは、いわゆる推しの姿ではないだろうか? しかしながら、すでに述べたようにVTuberと一言で言っても様々な活動形態があり、一般的なイメージとして広く共有することは難しいだろう。

 どうしても一般的なVTuberの姿として相応しいイメージをあげろと言うなら、キズナアイや電脳少女シロのように3Dの身体で動画投稿をメインに続けてきた先駆者を例に出すのがいいだろうか? それともにじさんじやアイドル部のように生配信をメインに活動し、幅広く人気を得ている者たちを例に出すのがいいだろうか?

 しかし、同じく生配信がメインとは言え、アイドル部は全員3D化しており、一方でにじさんじの上位組は2Dと3Dの身体を使い分けているものの、通常の生配信としては2Dの身体を用いることが多く、それ以外のメンバーは2Dの身体しか持っていない者がほとんどであるという違いがある(※3)。

 ともかくにじさんじは2Dでの生配信をメインに行う集団と言っても過言ではなく、「3D化は嬉しいが、通常の配信は2Dで十分」というファンの声も聞こえてくる。3D化して以降は必要最低限の場でしか2Dの身体を使わないアイドル部とは、この点で大きく異なっていると言える。

 それにしてもやはりこうして整理してみても、VTuberとは何かを一言で説明するのは難儀なものである。尤もVTuberの定義の問題としては2Dであるか3Dであるかは問題にならないかもしれないが、多種多様な活動形態があることはこれで理解していただけたと思う。

 2DのVTuberたちが3D化した理由

 そもそも何故アイドル部やにじさんじの上位組は2Dで十分と言われながらも3D化したのだろう(※4)。

 現在ほぼ3Dの身体しか使わないアイドル部にしても、3D化した当初ファンからは2Dとの使い分けを頻繁に行うものだと思われていた。つまり3D化の身体は必ずしも求められていたわけではない。にもかかわらず、「メンバーそれぞれのチャンネルで登録者数5万人以上で3D化」という目標を達していない者も含めて、悪く言えばまるで焦るように3D化したのである。

 生配信を行うだけなら2Dで十分なのではないのだろうか? その答えは単純だ。アイドル部やにじさんじの上位組は、自チャンネルでの生配信以外にも活躍の場を広げるために3D化したのである。実際これ以降、それぞれともにニコニコの公式生放送などのイベントにもよく出演するようになったし、電脳少女シロとアイドル部が出演するテレビ番組『超人女子戦士ガリベンガーV』、にじさんじの上位組が出演するAbemaTVの番組『にじさんじのくじじゅうじ』(以下、にじくじ)も好評を博している。

 しかし、それでもやはり疑問は残る。アイドル部ははじめに3D化が決定された4人は、3Dの身体を用いての配信を行う準備が不十分であったために配信活動を行うことができず、事実上の活動休止状態となってしまった。アイドル部メンバーの中でも特に人気のある4人であったため、彼女たちが抜けた穴は非常に大きく、メンバー全体の傾向として登録者数の伸びに鈍化がみられた。これに対し、アイドル部を運営するVTuber事務所「.LIVE」は「8月9月と多数イベントがあったために準備が遅れてしまい大変申し訳ありません。」と謝罪した。

 また、にじさんじの上位組も3D化した当初、一部の3Dモデルのクオリティの低さから(※5)、ファンからは批判の声もあがっていた。これに関しては、にじさんじを運営するいちから株式会社のCOO・いわなが(岩永太貴)氏も認めるところであり、「元々にじくじの放送開始に合わせたモデルのため、アップデートにより順次改善していく。実際よく観れば分かる通り、にじくじでも回を追うごとに修正が入っている」という主旨の説明をしている。

 しかし、アイドル部にせよにじさんじにせよ、「3Dの身体が求められる案件は一旦断り、十分な準備期間を経てから3D化しよう」という考えには至らなかったのだろうか。特にアイドル部はプロデューサーであり自身もVTuberであるばあちゃるもことあるごとに「長い目で見て欲しい」とファンを宥めており、このように短期間で結果を出そうとして失敗した事例は珍しい。

 まず真っ先に考えられる理由としては、3Dでの出演を依頼してきたイベント側や番組側の強い要望があったというものである。実際アイドル部は『RAGE 2018 Autumn』に3D化したもこ田めめめと夜桜たまが出演(※6)、そしてアイドル部の北上双葉と金剛いろは、にじさんじのいわゆるJK組の3人はともによみうりランドで行われたイベント『VtuberLand』に3Dで出演した。これらはVTuberを今後も継続して呼ぶかどうかも分からないイベントで(※7)、この機会を逃したくないがために3D化を急いだと考えられる節はある。

 しかし、アイドル部やにじさんじの運営がそれ以上に恐れたのは、ファンの熱量が失われることだったのではないだろうか。アイドル部は当初より登録者数5万人以上で3D化という目標を掲げていたために、「目標を達成したのに一向に3D化されない」という批判を受ける恐れがあった。また、にじさんじは名実ともにグループのトップである月ノ美兎が先行して3D化していたために、人気の上では彼女にも劣らないメンバーのファンからは待遇の差から不満が噴出する恐れがあった。つまりここで提示するのは、長期的な運営を目指しているからこそ、ファンの信頼を失うようなことはしたくなかったという仮説である。

 実際VTuber界隈で3D化と言えば、一時は「VTuberの重大発表、大体3D化かupd8入り説(※8)」と揶揄されたほどの一種のお祭り騒ぎという側面もある。これは事務所に所属する企業勢に限ったことではなく(※9)、個人勢の天開司、甲賀流忍者ぽんぽこ、ピーナッツくんなどでも大きなお祭りとなった。

 しかし、イベントへの出演やVR空間の体験をする甲賀流忍者ぽんぽこ、ピーナッツくんはともかく、天開司は3D化によって活動の幅が広がったとは言い難い。無論、彼もプロVTuber化を宣言した今、イベントへの出演なども増えていくだろうが、3D化することができたのはそうした活動状況とは無関係にファンの熱量に支えられた結果であると言える。また、白上フブキなどホロライブ所属のVTuberにしても3D化は一種のお祭り騒ぎであり、活動への影響は今のところ少ない。

 3D化したVTuberたちのこれから

 ここまで2Dから3D化を果たしたVTuberたちの事例を見てきた。総論としては、VTuberにとって3D化とは、活躍の幅を広げるための一手段であるという面が大きい。しかしながら、それとは無関係に一種のお祭り騒ぎとして3D化をした事例も少なくない

 無論、2Dの身体を用いての活動にも利点がないわけではない。インターネットの動画上で活動するという目的に限れば、低コストでお手軽だからだ。しかし、2Dではどうしても表現の幅が狭くなり、マンネリ化を引き起こしやすいという欠点がある。もし仮に3Dの身体を用いてもお手軽に活動できるのであれば、誰だってそちらのほうがいいと言うだろう。

 実際ホロライブ所属のロボ子さんや、個人勢のバーチャルのじゃロリ狐娘元Youtuberおじさんのねこます氏、のらきゃっと、クゥ・フラン・ゾーパーらも早い段階から常に3Dでの活動を行っている。また、にじさんじも3Dライブ配信アプリを開発し、JK組の一人であるでろーんこと樋口楓も3Dで身振り手振りを交えての配信を可能としている。人気のあるVTuberたちが2Dから3D化を果たす事例は今後も増えていくだろうが、3Dでもお手軽に動画投稿や配信ができる環境となっていくことに期待したい。一刻も早い技術の発展が待たれる。

 注釈

※1 YouTuberとは狭義には主にYouTubeでの広告収入を収益源とする者のことを指すが、本記事では収益の有無を問わない。
※2 VTuberの多くは女性である。
※3 余談だが、同じくVTuberのもちひよこが制作しているにじさんじの勇気ちひろの3Dモデルは、もちひよこが多忙であるため完成の目処は立っていない模様である。その他、自分が知らない例外的に3Dの身体を持っているケースもあるかもしれないが、ここでは「ほとんど」と言っておく。
※4 そもそもVTuberが必ずしも3Dの身体が求められなくなったのは、2Dでデビューし、圧倒的なキャラクター性とトーク力を示したにじさんじの月ノ美兎の影響によるところが大きい。
※5 3Dモデルのクオリティが重視された事例としては他に富士葵が元々3Dであったにもかかわらず、『かわいくなりたいプロジェクト』として始めたクラウドファンディングにより、3Dモデルの表情を制御するシステムなどを含めてすべて一から制作し直した件がある。
※6 『RAGE 2018 Autumn』には、月ノ美兎も出演したが、前大会の『RAGE 2018 Summer』の時点で3Dで出演しているので、ここでは触れなかった。
※7 実際『‎RAGE 2018 Winter』ではVTuberの出演はなかった。
※8 upd8は、Activ8株式会社が運営が運営するVTuberグループ。余談だが、厳密にはVTuber事務所ではなく、VTuberのケリンはupd8入りを決めながらも、これからも個人勢として扱って欲しいとしている。
※9 企業勢としては有閑喫茶あにまーれは公式ライバルグループであるハニーストラップよりも先に3D化を発表したにもかかわらず、ハニーストラップの周防パトラと蒼月エリが先に3D化したため批判も受けた。ファンの熱量が高まり過ぎたが故の弊害であったが、3D化を果たす前に引退した稲荷くろむを除き、その後無事に有閑喫茶あにまーれも全員3D化した。

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