VTuber界隈の膨大な情報を精査する難しさについて

 VTuberの総数が8000人を突破したこと、そして現在のVTuber界隈が生配信主体であることは、これまでの記事でも述べた。本記事では、その是非に関して触れるつもりはないが、情報が膨大に膨れ上がり「真偽」を確認するのが非常に困難になっていることには触れておきたい。

 もはやにじさんじのライバーだけに限定しても、70人以上存在し、それぞれが1回の配信につき数時間程度のアーカイブを残すのである。静凛や叶などともなると、もはや追うのをひとりに絞っても、すべてのアーカイブを視聴することはかなりの高難易度だ。

 そのうえ、何かにじさんじ内で共通の話題があった際に「○○はこう言ってた」「いや、××はそうじゃないと言ってたぞ」というやり取りをリスナー間で行うとなると、もう収集のつけようがない。

 尤も「このアーカイブの何時間何分何秒で、こう言ってたぞ」というのを証拠として毎回示せればいいのだが、リスナーもさすがにそこまで覚えているわけではなく、自身の記憶に頼らざるを得なくなっている。それをいいことに、明らかに言ってないことを言ったと捏造するアンチも現れ始めている。このように信頼できる情報筋にあたるのは非常に難しいのが現実である。

 我々note投稿者としてはなるべく情報を精査し、正確な情報をお伝えしたいところだが、私は上記のような悩みを感じている。そのうえで、私個人のやり方として、どのように情報精査をしているかをお伝えしたい。

 ところで突然だが、ここで紹介しておきたい人物がいる。「バーチャルエコノミスト 千莉」氏だ。彼は経済学をVTuber界隈の分析に利用した動画をYouTubeに投稿しているだけではなく、note記事も執筆していたり書籍の出版をしたりもしている。私としても、さまざまな学問を用いた分析が行われていく流れは歓迎したいし、経済学の話は非常に興味深い

 だが、彼に関してはVTuber界隈に対する分析方法が少々誤っているのではないかと思われる部分が多々存在する。この違和感はどうやら私だけが感じているわけではないようで、実際に他のnote投稿者数名からも疑問が寄せられている。

 本来、特定の人物を槍玉に挙げるような真似は好ましくないが、noteに有料記事を投稿しているとなると、もう少し慎重に情報を精査した方がいいのではないかと思われる。今回、反面教師として取り上げやすい事例でもあるので、失礼ながら情報精査の観点から批判させていただきたい。

 一次ソースと二次ソースの違い

 前置きが長くなったが、正確な情報を得るためにまず第一に意識しておきたいのは、「当事者ではない人物の発言は信頼できるソースではない」ということである。当事者の発言がいわゆる「一次ソース」、先ほどのようなリスナーの発言や我々note投稿者がVTuberについて事実として発信した情報はいわゆる「二次ソース」にあたる。さらに「二次ソース」を参照した発言はいわゆる「三次ソース」であり、「n次ソース」のnが増えるごとに信用度は減少すると言われている。いわゆる伝言ゲームとなっているからである。

 だが、先に紹介させていただいた千莉氏はこの一次ソースと二次ソースの違いをよく理解されていないようである。たとえば先の有料記事の無料部分に書かれている「もこ田めめめさんと花京院ちえりさんの2名は追加枠で合格することができたのです。」という部分についてだが、この点に関して私は「もこ田めめめと花京院ちえりが"追加枠"で合格したと公表されたことはないのではないか?」という旨の指摘をさせていただいた。

 つまり「一次ソースはあるのか否か」という内容の質問であり、私としては「そのような情報が公表されたことはありませんが、○○という理由で"追加枠"と表現させていただきました」と返答されるのであれば納得するつもりでいた。しかしながら、驚いたことに千莉氏が掲示してきたのはPANORAの記事であった。これはもこ田めめめと花京院ちえりの事務所に対して取材を行ったわけでもない「二次ソース」である。私が行った質問に対しては明らかに不適切な回答だ。

 また、このような反論が許されるのであれば、極端な話で言えば、自分で記事を書き、自分でそれをソースにするということまで許されてしまう。特にWikipediaのような誰でも無料で編集できるサイトだと、自説に都合のいい記述をしているとみられる記述は散見される。あくまで二次ソースは参考程度に留め、鵜呑みにすることは控えるべきだ。

 尤も私も、アイドル部に関連する配信はすべて視聴しているとは言え、Twitterでの発言や動画内での発言をすべて覚えているなどとは言えない。もしかしたらリアルイベントの場でポロッと「もこ田めめめと花京院ちえりは"追加枠"で合格した」という旨の発言が為されたという可能性も否定できない。ここで必要となるのはまず公式Twitterでの発言の確認だろう。

 そこで私は「もこ田めめめと花京院ちえりがアイドル部としてデビューしたのは2018年5月以降のことだった」と記憶していたため、アイドル部を運営する事務所『.LIVE』の公式TwitterのIDを検索キーワードとし、「2018-04-30」までのツイートを検索してみた。すると、下記のようなツイートがヒットした。

 上記のツイートでは、「もこ田めめめと花京院ちえりが"追加枠"で合格した」などとは一言も書かれていない。「10人同時リリースが12人同時リリースに"変更"された」というほうが表現として正しい。しかし、デビュー発表時点のツイートを確認するだけでは不十分かもしれないと思い、念のため「from:dotLIVEyoutuber 追加」でもツイート検索してみたが、アイドル部のデビューとは無関係なツイートしかヒットしなかった。

 なおリスナーの反応も確認しようと「アイドル部 追加枠」でもツイート検索してみたが、一次ソースを参照にしたうえでの発言とは思えないツイートしかヒットしなかった。何故そう思えなかったのかと言えば、仮に配信中にてそのような発言があったのならば同日付の同時間帯に、同じような反応が複数あって然るべきだからである。しかし、そうではなかった。

 また、アイドル部は男性VTuberのばあちゃるがプロデューサーを務めており、彼のチャンネルでアイドル部メンバー12人を紹介する動画が投稿されていることも記憶していたため確認してみた。

 上記の動画の開始14秒頃からの説明では「12人のうち2人はすでにもうバーチャルYouTuberとして活動されていた」「今回一緒にデビューするということ」だとしている。やはりここでも「追加枠」などという表現はされていない。ここまで確認すれば「もこ田めめめと花京院ちえりがアイドル部の追加枠でデビューしたという事実は確認できない」とまでは言えるだろう。これが私が行っている一次ソースの確認方法である

 尤も「追加枠」という概念が存在していたのか否かは、運営の内情を知り得ない我々からすれば断言することはできない。しかしながら、オーディションの流れをはじめから考えてみれば分かることだが、「10人のデビューを決めるオーディションに12人が合格した→そのうち、ふたりはすでに個人勢としてデビューしていたので、デザインや設定の一部を流用しデビューさせた」という流れだったのだろう
 これを「追加枠」と表現してしまうと「10人の合格が決定する→その後、ふたりのデビューも決定した」という流れであるかのように思われてしまい、不適切である。あくまでアイドル部メンバー12人は同時に合格が決定したのであり、もこ田めめめと花京院ちえりが追加で合格したわけではないのは誤解しないでいただきたい。

 自説にとって都合のいい事例、都合の悪い事例について

 千莉氏の情報精査が不適切なのはこれだけではない。有料部分となるため多くは触れないが、千莉氏は上記の記事にてVTuberの信用度が高いものだとする事例として、賀茂川ドイルのクラウドファンディングを挙げていた。ここでは、クラウドファンディングの成功例という話ではないことには注意したい。下記はクラウドファンディングのページと、Mogura VRでの紹介記事である。

 しかし、賀茂川ドイルには大変酷な話であるが、2019年5月23日にクラウドファンディングを開始し、同年6月16日時点で支援金額が約50万円、目標金額が150万円、残り日数が23日ということになると、単純計算で予測した限り、このクラウドファンディングは失敗する。

 そもそも50万円という金額はクラウドファンディングの支援金額としては、たいして大きいわけでもない。ざっとトップページを確認するだけでも、少々怪しげなプロジェクト(失礼)でも100万円以上の支援を受けている事例が多々あることが分かる。

 この点、私としてはあまり有用なデータを持っていないため断言することは難しいが、信用度という観点ではもっと低いプロジェクトがより多くの支援金額を得ているのではないだろうかと思われる。

 尤もクラウドファンディングの最終日直前となり、一気にブーストがかかり成功するという可能性は十分に考えられるが、まだそうした結果も得られていないのに、千莉氏が何故今回の事例を好意的な意味で取り上げたのかは理解に苦しむところである。これは自説を補強するための事例が不適切であるという話である

 とは言え、VTuberのクラウドファンディングの成功例としては、富士葵、斗和キセキ、花譜の三例が有名であり、そうした自説の補強には都合のいい事例だけを取り上げたわけではないという姿勢には好感が持てる。

 これは私の自戒でもあるが、都合のいい例だけを取り上げることによって、自説を尤もらしく仕立て上げる行為は実は容易である。何せすでにデビューしているというVTuberだけでも8000人を突破しているのだ。その中から都合のいい例だけ取り上げればいいだけだ。

 これはVTuberのアンチがよく用いる手法でもあり、「キズナアイの動画再生数が中堅YouTuber程度だから、VTuberはオワコン」などと言うこともできてしまう。これは「早まった一般化」と呼ばれる認知の歪みでもある。

 これに対する私の対策としては、なるべく多くの事例を参考にすることとしている。たとえばVTuberのまとめ記事やニコニコ大百科の掲示板を読んだりである。Twitterやnoteでのそれぞれの意見も興味深く、気になった事象についてはなるべく多くの意見を読むようにしている。

 それでも都合のいい事例だけを取り上げるということはやってしまいがちではあるので、これに関しては方法論というよりも情報を発信する者としての心構えという話かもしれない。これは別にnote投稿者などに限った話ではなく、インターネットで意見を書き込む者はみんな気を付けるべきことだと思う。

 また、当然ながら都合の悪い事例が確認された場合には、自説の修正を行わなくてはならないだろう。そうでなければ、自身がデマの発信源ということにもなってしまうからだ。

 総論

 総論としては、まず第一に当事者が発表した情報、いわゆる一次ソースにあたることが肝要であると言える。二次ソースはあくまで参考に留めなければ、適切な情報分析の妨げとなることもある。

 無論、「リスナーの中ではこういう意見もあった」という事例として取り上げる分にはなんの問題もないが、それにしても極端な意見を取り上げて自説を尤もらしく見せるのは好ましいやり方ではない。そうならないようにするためには、なるべく多くの情報にあたることと、情報発信者としての心構えが必要となる。私としても自戒を込め、本記事は締めさせていただきたいと思う。

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