ゆーはむと朱宮キキの明暗を分けた宣伝力

「チャンネル登録者数1万人いかなかったらVTuber引退します」

 そんなようなことを言ったVTuberは何人かいるが、特に有名なのは朱宮キキと、ワタナベエンターテインメント所属のゆーはむこと葉邑ゆうのふたりだろう。しかし、キキは1万人という目標を達成することができずに引退、ゆーはむは見事1万人という目標を達成し、VTuberを継続することが決定した。その差は一体どこにあったのだろうか。

 朱宮キキは間違いなく逸材だった

 まずは下記の動画を観て欲しい。タイトルの通り、こちらはキキのオリジナルソングとして制作された『Moment』の動画だ。

 この力強い歌声と楽曲、深みのある歌詞、あえてキキの表情を見せないことで想像を掻き立てるアニメーションはどれをとっても完成度が高いと言っていいだろう。キキが引退した今となっても、繰り返し視聴する人もいるほどで、私もそのひとりである。

 また、キキは語学堪能な一面もあり、英語のマシュマロに対して英語で返したり、英語の曲を歌ったりなどもしていた。キキはVTuberが持つべき一芸は間違いなく備えていたと言えるだろう。

 ゆーはむは一体何者なのか

 一方で、ワタナベエンターテインメントに所属するというゆーはむとは一体何者なのだろうか。ここでゆーはむの最初の動画を観てみることとする。

 サムネだけでも分かるが、この動画を観ると、同じくワタナベエンターテインメントに所属するサンシャイン池崎やブルゾンちえみ、ネプチューンなどが登場しており、最初から芸能界に強いコネクションがあったということが分かる。いくら芸能事務所発のVTuberとは言え、ここまで多くの芸能人を巻き込むというのは相当な鳴り物入りであるだろう。

 しかし、正直なところ、この動画だけではゆーはむ自身のことについては素朴で真面目そうな性格であるということしか分からないだろう。ゆーはむにも何か一芸はあるのだろうか。ここでいくつか動画を観てみたいと思う。

 さて、ここまで観て、あなたのゆーはむへの評価はどうだろうか。もちろん好みの差があることは否定しないし、ゆーはむを批判することが目的というわけでもないのは誤解しないでいただきたい。

 しかし、声真似のレベルも、瞬発力も、特に本人が下手だと自称している歌も、素人以下だと言わざるを得ないのではないだろうか。テレビ番組のひな壇タレントならともかく、個人の資質が重視されるVTuber業界で生き抜くにはかなり厳しいように思われる。

 明暗を分けた決定的な宣伝力の差

 では、キキとゆーはむの明暗を分けた差は一体どこにあったのだろうか。結論はやはり本記事のタイトルの通り、宣伝力の差があったためだろう。キキの運営会社は明らかにされてはいないが、おそらくはあまり強い後ろ盾はなかったものだろうと推測される。一方で、ゆーはむが所属するワタナベエンターテインメントは日本人ならばほとんどが知っている大手芸能事務所である。実際、下記の通り多くの芸能人がゆーはむの宣伝・支援のツイートをしている。

 また、ゆーはむは椎名唯華やアメノセイ、インサイドちゃんなど有名VTuberとのコラボも行っていたが、それに対してキキは最初から最後まで他のVTuberとのコラボを行うことはなかった。ソロの力だけで這い上がろうとする胆力は十分に評価に値するものではあるが、まずは多くのユーザーに知ってもらわなければ話にならない。

 尤もツイッター上では朝ノ瑠璃などのVTuberもキキの引退を回避しようとするツイートを行っていたが、それだけでは宣伝力が足りず、キキの引退という結果に終わってしまったと言わざるを得ないだろう。

 このゆーはむとキキのふたりの事例から見えてくることは、まずVTuberの魂の資質よりも何よりも、多くのユーザーに知ってもらうための宣伝や他のVTuberとのコラボが重要であるということである。何がなんでもまずは知ってもらわなければ満足に活動を続けることもできないのが企業勢VTuberの現状だと言えよう。

 ところで、ゆーはむは成功しているのか?

 さて、ゆーはむは芸能人とのコネクションがあるという強みを活かして登録者数1万人という目標を達成した。これでもはや順風満帆、なんの不安もなくVTuber活動を続けていくことができる、……のだろうか? そう思いたいところだが、平成最後の日に下記のようなニュースが飛び込んできた。

 こちらは、「株式会社ドワンゴら5社が設立したVTuber事業会社・株式会社リドの解散」に関するニュースが最初に載っているが、重要なのはそちらではなく、ゆーはむの運営を行っていたというワタナベアマダクションの解散という方である。

 このことと関連があるかは不明ではあるが、ゆーはむは4月11日より2Dモデルでの活動を開始。3Dモデルはお金がかかるから封印しているという経費削減の意図があることや、スタッフがめちゃめちゃ減ったことも認める旨の発言をしている。

 いずれにせよ、ゆーはむの登録者数は少しずつ減り続けており、今では1万人を切ってしまっているし、ゆーはむ自身が語る現状から言っても運営が上手くいっているとは言い難いだろう。

 結局のところは、ただ強力な後ろ盾があるというだけでも厳しいのだということが感じられる。VTuberというのは魂の資質と同時に運営の宣伝力が求められるコンテンツなのだろうというのが全体的な結論となる。VTuber業界は芸能界とも変わらない生き残りが厳しい業界である。

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