VTuberはキャラを「壊す」と炎上するが、「崩す」とバズるというお話

 VTuberのキャラクタータイプは大きく分けて、すべてに台本が用意され声優(あるいはボイスロイドなど)は声を当てるだけの「演劇型」、予め決められたキャラクター設定を遵守することに重きを置いた「ロールプレイ型」、キャラクター設定よりも魂(声優)の性格を重視する「アバター型」の3タイプに分けられるだろう。尤も「この中でどれかひとつのタイプしか当てはまらない」というVTuberはそれほど多くはないはずだ。

 キズナアイの場合

 たとえばキズナアイは多くの動画では「演劇型」として振る舞っているように見受けられるが、生放送などでは「ロールプレイ型」に切り替えているようだ(そもそも生放送でスタッフが指示出ししていたとしても、台詞を読み上げるだけという方式をとるのは不可能だろう)。

 そう考えると、キズナアイはキャラクター設定を(完璧とは言わないまでも)固く守ろうとしているようにも思われるが、「欅坂46のファン」といった要素は魂の趣味が色濃く出たものと考えられ、そういった意味では部分的には「アバター型」と言えなくもないだろう。個人的感覚としては6割「演劇型」、3割「ロールプレイ型」、1割「アバター型」という風に見える。

 電脳少女シロの場合

 キズナアイと並びVTuber界隈の先駆者として知られる電脳少女シロの場合は活動初期と現在では少々事情が異なる。初期はキズナアイの存在を強く意識していたためか、「演劇型」「ロールプレイ型」「アバター型」の割合はキズナアイと同程度だったように思える。

 しかし、『LITTLE NIGHTMARES-リトルナイトメア-』『PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS(PUBG)』などのゲーム実況を始めるとともに自由奔放な発言が目立つようになり、「アバター型」としての特性が強くなっていったように思われる。だが一方で自我を持ったばかりのAIであるといった設定は決して崩さないため、現在では3割「演劇型」、3割「ロールプレイ型」、4割「アバター型」といったところであろう。

 月ノ美兎の場合

 にじさんじの委員長こと月ノ美兎は典型的な「アバター型」と思われがちであるが、そう言うよりも「月ノ美兎というキャラクターを俯瞰視する何か」と言ったほうが正確だろう。彼女の有名な台詞である「わたくしで隠さなきゃ」は、彼女のバーチャルな姿をアバターとして扱いながらも、「アバター=わたくし」であることを強く意識したものである。

 また、彼女は「自分は清楚な委員長である」という主張をたびたび行っているが、これに関しては公式のキャラクター設定を遵守しようとするものである。にもかかわらず、一般には奇抜とみられる言動も多く、どこまでがキャラクター設定なのかは読み取りにくい。一見すると電脳少女シロと近いタイプではあるが、生放送主体の活動を行っていることから鑑みると、「演劇型」としての特性は弱く、1割「演劇型」、4割「ロールプレイ型」、5割「アバター型」くらいだろうか。

 素の性格が垣間見えるVTuberはコアなファンがつきやすい

 ところで、上記にあげた3人はいずれもトップクラスの人気VTuberであるが、それぞれのファン層を見ると、ファンもまたそれぞれの特性を持っているように思われる。

 キズナアイに関してはコアなファンは少なく、多くのライトユーザーに好かれている印象だ。そして電脳少女シロと月ノ美兎は動画や配信の多くを継続して追っているコアなファンが多いとみられる。それは生放送の同接人数が多いか否か、いわゆる語録と言われる用語を知っているファンが多いか少ないかといったバロメーターではかることができるだろう。今回具体的なデータを出すことはできないが、VTuber界隈全体を見てきた人たちならばおそらく納得してもらえるかと思う。無論、どちらの方が良いとか悪いとかの話ではないことは強調しておきたい。

 ただ、ひとつ言えるのは「キャラクター設定を遵守する」ことは必ずしもコアなファンをつけることに作用するわけではないということだ。いや、むしろキャラクター設定が枷となり、コアなファンがつきづらいということすらある。何故なら「キャラクター設定を遵守する」ことは、ユーザーとの双方向性のあるやり取りをしづらくするものであるからである。ユーザーからすれば生きた人間として接しているにもかかわらず、返ってくる回答がキャラクターとしてのものであれば、心の距離感を感じてしまうということもあるのだろう。

 そもそもキズナアイが日本で人気を得るようになったのも、生放送でユーザーの名前の読み間違いをしてしまったことにあるとされる。その読み間違い方はネットミームに精通している故のものと考えられるため、言い換えればそれはキズナアイの素の性格が見えた瞬間であり、その瞬間にバズったのである。その本質は電脳少女シロが自由奔放な発言で人気を博したことと変わらないものだろう。ユーザーは、VTuberの素の性格がふとした瞬間に漏れることを期待しているのである。

 一方で、月ノ美兎ははじめから「とんでもない奴が現れた」という認識がなされていたため、素の性格が漏れたことにより人気となったわけではないと思う人もいるかもしれない。しかしながら、グロテスクな映画『ムカデ人間』を観たなどと発言することはユーザーにギャップのある印象を与え、同時にキャラクター設定を遵守しない素の性格が漏れたと思わせた。
 実際には映画研究部所属という設定であり、趣味の一環として『ムカデ人間』を観たとしてもキャラクター設定から大きく外れているようには思えないが、重要なのは「清楚な委員長であるはずなのに、清楚とは思われない発言をした」ということである。一言で言えばオタクはギャップに弱いのである。

 一方で、意図したキャラ崩壊は炎上しやすい

 ここまで読んだ人たちの中には「では、御伽原江良は何故炎上したのか?」と思う人もいるかもしれない。炎上の経緯について端的に説明すると、『魔法の解けた御伽原江良』というタイトルで生放送をはじめ、普段の声とは違う素の声を披露したために批判されることとなったのである。

 しかし、正確に言えばあれは言い方ややり方が悪かったために炎上したのだろう。詳細に説明した記事もあるため、こちらをご確認いただきたい。

 そもそもミッキーマウスがファンの前で「今から魔法を解くよ」と宣言してから、突然着ぐるみを脱ぎ出したりしたならば、それは炎上するに決まっている。「素の性格がふとした瞬間に漏れること」と「意図的なキャラ崩壊」は別物であると認識しておきたい。

 総括

 こう考えると(無論同じ人が言っているとは限らないが)「魂の性格が重要である」という意見と「キャラクターを壊すな」という意見は矛盾なく成立するのではないかと思える。狙ってやってはいけない、少なくとも狙ってやったとは思われてはいけないというのも難しいところではあると思うが、コアなファンを獲得したいのであれば、キャラクター設定の遵守は第一に考えなくていいだろう。

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