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中論ー27

第27章 誤った見解の考察

1.過去世に於いて[我れは在ったか][また無かったか]など.また此れらの世界は常住である.などと言う二種の四つの見解は.過去の一方的な見解に依っている…
2.未来の世に於いて[我れは存在しないのであろうか][或いは[他のものとして存在するのであろうか]また[世界は有終である]などと言う諸々の見解は後の未来の一方的な見解によっている…
3.過去世に於いて[我れは在った]というこの事は成立しない.何となれば前の生涯に於いて在ったものは.そのまま此の我れではないからである…
4.しかしながら.前世に在ったアートマ(我)が今の我れとなっていると言うのであれば.執着の因(個人存在を構成している五要素.五蘊)が.アートマ(我)とは区別されてしまう…では執着の因を離れた.それと異なった如何なるアートマ(我)が汝に在するのであろうか…
5.執着の因を離れた[別のアートマ(我)は存在しない]と言う事が成立したならば.[アートマ(我)は執着の因である]と言う事になる…では汝にとってアートマ(我)など存在しないと言う事になる…
6.また執着の因が.そのままアートマ(我)なのではない…その執着の因となるものは消失しまた興起する事となる…実に執着の因が執着して取る主体(魂)であると言う事が.どうして在り得ようか…
7.また執着の因と異なる[執着の主体(魂)]なるものは在り得ない…何となれば.もしも両者が異なるならば.執着の因を持たない主体(魂)なるものが認識される筈である…しかしその様なものは認識されない…
8.この様に.そのアートマ(我)は.執着の因と異なったものではないし.また執着の因と同一でもない…執着の因を持たないアートマ(我)は存在しない…またその様なアートマ(我)が存在しないと言うのでもない…この様に決定される…9.過去世に於いて[我れは存在しなかった]と言う事は在り得ない…何となれば前の生涯に於いて在ったものは.今の我れと異なったものではないからである…
10.もしも今現在ある.このアートマ(我)が.前世のそれと異なったものであるならば.以前の生涯に於けるアートマ(我)を捨てて存在するのであろう…しからば以前からのアートマ(我)がそのまま存続する事になるであろう…或いは不死のもので在りながら.また生まれると言う事になるであろう…
11.然らば個人存在の断滅.諸々の業(カルマ)が果報を実現する事なしに滅びてしまう事.また他人の為した業(カルマ)の報いを別の他人が享受する事になるなどの欠点が付随して起こるであろう…
12.アートマ(我)は以前には存在しないで今.生起したのではない…もしもそうだとすると.欠点が付随して起こる事となる…或いはアートマ(我)は造られた本性のものとなってしまうであろう…或いは原因がないのに生起したものとなってしまう…
13.この様に[過去に於いて我れは無かった]とか.[過去世に於いて我れは在った]とか.[我れは両者であった]とか[我れは両者ではなかった]とか言う此の見解は成立しない…
14.[未来の世に於いて我れは存在するであろうか]とか[未来の世に於いて我れは存在しないであろう]とか言うこの見解は.過去世に関するものと同様である…
15.もしも[神であったものが.此の人間となる]のであれば.この様な見解は常住を執するものである…また神は生じないものとなるであろう…何となれば常住なるものは[生ずる]と言う事がないのだから…
16.もしも人間が神と異なったものであるならば然らば.此のような見解は.無常を執するものとなるであろう…もしも人間が神と異なったものであるならば.個体としての連続は在り得ない…
17.もしも連続している個人存在が.一部分は神的で.一部分は人間的で在るならば.無常でもあり.常住でもある事になるであろう…しかしそう言う事は理にあわない…
18.もしも無常と常住との両者が成立するならば[無常でもなく.常住でもない]と言う事が.欲するままに成立するであろう…
19.もしも或る人が.[何処から来て.また何処かへ行く]と言うので在るならば.その故に輪廻は無始のものとなるであろう…しかしながらその様なものは存在しない…
20.もしも[如何なる常住なるものも存在しない]のであるならば.如何なる無常なるものが存在するであろうか…また如何なる常住にして無常なるものが存在し得るであろうか…また両者を離れて[常住でもなく無常でもない]如何なるものが存在し得るであろうか…
20.もしも[如何なる常住なるものも存在しない]のであるならば.如何なる無常なるものが存在するであろうか…また如何なる常住にして無常なるものが存在し得るであろうか…また両者を離れて[常住でもなく無常でもない]如何なるものが存在し得るであろうか…
21.もしも世界が時間的に有限なるものであるならば.どうして他の世界(来世)が存在するであろうか…またもしも世界が時間的に無限であるとしても.どうして他の世界(来世)が存在するであろうか…
22.個体の諸々の構成要素より成る.この連続は.灯火の光輝の連続のように続いて存在しているから.それ故に時間的に有限であるとか無限であるとか言う事は.理にあわない…
23.もしも個体を構成している以前の諸要素が壊滅し.そうして個体を構成している此の諸要素に縁って後の諸構成要素が生起しないのであるならば.世界は時間的に有限なるものとなるであろう…
24.もしも個体を構成している以前の諸要素が壊滅しないで.そうして個体を構成している此の諸要素に縁って後の諸構成要素が生起するのでないならば.然らば世界は時間的に無限となるであろう…
25.もしも世界が.一部分は時間的に有限で.また一部分は無限であると言うならば.世界は時間的に有限にしてかつ無限なるものであるという事になるであろう…しかしその事は理に合わない…
26.また執着して取る主体の一部分が消滅して.他の一部分が消滅しないという事が.どうして有り得ようか…そうだとするならば此の事は理に合わない…
27.また執着の因の一部分が消滅して.他の一部分が消滅しないという事が.どうして有り得よつか…この事は成立しえない…
28.もしも時間的に有限である事と無限である事との両者が成立するのであるならば.時間的に有限でもなく無限でもないと言う事もなるほど成立するのであろう…
29.或いはまた.一切のものは空であるから.常住などの諸見解は.いずれが何処で.誰の為に.何故に起こるのであろうか…
30.一切の誤った見解を断ぜしめる為に憐みんを以って正しい真理を説き給うたガウタマに我れは今.帰命し奉る…

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