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Fortunato No.4

南米の旅は続きます。
リマのトランジットでトラブルがあり、朝4時半に出発したのに、飛行機に乗れず12時まで待つことに。
しかし、そこで良いことが二つありました。

一つは、Astrid Gutscheさんのレストラン「Tanta」がリマの空港内にあるので、行ってきました。ここはメニューも料理もスイーツも、めちゃくちゃ参考になるのです。

二つ目は、たまたま隣に座った女性が、ペルーの政府機関で働いていた方で、過去20年のコカイン撲滅とカカオに対する農業政策の実態を聞くことができました。
悪いことばかりじゃないですね。

ベネズエラからペルーのリマへ入り1泊し、早朝の便でチクラヨへ、そこからハエンまでは陸路で8時間。ここでもう1泊。リマからは12時間の長旅でした。
途中、峠越えでは崖崩れが4ヶ所。雨季の間は川が氾濫し、すぐに通行止めになるそうです。
いつも、行き難い場所にあるのがカカオ農園です。
第4のカカオと言われている「National」が発見されたマラノン・キャニオンへは、ハエンから車で2時間。ようやく到着です。

農園はカカオエコノミーの中で、1番川上にあります。カカオを植え、病気から守り、雑草と枝を切って管理し、収穫し、カカオを発酵施設まで持っていくのが農園の仕事です。
ハードワークなのは想像がつくと思いますが、どこの農園でもかなり苦しい生活を強いられています。電気やガスがなかったり、車もない所がほとんど。子供達は鶏やガチョウ、牛の世話をし、学校まで2時間歩くのが当たり前だったりするのです。

僕らが、農園から直接豆を買い付けるダイレクトトレードを行っているのは、マージンを取る中間業者を抜くためで、フェアトレードと言う名ばかりのマーケティングとは全くの別物です。
以前、マラノン・キャニオンでは、農園からチョコレートブランドへ豆が届くまでに、8つの業者が入っていました。
それを、最低限の3つで届くようにしたのです。
そのために世界中の農園を周り、中間業者に取られているマージンを除いて、発酵コミュニティや農園に収入が入る仕組みを作っています。
しかし、実際現場に来てみると、農園の暮らしは依然として苦しいままです。
一体どこが儲けているのでしょう??
だいぶ見えてきましたが、もう少し深くリサーチする必要があります。

National は、その独特のフレーバーとアロマ、大きさも味も素晴らしい豆なのは、間違いありません。
1929年に エクアドルで疫病が発生し、Nationalは全滅。その影響で世界一のカカオ生産国であったエクアドルのカカオ産業が壊滅しました。
その豆が、2008年アメリカ人の、Dan、Braian親子によって発見されます。親子がペルーを旅していると、素晴らしいカカオがあるという話を聞いてマラノン・キャニオンへ。その豆をDNA鑑定に出すと、Nationalであることが判明し、大事件になるのです。
その謎を解くためにペルーまで来ています。

National のMother Treeは、地元で100年以上続くFortunato Colala氏(78)の農園にあり、「Fortunato No.4 」と名付けられています。
このMother Treeは何としても守らなくてはいけませんが、日本同様、田舎の農家に若者の姿はなく後継者がいません。
Fortunatoさんの家でお昼をご馳走になりながら、たくさんの話を聞かせてもらいました。
家はキレイに整頓され、質素ですが清潔感があります。食卓に並んだ食材は、すべて自前の野菜や家畜、果物で、もてなしてくれている気持ちが伝わり、とても嬉しくなりました。
可愛いモルモットを食べるのはなかなか厳しいものがありましたが……。

最後に、Fortunatoさんが小さな声でスピーチをしてくれました。次第に声を振り絞って、涙を流しながら、貧困や娘さん達への想いを話してくれました。それを聞きながら、娘さんも10歳になる孫娘さんも泣いていました。
貧しいけれども、温かくてとても素敵な家族です。
僕にはスペイン語は分かりませんが、何を言っているのか想像ができ、そこにいた全員が涙しながら聞いていました。
僕にも孫娘さんと同い年、10歳になる娘がいて、心をギュッと掴まれたのです。

相変わらず僕には力がなく、残念ながら彼らの生活を変えることは出来ませんが、Fortunatoさんが育ててくれたカカオでチョコレートを作ることは出来ます。
旅をしていると、感動することに出会うので、ちょっとしたことでイライラしたり、人に当たったりしている場合じゃないなと、毎回反省させられています。
少しでも、周りの人達が幸せになる活動を続けていきたいと思います。
僕はこの日のことを一生忘れないと思います。Fortunatoさん、ありがとうございました。
 

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