2022年のこと。 全文掲載
大晦日。家に一人。一門の忘年会で食べためざしの美味しさに感激して、早速近所のスーパーで買ってみた。15尾で300円。安い、そして美味しい。グリルの使い方も覚えたから来年は立川吉笑干物元年としよう。窓ガラスの掃除をしてみたけど、何回拭いても拭き縞が残ってしまうから諦めた。昨晩、手帳を見ながらざっと今年の出来事を振り返ってみた。
1月
鯉八兄さん主任の末廣亭下席に呼んでもらった。23日は横浜にぎわい座で初めてのソーゾーシー開催。「落語家」という演目をネタ下ろしした。気づけば最近はやっていないけど、飛び道具としてはパンチ力も強く良いネタができて上々の1年の始まり。
2月
文化放送「談志十七歳の日記」特番で、若い日の談志師匠役のオファーが舞い込む。直弟子の方などもいるなか「自分で良いのかしら?」と思いつつも囃されたら踊れということで、引き受けることにした。19日は日本橋亭で「渋谷らくご大賞&渋谷らくご創作大賞」受賞記念の会。冷たい雨が降る中、満員御礼。嬉しかった。
3月
渋谷らくごで「立川吉笑三題噺六日間」。師匠をはじめ豪華なゲスト陣に助けてもらいながらタフな六日間を過ごさせてもらった。練習してきたことを発揮できた日も、何も思いつかなくて冷や汗ダラダラだった日もあった。三題噺の出来はさておき、連日大勢様にご来場頂けて少しは渋谷らくご恩返しができたのかもと思えた。そして三題噺そのものが持つ圧倒的なライブ感の力を実感した。あらゆる面で一回り成長するきっかけになった。
4月
「渋谷に福来る」でソーゾーシー。当時、注目度が上がりつつあったガーシーをモチーフにした演目「我ぁ私ぃ(がぁしぃ)」をネタ下ろし。「江戸時代のがぁしいが大岡越前や水戸黄門へめくっていく」という設定は自分好みで、挙句「元々は中平という男がいた。ある日、中平が良い人格の『西山』と、悪い人格の『東谷』に分裂してしまった」と展開していくのもバカバカしくて好きだったけど、びっくりするくらいスベった。勝手にネタにしてスベったことがバレたら自分もめくられるんじゃないかと、しばらくはビクビクして過ごした(まさか議員になるとは想像だにしていなかった)。
5月
「真打計画01」開催。3月くらいに「真打」という大きな言葉を掲げた会を始めようと思いついた。それがなんのきっかけでだったのかは忘れてしまった。師匠の集客力に頼りたくなかったから、完全なシークレットゲストにした上で、武蔵野公会堂を満席にできたのは嬉しかった。大きな拍手の中、師匠に高座に上がってもらえて少し誇らしい気持ちに。
6月
3日に2日くらいのペースで高座に上がらせてもらう。ひたすら「ぷるぷる」をかけては磨きに磨いていた時期。目が開かなくなった熊さんのくだり、それまでは両目を閉じて演技していたけど、右目を閉じるだけにした方が伝わりやすいと気づく。こんな風に何度も高座にかけながら少しずつ少しずつ無駄を削ったり、より伝わりやすくなるよう工夫したりを繰り返していた。
7月
都内の新規感染者が3万人を超えたことで「真打計画02」を延期することにした。計画通りに進むことなどないと思っていたけど、こんなに早く軌道修正を強いられることになるとはと驚いた。相変わらず「ぷるぷる」を磨く。七月下席の末廣亭、小痴楽兄さんの芝居。満を持しての「ぷるぷる」は拍手笑いが連発の過去イチのウケに。
8月
ソーゾーシーの夏秋ツアーが始まる。ちょうど同時期にリニューアルしたクイックジャパンの連載「落語のからだアナトミア」と連動する形で味覚をテーマにネタ作りしてみようとできたのが「新食」というネタ。この頃「向こう数年間、向き合っていくんだろう」という自分にとって大事なテーマを見つけることができた。この思索は一冊の本にまとめて「現在落語論2」の次に出版することになると思っている。
9月
ソーゾーシー夏秋ツアーの千秋楽、仙台公演。出番直前ギリギリに文學界に寄稿した短編「歩馬灯」が完成する。ああでもない、こうでもないと夏を費やしてなんとか仕上げることができた。しんどかったけど、きちんと純文学に向き合えたと自負している。自分の中の泥みたいな部分を徹底的に掬い取っていく作業は、普段の落語家としてのチャンネルとは違い過ぎて、その温度差に振り回され続ける日々だった。思いがけずミュージックテイトのクラウドファンディングに相当な熱量を注ぎ込むことに。僕ができることは全部やったと胸を張れる。NHK新人落語大賞の予選、無事に突破。よかった。
10月
真打計画03「ひとり旅2022」で仙台・大阪・愛知・静岡・山形・佐賀・福岡へ。いずれは真打披露という形で師匠や先輩方と各地に伺えたらいいなぁと思っていて、そのための第一歩を。25日、全国若手落語家選手権の予選。誰もが桂二葉さんを大本命と思っているであろうなか、ひたすら磨き抜いた「ぷるぷる」の威力を試す絶好の機会だなと。さながらM-1準決勝のつもりで挑む。結果、トリ出番の有利さもあって予選通過。一安心。31日、NHK新人落語大賞本選。満点で優勝。文珍師匠にこの1年やってきたことを一瞬で看破して頂けて嬉しかった。
11月
真打計画02の振替公演。「キッショウと浜野矩随」。これまでそんなことはしてこなかったのだけど、初めて噺の中に自分を色濃く投影させてみた。というか、自分を投影するためにこのネタを選んだ。年内の独演会はこれで終わりのつもりだったけど、せっかくだから受賞記念の会を12月にやることに決める。NHK新人落語大賞、放送。これまでお世話になった人や自分のことを応援してくださっている方々に少しは恩返しできた気がしてよかった。
12月
師匠と親子会2公演。特ににぎわい座での会、1席目まくらを振らずに「妲妃のお百」。2席目は自分らしい「ぷるぷる」という構成で挑めたことは大きな収穫となった。次のステップへ。14日渋谷らくご「しゃべっちゃいなよ」本選。この一ヶ月で後半がグッとよくなったことでなんとか勝てる目は出てきたかなと思いながら高座へ。「伊賀一景」。結果は伸んべえさんの優勝。そこまで悔しがれなかったことに敗因の全てが詰まっている。一方で、二年連続の渋谷らくご大賞を受賞させて頂くことに。背筋が伸びる思い。24日真打計画04、受賞記念の会。シークレットゲストに太福兄さん・みね子師匠と、らっ好さん。祝祭感溢れる雰囲気で、この夜はもうそれだけで良いんだと思えた。
こういう場合「1年あっと言う間だった」と表現するのが相場だと思うけど、全然そんなことなくて、こうして振り返ってみると「これも今年だったか」「これも今年か」ととても長く感じられる1年だった。それだけ充実していたということだろう。
どうしたって2022年はNHK新人落語大賞を受賞した1年ということになる。別に賞を獲るために落語をしているわけじゃないし、これまでも、そしてこれからもやることは変わらないけど、それでも進んでいる道が間違っていないと大きな自信を与えてもらえた気がする。夜な夜な手探りで稽古したりネタを作ったりしている。それはどうしても孤独な作業なんだけど、「大丈夫、そのままいけ」と声をかけてもらえたような。
2022年、今年もありがとうございました。来年は真打計画がいよいよ佳境を迎えるはずです。新年一発目、真打計画05「立川吉笑独演会」は横浜にぎわい座で。
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3月に予定している「真打計画06」はちょっと変わり種。でも真打になるために経ておきたい道。真打計画07「ひとり旅2023」ではこれまで伺った場所はもちろんのこと、初めての場所にも積極的に伺いたい。繰り返しになるけど、いずれ真打披露でまた伺えるその日のための布石と思っている。そして下半期に予定している真打計画09が大きな大きな正念場。そして年末、真打計画10でまた祝祭感溢れる夜を過ごすことができればなぁと思っています。
良いお年をお迎えください。
立川吉笑
(2022年12月31日 書き下ろし)
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