見出し画像

【無料】あと323日(たぶん):自己顕示欲

4月5日
 入門してすぐの頃に師匠から「とにかく毎日感じたり考えたりしたあれこれを記録しておきな」と言われた。「前座のうちから、お客様に少しでも応援したいと思ってもらえるように自分のことを発信しておきな」「同時にどこまで踏み込んで書くか、どこは出さずに置くかの距離感を見極める目を養いな」そんなことも言われたっけ。
 入門する一年前からずっと記録を取り続けていた僕は、やっぱり師匠と価値観を共有できていると自信がついたことを覚えている。そんな師匠は談志師匠が現役バリバリだった前座時代から今でいうZINEのようなものを作って、お客様に販売・配布されていたらしい。談志師匠は表に出す予定はなかったのかもしれないけど17歳の頃から何十年も毎日日記をつけられていたことは後から知った。笑二と、その下に後輩がいた時だったか、一度師匠から「せっかく他の一門では許されていないブログでの発信を許可しているのに、なぜ能動的に発信しないのか」と強めに叱られたことがある。師匠からは片手で数えられるだけしか怒られていないけど、そのうちの1つはそんなことだった。

 「自己顕示欲が強いね」と揶揄されることには慣れた。そもそも自己を表現したくなかったら芸人になんかなっていない。「自分を表現したいわけじゃなくて、落語を描きたいだけ」と本気で思えている人がわりとたくさん存在している世界だということは知っていて、それはかっこいい気構えだと思うけど、一方でそこまで心酔していたり自信がある落語だからこそより多くの人に届けるための努力をすべきだし、それを放棄しているのは怠惰でしかないと思ったりもする。
 余計なことをベラベラ言葉にせずに高座だけで提示できたらさぞかし粋だし、それがかっこいいことだなんてわかるけど、残念ながらそんな態度で活動してもこれだけ才能豊かな先輩後輩が同時代に活動している現状では自分なんて埋もれてしまうのは目に見えてるし、そうならないために必死で大声で叫び散らすようにこうして言葉を紡いでいる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?