刻命戦隊クロノソルジャー プロローグ #刻命クロノ
'-- 3年前
-- 東京都品川区 八ツ山橋付近 07:42 AM'
「♪あーたーらしい、朝が来た、希望ーの朝ーだ」
品川駅のホームを見渡せる橋の上で『ラジオ体操第一』を口ずさんでいるのは、ひとりの怪人である。
シルクハットを被り燕尾服を着込んだ様は人間のようにも見える。が、その頭はのっぺりとした水晶でできており、奇妙に長い両腕には肘が二つずつ備わっており、両脚は虫の如き逆関節であり──どう甘く見積もっても、人間ではない。
怪人は歌いながら、列車を眺めていた。忙しなく出入りする車両の群れ、入れ代わり立ち代わり乗り降りするスーツの人々。朝早いというのに乗車率200%、車内も駅内も超満員だ。
「♪喜ーびに、胸をひーらけー、大ぞーら仰げー」
そうして怪人は、駅を行き交う人々へと視線を移した。
肩がぶつかり舌打ちする者。隣の女の香水の匂いに顔をしかめる者。リュックを背負ったままの旅行者を睨みつける者……怪人の視線の先では、人々の怒りや苛立ちがとめどなく溢れだしている。
歌いながらそれを眺めていたリューズはしかし、不意に耳元(だろう、多分)を抑え、歌うのをやめた。
「この香る風に……ん? はいはーい! リューズ、準備おっけーでーす」
腕に巻いた時計を一瞥し、怪人──リューズは声をあげる。そのまま二、三言会話をして、彼は耳元(?)から手を離した。
「さてさてーそんじゃ……」
そうして彼は、手にしたステッキをひょいと振り上げ──振り下ろす。
「それ、いち! にぃ! さーん!」
直後。
品川駅から、火柱が上がった。
遅れて駅舎が倒壊を始める。柱が潰れ、屋根が崩れ、列車に降り注ぐ。轟音、衝撃、爆発。その振動は、駅舎から少し離れた場所にいるリューズの足元にも伝わってきた。
人々は逃げ惑い、互いに押し合い、突き飛ばす。命の危機に瀕して恥も外聞も捨て去った人間たちはもみくちゃになりながら瓦礫に潰されてゆく。
恐慌と混乱と怒声が場を満たすのを眺めながら──リューズは腹を押さえて大笑いしていた。
「ンギャハハハ! カオスカオス!」
笑い転げる彼の耳に、別動隊の結果報告が届く。東京、渋谷、池袋、クリア。新宿は未だ倒壊中──リューズは耳元に手を当てて、ニヤニヤと言葉を返した。
「まァ新宿は深いからしかたないネー。じゃ、チータ、SNS煽動を開始。アンクルス、終わり次第退却。あとは……ンフフ……ククク……」
リューズは堪えきれず、大空を仰いで哄笑した。
交通網は麻痺、これから多くのネガティブが生まれ、首都を包み込む。そうして膨れ上がったエネルギーは──!
「お待ちくださいね刻王様! もうすぐですよォ!」
彼の姿は、そこで空気に溶けるように消え去った。そして、3時間後。
日本は、常夜に包まれた。
刻命戦隊クロノソルジャー
ep.0
「明けない夜」
(第一話につづく)
◆連載開始しました◆
本作は、以前投稿したプロト版をもとに連載用に加筆・修正を行ったものです。
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