ていたらくマガジンズ__77_

碧空戦士アマガサ 第4話「英雄と復讐者」 Part10

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前回のあらすじ
 リュウモンの力を借りて緑金の戦士へとフォームチェンジしたアマガサは、<雨垂>と同格の超スピードでこれを翻弄し、追い詰めてゆく。
 そんな折、<雨垂>はそれまで秘匿していた能力を解放する。それは兄<鉄砲水>と同じ、破壊の水弾を放つ能力であり──

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「死ねィッ!」

 水弾が亜音速でアマガサに迫る。そこに宿る妖力は、<鉄砲水>の比ではない!

 慌てて体制を立て直すアマガサだったが──間に合わない!

「くっそ、油断した……!」

 アマガサは慌てて両腕をクロスさせ──

 グバンッッッ!

 水弾が、炸裂した。

 全身がバラバラになるほどの衝撃が、アマガサを襲う──はずだった。

『んお……?』「あれ?」

 リュウモンとアマガサが首を傾げる。ダメージはいつまでもやって来ない。と──アマガサの耳に、ソーマの声が届く。

「湊斗さ……じゃないや、アマガサ! 大丈夫ッスか!?」

 次いで、聞き慣れた銃声が響く。カラカサから光弾が放たれた音。そして──アマガサの眼前で、追撃の水弾が蒸発した!

「どわっ!?」

 もうもうと立ち込める水蒸気の中、慌てて体制を整えたアマガサは、ソーマの声がしたほうに視線を遣る。そこには、地に片膝をつき、カラカサをライフルの如く構えるソーマの姿があった!

『お、大丈夫そうだ!』

「よかった!」

 カラカサの言葉に応えながら、ソーマはその銃口を<雨垂>へと向けて引き金を弾いた。放たれたソフトボール大の光弾は、空気抵抗を無視して直進。天気雨を蒸発させながら一直線に<雨垂>へ向かい──

 ドバンッッ!

 その頭上、生成中の水弾を破壊する!

「ヌゥッ!?」

 炸裂した自弾から身を守るように、<雨垂>は大太刀で体を庇いながら後方に跳躍した。そして体制を整えながら、信じられないといった様子でソーマに目を遣る。

「馬鹿な……撃ち落としたというのか……!?」

「エイムには自信ありッス! それより──」

 ソーマは得意げに言いながら、立ち上がった。

「──オレなんかに、注意を取られて大丈夫ッスか?」

「なに──」

 眉を潜めた<雨垂>の頭上に、高速移動したアマガサが出現する!

「ハァッ!」

「くっ……!?」

 落下の勢いを乗せた大扇子の一撃!

 ──大太刀では、間に合わぬか!

 <雨垂>は即座に判断し、居合刀を逆手で抜刀。大扇子の一撃を、紙一重で受け止める!

 ギギッギギギギッ──ッギィンッ!

 壮絶な火花が散り、<雨垂>は不自然な体制で弾かれる!

「ぐぅっ……!」

 一方のアマガサは、空中でくるりと一回転すると音もなく着地し──再度、その姿が掻き消える!

「甘いわァッ!」

 しかし今度は<雨垂>も黙ってはいなかった。大太刀と居合刀という歪な二刀流を構え、急加速!

 ギンッッ! ギンッッ!

 鋭い剣戟音があたりに響く。超高速で激突、数度の打ち合い、また離れ──激突!

 ギギギギギッ!

「驚いたよ! <鉄砲水>の水弾まで使えるなんて!」

「イナリ様に教示いただいた! 貴様への復讐のためになァッ!」

 アマガサが挑発するように声をあげ、<雨垂>は血走った目で応えながら、居合刀でアマガサに襲い掛かる! アマガサは緑風に乗って舞うように身を躱し、渾身の回し蹴りを叩き込む。しかしそれは大太刀に防がれて──

 幾度目かの互角の攻防の後、両者は再び高速で離れた。アマガサが再び足に力を込めたとき──<雨垂>の目が、ギラリと光る!

 ドドドドドドッ!

 次の瞬間、アマガサの周囲に穿ちの雨が降り注いだ!

「っぶねぇっ!」

 アマガサは咄嗟に高速移動! 天気雨の攻撃範囲から脱出し──その時だった。

「……妖力、解放!」

 <雨垂>が目を剥き、低く唸るように宣言した。

 刹那、アマガサの周囲の天気雨が強い虹色の輝きを放ちはじめる!

「これは……!」

『おうおうおう、マズいぞ湊斗!』

 リュウモンが声をあげる。虹色の輝きがその強さを増し、光の結界となってアマガサを包み込む!

「この術で貴様を殺すのが! イナリ様への恩返し! そして──我が兄への手向けだッ!」

 <雨垂>が吼えた。それに応えるように──アマガサの頭上に無数の水弾が生成されてゆく!

 ──それは<雨垂>の穿ちの力と、<鉄砲水>の水弾の融合体であった。

 宙に揺蕩う穿ちの雨、そのひとつひとつに膨大な破壊の力が宿ってゆく。

「っ……リュウモン! 結界は!?」

『無理じゃ! 虹の中!』

「あああそっか! くっそ……!」

 アマガサが相棒と言い合う中、強大なる復讐鬼の切り札が完成する!

 掲げた両刀をアマガサへと向け、<雨垂>が吼えた!

「死ね、アマノミナト!」

 ──その時だった。

「湊斗さん、任せてください!」『走って!』

 ソーマの、そしてカラカサの声が、アマガサに届き──少し遅れて、銃声が響く!

「……! リュウモン、行こう!」

『ええい、南無三!』

 アマガサは走り出す!

 視界一面に広がる破壊の雨。ひとつひとつが致命の破壊力を持つそれらが、アマガサに向かって降り注ぎ──

 着弾するより速く、光弾に迎撃されてゆく!

「はぁっ!?」

 その声はおそらく<雨垂>のものだろう。アマガサはそれを聞き流し、ひた走る──仲間を信じて!

 ソーマの放つ光弾は途中で分裂し、散弾銃のごとく破壊の雨へと向かう。互いの妖力をぶつけ合い、相殺し、炸裂させる!

 キュガガガガガガガガガガガ!!!!

 爆炎が空を染める中、アマガサは虹色の結界から脱出! 爆風に背を押され、走行速度を増しながら<雨垂>に向かってさらに駆ける!

「バカなっ……!?」

「行くよ、リュウモン!」

『おうよ! 妖力、解放じゃァッ!』

 驚愕の声をあげる<雨垂>を睨みつけ、緑金の戦士が吼える! 周囲の天気雨が再度虹色の光を帯びて、今度は怪人を取り囲む!

「──明けない夜はない、止まない雨はない」

 大扇子を手に駆けるアマガサの全身を、緑色に輝く竜巻が覆う。

 そのまま彼は<雨垂>に向かってさらに加速し──トップスピードで、<雨垂>と交錯する。

 <雨垂>の全身を、風が撫ぜる。

 着物が揺れ、髪が揺れ、両手の刀がビリビリと震えた。


 ──それは不思議と、爽やかな風だった。

「……お前らの雨は、俺が止める」

 次の瞬間、朗々と言い放つアマガサは、<雨垂>の背後数メートルの位置にいた。滑るように急停止し、手にした大扇子をパシリと畳む。

「っ……ククク……ハハ……こんなバカな……」

 ──絞り出すように、<雨垂>が笑った。

「僕の……復讐は…………俺は……なんのために……」

「……お前の復讐は、ここで終わりだよ、<雨垂>」

 アマガサは振り返らない。<雨垂>も。

 その手元で、大太刀と居合刀が砕け散る。

「僕が死んでも……次なる復讐鬼が……お前を……」

 ──その言葉は、最後まで続くことはなかった。

 <雨垂>の身体が、傾ぐ。

 全身を網目のように緑色の光が走り、その身体がバラバラに分解されていく。そして──

「…………────!!!」

 ッドンッッ!


 断末魔すら飲み込んで、その身体が爆発した。

「……望むところだ、雨狐」

 天気雨が、止む。

 爆音に揺れる戦場で、アマガサは呟いた。

「──全滅させてやる」

 その言葉を聞き咎める者はいなかった。

(つづく/次がエピローグです)

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