ラーメン屋なら並ぶのに(アマガサ半刻小説)
キャラクター
河崎晴香、佐倉凛、マーベラス河本、他オリジナル
『HOKKORI TV"裏通りの達人"! 本日の達人はー!?』
馴染みの焼き肉屋にテレビの音が響く。私──河崎晴香は、カルビを焼きながら何気なくそちらに視線を遣った。
映っているのは見覚えのある駅前ロータリーだ。以前パトロールで行ったことがある。たしか、今いる場所から電車で30分ほどか──
『ンどうも~~~!!!』
画面を眺めながら考えていた私の思考は、無駄にテンションの高い声で強制停止を食らう。画面に飛び込んできた奴の姿を見て、私は自分でもわかるくらい不機嫌な顔になった。
「……よりによってこいつかよ」
『スーパーミラクルハイッパーサバイバル芸ッッッ人! んマーベルァス! 河・本・です!』
肉を裏返しながらの私の声を、マーベラス河本──私の父親・河崎元晴の声が掻き消した。相変わらず騒がしい奴だ。プライベートでもああだから手に負えない。
『本日はですねぇ! ジョシコーセーの間で話題沸ッッッ騰~~~!! のあの飲み物! んタピオカァッ! ミrrrrrrルクッ! ティィィッ! ……のお店にお伺いします!』
──少しは普通にしゃべれないのかお前は。
私はため息をつきながら肉を引き揚げ、タレをつけてライスに載せる。その間にも無駄に洗練された無駄のない無駄な動きを交えながら、マーベラス河本は目的の店へと歩いていく。
『ご紹介しますッ! ハイパービューティフルカンペキ店長のビューティフル大崎さんです! よろしくお願いします!』
『大崎ですよろしくお願いしますー』
『いやぁ実は私、初タピオカなんですよー! アラフィフが並ぶのもなんだか──』
ギャーギャーと騒がしいレポートを聞き流しながら、私は淡々と肉とライスを掻き込んでいく。
『うわぁ美味しいですね! これ、娘に今度お土産に買ってっちゃおうかな~~~なんて!』
「要らねぇよボケ。そもそも帰ってくるな」
『良いですね! 女性ならこちらの黒糖入りもオススメですよ!』
「勧めるな……誰かこいつを止めろ……」
その後も、マーベラスが勝手に通行人にタピオカミルクティを振舞ったり、喉にタピオカを食らって噎せ返ったりと、ギャーギャーと騒がしいレポートが続く。
私はため息とともに肉とライスを呑み込んで、早々に店を出た。
***
「あ、晴香さん。おかえりなさい……ってなんか機嫌悪そうですね?」
<時雨>本部に戻ってきた私の顔を見て開口一番そう言ったのは、隊員の佐倉凜だった。
「ああ……テレビにマーベラス河本が出ててな……」
「あー……」
凜は困ったように笑い、言葉を続けた。
「最近、引っ張りだこですもんねぇ」
「タピオカミルクティを飲んで”娘にお土産にしよかなー!”とか言い出してさ。そもそも絶縁中だっつの。どの面下げてくる気だあの野郎」
「あはは……そういえば晴香さん、タピオカミルクティって飲んだことあるんですか?」
意図的に、かつ自然に、凜が別の話題を振ってくる。毎回思うが、凜のほうが私より余程大人である。3,4個くらい年下なのに。私はそんなことを思いながら、凜の質問に答えた。
「飲んだことないんだよなぁあれ。気になっちゃいるんだがな。大概話題だし」
「駅前のドンチャってお店が有名ですよ。いつも行列できてます」
「あ、それテレビに出てたやつだ。実際あれってどうなんだ、美味いのか?」
私の問いかけに、凜は「いやぁ」と恥ずかしそうに笑った。
「実は……私も飲んだことないんですよねぇ」
「マジか……ってそういや、あんまし買い食いとかしないんだっけ」
「はい。学生時代の癖というか、なんというか……」
そういえば凜はお嬢様なんだった。照れくさそうに笑いながら、凜の言葉が続く。
「テレビで話題になっているので、気にはなっているんですけどね」
「だよなぁ。わかるわ」
とっ散らかったデスクに座って、私も頷く。
「しばらく前さ、チーズタッカルビって流行ったじゃん。あれ滅茶苦茶美味しくて、週三で食ってたんだけどさ」
「週三チーズタッカルビって相当なハイカロリーですね……」
「やっぱ流行るものってうめーんだよな。ブームが去ったら店が減って悲しい」
呆れたように凜が笑う。チーズタッカルビは美味かった。だが、問題はチーズタッカルビにあってタピオカになかったもの……そう、行列だ。
「でもなんかタピオカに関してはさ、めちゃくちゃ列ができているのを見ると”いやそこまでして飲むか……?”と思っちゃうんだよな……」
「そうなんですよねぇ。好きな芸人さんが飲んでいるのを見て、気になるー! って思って行ってみたらなんか30分待ちとかで……」
「そうそう。ラーメン屋にはいくらでも並ぶんだがなぁ」
はぁー、と二人のため息が重なった。それがちょっとおかしくて、私たちは笑いあう。
「……物は試しだ、行ってみるか、ドンチャ」
「え、今からですか!?」
「おう。乾、午後からだろ? アイツがきたら行こう」
「えええ、いいんですかね!?」
「私の権限で許可する。これは任務だ」
「えっ!?」
「だがしかし、制服で行くと多分怒られる。だから私服で行くぞ。着替えはあるか?」
「あ、ありますけど……」
「よし、決まりだな」
「えええ……!?」
などと言いあいながら、私たちは乾の出社を待つ。
その後やってきた乾が「タピオカなら任せてください」とか言いながらついてくるわけだが、それはまた別の話だ。
(おわり)
この作品はニチアサライダー風変身ヒーロー小説『碧空戦士アマガサ』のお題企画から生まれた、番外編ショートショートです。
お題企画については以下の記事をご参照ください。
お題はまだまだ募集中。
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- 思考メモ -
お題:タピオカミルクティーが気になるけど、流行りすぎて世間の空気もあれで今更な感じもするけど、やっぱり気になる晴香さん
マーベラスは親バカなので女子高生の間の流行りを見て「晴香もよろこんでくれるはず!」みたいに言い出す。忘れがちですけど娘さんもう学生じゃないですよお父さん
晴香さんは晴香さんで、職場に佐倉テレビっ子凛がいるので「なんか女子高生の間でタピオカミルクティー流行ってるらしいですよ」みたいな会話はあると思うんだよな(凜も大学生くらいの年齢だけど、買い食いが許されないご家庭の育ちなので飲んだことはないと思う)。晴香さん流行りもの自体は好きだというか、その流行りものが美味い場合「大量に食える今がチャンス」とか思っちゃうタイプなのでチーズタッカルビとか流行ったとき滅茶苦茶食ってそう。
お題の通りに悩んでいる晴香を見て、凛が「じゃあ晴香さん、行っちゃいましょう!」みたいになって行くまででひとセット。仕事あがり、駅前のタピオカ屋さんに行ってみる二人。なお二人とも私服。制服だと怒られるので。
(1時間15分/2139文字)
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