装震拳士グラライザー_設定集_2_

阿吽昇天 Part6 #グラライザー

第1話
「阿吽昇天:装震拳士グラライザー(68)」

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前回のあらすじ
 千寿菊之助は68歳のヒーローである。彼はかつての宿敵・人造人間リュウと協力し、襲いきたハイドロ帝国の怪人たちと戦いを繰り広げていた。
 ヨモツ・ヘンゲしたハイドロ帝国四天王は、グラライザーとコクリュウを圧倒。更に、4人のフルパワーを掛け合わせた必殺技を放つ。
 全てを消し去るビームが直撃する寸前、リュウの魔法によって上空に逃げ延びた二人。凄まじい被害に恐々としつつも、リュウは不敵に笑った。反撃、開始である!

「今はそれよりも……反撃だ」

 その直後。

 コクリュウは、飛翔魔法を解除した。

「えっ──」

 俺の声が置き去りにされた。

 上空200メートル。髪が逆立ち、暴れる。内臓がせりあがる。景色が急激に流れゆく!

 突如やってきた落下感に、俺は思わず悲鳴を上げた。

「ウオアアアあああああ!?!?!?」

「情けねー声出すなジジイ!」

「あああああああ死ぬ死ぬ死ぬ待て待て待て待て!?」

「待たん! 腹ァ決めろ!」

 怒鳴るコクリュウは剣を振り上げている。みるみる内に地上が、そして海産物四天王の姿が迫る!

「行くぜ、構えろ!」

「あああああああああもうわかったよ畜生!」

「ゲーッソゲソ……エッ?」

 俺たちの喚き声が聞こえたのか、ハイタッチなどしていた怪人たちは空を見上げた。ギョッとした様子の連中に向かい、俺たちは得物を構え──叩きつける!

「「グラン・インパクト!!」」

 大地が、震え──捲れ上がる!

「ゲソーッ!?」「ウオーッ!?」

 柱の如く吹き上がる土砂と共に、怪人たちが悲鳴と共に吹き飛んでいく。出来上がったクレーターの中心で、コクリュウは悠然と剣を担いた。

「チッ。ついでにぶった切ろうと思ったんだが、流石に避けられたか」

「おいリュウてめぇ! せめて説明してからやれ! 死ぬかと思っただろが!」

「スピード重視だ。それより──そっちの二体、任せるぞ」

 一方的にそう言って、コクリュウは怪人たちを見回した。地面を転がった怪人どもは得物を構え、俺たちを包囲する。声をあげたのはイカオーガだ。

「莫迦なっ……なぜ生きている……!?」

「ふん」

 コクリュウが鼻を鳴らす。そして──次の瞬間には、イカオーガの眼前に出現していた。

「いちいち説明する義理はねーよ」

「ゲソォッ!?」

 ガギンッと金属音が響く。振り下ろされた剣を辛うじて触腕で受け止めたイカオーガに、コクリュウが立て続けに斬撃を繰り出す!

「イカオーガ!」

「そいつから離れろ、ぶっ殺すぞ!」

 そこへきてようやく、残りの四天王が動いた。カジキヤイバとシャチデビルが声を上げ、助太刀に入ろうと足を踏み出し──その時だった。

 二人の脚が膝まで地面に呑み込まれた。

「し、沈むっ……!?」「ヌゥッ……!?」

「おいおい、あんま動くとマジでどっぷり沈むぜ?」

 怪人たちが声をあげる中、俺は腰に手を当てて警告した。じたばた藻掻きつつ、シャチデビルが恨めしげに叫ぶ。

「ぐ、グラライザー! なにをしたぁー!」

「液状化だよ、液状化。最近は社会問題になってるんだぜ? まぁお前らは知らんだろうが──」

「ッ……あんたたち、今助けるよ!」

 俺の言葉を遮って、ウィッチアコヤが声をあげた。接地面の大きさ故か、その身体は殆ど沈んでいない。彼女は背負った砲塔を動かし──

 その時には既に、俺はそいつの眼前で拳を構えていた。

「わりーな嬢ちゃん。そうはさせねーよ」

「いつの間に──ぐッッ!?」

 戸惑いの声をあげたウィッチアコヤに、俺の右拳が突き刺さる。辛うじて腕装甲で防御した彼女であったが、華奢なその身体は押し込まれる形で吹き飛ばされる。

「こ、このっ!」

 ウィッチアコヤは空中で身を捻り、背負った砲塔から真珠弾をばらまく。機関銃の如く弾丸が降り注ぎ、クレーター内の土が吹き上がる!

「うお危ねぇ!?」

「ハハハハ! どうだ! このまま撃ち殺してやる!」

 俺が声をあげたのに調子づき、ウィッチアコヤは弾丸を連発する。爆裂した大地は5メートルほども吹き上がり、そこら中に砂の柱が形成される。なるほど大した威力だ。コクリュウの装甲をボロボロにするだけはある。が。

「……まぁ、相性が最悪だわな」

 俺は呟き、真珠弾の雨へと足を踏み出した。装震装甲の力で液状化した地面を均し硬めつつ、俺はずんずん歩いていく。

「ハハハハ! 血迷ったか!? さぁ穴だらけに……って、あれ?」

 ウィッチアコヤの笑い声はそこで止まった。まぁそりゃそうだろう。

 ──なんせ俺は、弾丸の雨の中を普通に歩いているのだから。

「な、なな!? なんで歩いてる!?」

「まぁなんというか……慣れ、だな」

 答えながらも、俺は最低限の動きで真珠弾を躱し、往なし、叩き落とす。

 ──銃器やらビームやらと戦い続けて50年、このくらいは慣れたものだ。

 そうして人混みを通り抜ける程度のノリで真珠弾を避けながら、俺はウィッチアコヤとの距離を詰め……そしてとうとう、彼女を間合いの内に捉えた。

「よいしょォッ!」「チィッ!」

 俺は気合と共に、ウィッチアコヤへと拳を放つ。しかしアコヤは舌打ちと共に殻を閉じ、俺の拳はガインッと音を立てて弾かれてしまった。

「む……」

 シャチデビルの装甲よりもだいぶ硬い手応えだ。試しにもう何発か殴ってみたが、ガインガインと鳴るばかりで効果は無しだ。

「残念だったねぇ! 私の鎧は特に硬いよ!?」

「そうかい」

 勝ち誇ったような声をあげるウィッチアコヤにそう答えると、俺はどっしりと腰を落として拳を構えた。

 心臓の前に右拳を置くような、裏拳の構え。

「そんなら……こいつはどうだ」

 俺は言い放ち、手の甲のボタンを押しこんだ。ドシュンと音が鳴り、装震拳が淡々と声をあげる。

>>FINISH IMPACT...Quake Up

 それを聞いて、ウィッチアコヤは余裕の声をあげた。

「おっと正面対決かい!? いいねぇ、でも無駄だよ! アンタの力じゃこの鎧は砕けない!」

「ほう? 大した自信だな」

 装震拳にエネルギーが集まってゆく。70%、80%、90%……

「当然さ! 覇王コクリュウの必殺剣すら弾いたんだからね!」

「マジかよ。あいつ負けてんじゃねぇか」

>>QUAKE UP,Ready.

  言い合う内にチャージが終わる。ウィッチアコヤの耳にもそれが届いたか、彼女は威圧的に殻を打ち合わせた。

「さぁ、掛かってきな! グラライザー!」

 そして俺は。

「────シッ!」

 鋭く息を吐きながら、鞭のような裏拳を放った。

 コーンッ……と澄んだ音があたりに響く。

「…………へ?」

 来るはずの衝撃が全く来ず、ウィッチアコヤが戸惑いの声をあげる中、俺は彼女にくるりと背を向ける。

 そして、その直後。

「カっ……!?」

 ゴグンッとなにかが砕ける音とウィッチアコヤの悲鳴が、鎧の向こうから聞こえてきた。

 俺はただ、歩き出す。

 コクリュウはイカオーガと交戦中。カジキヤイバとシャチデビルは今だに大地に捉われ……シャチのほうは鼻先まで埋もれている。

「ガフッ……な、なんだい、これは……!?」

 そうして俺が状況を確認しながら3歩ほど進んだとき、ウィッチアコヤを包んでいたヨモツの鎧が消失した。

 変わらず歩きながら、俺は口を開く。

「歳を取るとな、力押し以外にもいろいろ覚えるもんだ」

 硬い鎧、その内部にダメージを与える打撃。若いころに発徑とか太極拳とかを齧っていたのがうまく噛み合った形だ。

「バカ……な……」

 血と共に吐きだして、元の姿に戻ったウィッチアコヤは崩れ落ち──そのままゆっくりと大地に倒れ伏して。

「リリアン、様……」

 その言葉を最後に、動かなくなった。

 ──そして、時を同じくして。

「ち、チクショー! なんだお前! なんだお前ーッ!」

「うるせぇ。避けるな。死ね」

 コクリュウは、イカオーガの4本目の足を切り飛ばしていた。

(つづく)


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