ていたらくマガジンズ__57_

マーベラス・セブン(アマガサ半刻小説)

キャラクター:晴香タキ湊斗カラカサソーママーベラス河本

「あれ、タキさんまだ残るんスか?」

 夜20時。残業真っ盛りの<時雨>本部で、荷物を持ったソーマがタキに話しかける。

「ああ、もうちょっとだけ。ちょっと半端で──」

「え、いいンすか?」

 PC画面から目を話さず応えるタキの言葉を遮って、ソーマは言葉を続けた。

「……今日コールオブバトルフィールド5の発売日っすよ?」

「え」

 その言葉に、タキの動きが硬直する。

 ギギギと油の切れた機械のように時計に視線を向け、タキはやおらがばっと立ち上がり、叫んだ。

「うわそうじゃん忘れてた!」

「うるせぇぞタキ」

「あだっ!?」

 タキは晴香が投げたペットボトルによって即座に迎撃される。悲鳴とともに沈没するタキを見下ろして、ソーマは「まぁ、そういうわけなんで!」と声をかけた。

「俺は一足お先にやっちゃいます! お疲れっしたー!」

「あーっ! 家が近いのズルいー!」

 そんな悲鳴を背に、ソーマは扉を開けて職場を去っていった。タキは撃沈した状態から起き上がりつつ、呻くように呟いた。

「うおお……COB5発売日を忘れるとは……不覚……」

 自らが投げたペットボトルを回収しにきた晴香が、そんなタキを助け起こす。

「なんだそのコールスローサラダって」

「コールオブバトルフィールドです!」

 再びがばっと起き上がったタキは、熱の篭った声で晴香に解説を始める。

「第二次世界大戦を舞台にしたFPSです! 今日新作発売なんですよ……忘れてた……」

「えふぴーえす? ピザの種類?」

「食べ物から離れてください!」

 頭を抱えるタキ。そんな姿を見て声をかけたのは、部屋の隅で晴香と共に書類整理をしていた湊斗だった。

「FPSっていうと……手元だけ映ってる、銃を撃つやつ?」

「そうそれ! 湊斗くん正解!」

「ん? あれか、007ゴールデンアイみたいなやつか」

「そうそうそれです! 姐さんせいか……えええ!?」

 ノリで言いかけて、タキが再び大声をあげた。

「なんで知ってんすかゴールデンアイ!?」

「ガキの頃に親父とやったんだよ」

 晴香の言葉に、湊斗は書類を閉じながら口を開いた。

「マーベラス河本さん? ゲームなんてやるんだ?」

 マーベラス河本。晴香の父親であり、芸歴30年のベテラン芸人である。……まぁベテランとはいっても、しばらく下火が続いていたのだが……最近になって書いた本が大ヒットして返り咲き、今では毎日のようにお茶の間を賑わしている。

「ああ。なんかCMのモブで参加したからってもらってきたんだよな。本体は自分で買ったみたいだけど」

「へぇ。対戦やったんすか?」

 タキの問いかけに、晴香は天井を見上げながら答える。

「そうそう。なんかあの画面が半分になるやつ」

 晴香の眉根にシワがよる。湊斗とタキは即座にアイコンタクトをとった。二人の共通見解──今、晴香の機嫌が悪くなった。

「……私当時小学生だったんだけどさ。普段全然構ってくれない親父が構ってくれて、そりゃまぁ、私なりに嬉しいわけよ」

「ですね」

「だろうね」

 晴香を刺激しないよう、男二人は居住まいを正して同意する。

「でもあの野郎、まっっっっっっっったく手加減しねーの。ていうかあのゲーム難しいじゃん? 小学生にできるわけなくねあれ?」

「あーまぁ……少なくとも初見じゃ無理でしょうねぇ……」

「だろ? 何回やっても勝てねーし、死んで復活したらなんか滅茶苦茶狭いダクトみたいなところに出て、出口で親父が待ち構えてるし、マジでなんなんだこのゲームってブチ切れたんだよな」

 べきばきばきべき。

 晴香がペットボトルを握りつぶす音を聞きながら、湊斗は言葉を挟んだ。

「なんていうか……大人気ないね、河本さん……」

「そうなんだよ……おかげでそっから殴り合いに発展だわ」

「でしょうねぇ」

 晴香のため息交じりの言葉に、タキが同意する。湊斗はそれを聞いて、ふと浮かんだ疑問を口にする。

「そういや、河本さんって喧嘩強いの?」

「んー?」

 晴香は思案しながら、書類を収めたファイルを閉じる。10秒ほどの間をあけて、彼女は応えた。

「…………腹立たしいくらい強かったな」

「へぇ?」

「まぁ、50歳なのにライター一本で山籠りしちゃうような人ですからねぇ」

 晴香の言葉に、タキが補足めいて言葉を重ねる。ため息をついた晴香は立ち上がり、書類ファイルを本棚にしまう。

「ゲームじゃチョップで殴り殺されるわ、リアルじゃこっちのパンチは全然効かないわ、ほんっとやってらんねーよな……」

「うわぁ、チョップ縛り……」

「おかげさんでゲームは嫌いになるわ、ただでさえあんまし好きじゃなかった親父がさらに嫌いになるわで、ホントあいつなんのつもりだったんだろうな」

 ぼやく晴香の言葉に、湊斗は笑って応えた。

「まぁなんか、らしいっちゃらしいよね」

「すべり芸の達人っすからね」

 男二人の言葉に、晴香は小さく微笑むと鞄を手にとる。

「さて、タキ。面白そうだからお前のゲーム見せろ」

「マジっすか!? 任せてくださいよー!」

「あ、俺も見たい。カラカサもどう?」

『げーむってなに?』

 口々に言葉を交わしながら、彼らは<時雨>本部を後にする。

 その夜、久々にゲームをプレイした晴香がタキとリアルファイト直前まで追い込まれるわけなのだが、それはまた別のお話。

(おわり)

[本編] [目次]

 この作品はニチアサライダー風変身ヒーロー小説『碧空戦士アマガサ』のお題企画から生まれた、番外編ショートショートです。
 お題企画については以下の記事をご参照ください。
お題はまだまだ募集中。
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- 思考メモ -

お題:幼少期の晴香と河本と実在ビデオゲーム

晴香は20代前半なので幼少期やったゲームは僕が中学生の頃にやったゲームと被っているはず。あの頃なにやってたっけな。ひとりっこだったので、スマブラとかやるよりもクラッシュバンディクーとかばっかだった気がするな……ってあれ、待てよ? 中学入ってからゲームなにやってたっけ? もしかして据え置きゲームやってなかったんじゃない? Ragnarok Onlineとかばっかやってた気がするぞ。あとはメダロットとか? いやそれは書きづらいな……。

思い出に残っているゲームでいうと風のクロノア、リモートコントロール・ダンディあたりなんだけどどれもマイナーだし二人用ではない(リモコンは二人用だけどあれ二人でやってもなぁ)

あ。いとこ(同い年)の家で007やってはめ殺されてリアルファイトに突入したことあるな。でもあれは小学校の頃か? いやでもありだな? なんかFPSゲームを店頭で見かけてタキとそんな話に、みたいな。

タキとソーマは割と色々とゲームやってると思うんだよな。あの二人はそれで意気投合してそう。なおさらタキさんいつ寝てんすか。

たまには本当の日常会話というか、やまなしオチなしみたいなやつにチャレンジしてみたいな……その手の話、物語の締めが思いつかなくて苦手なんだよな……

1時間30分 / 2097文字

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