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「茶道 と 合わせる」

第2回は、「茶道 と 合わせる」についてお話したいと思います。

辞書を引くと、合わせるとは、物と物とを一致・調和させる、あるいは、一つにするとあります。

ある宗匠は、茶道の英訳は、Tea ceremony だが、セレモニーではないような気がすると仰る方がおられます。

そして、tea is harmony お茶はハーモニー。一杯のお茶をみんなで飲んで調和することが醍醐味だと。まさにその通りだと思います。ですので、この「合わせる」ということは、とても大事なことなのです。

 

茶道の世界では、「合わせる」にもいろいろな対象物が考えられます。

(1)「人」に合わせる。
(2)「季節」に合わせる。
(3)「時間」に合わせる。
(4)「自然」に合わせる。
(5)「道具」に合わせる。

などを学びます。詳しくみていきましょう。

 (1)    人に合わせる

亭主は、お客様の居心地が良いよう細心の注意を払います。例えば、お茶を出すタイミングは、お客様がお菓子を食べきるタイミングを見計らって出すようお点前の速さを調整します。また、季節やその日の気温、お客様の状況に応じてお茶の温度、量、濃さを調整します。

(2)    季節に合わせる

お茶室には、炉と風炉の2種類があり、冬の寒い時期には畳に炉を切ってお客様に近い場所で火を熾します。夏は、お客様から遠ざけ風炉という道具を使い、火を熾します。そして花入れには、季節に合ったお花、季節に合った設え、季節に合った服装など季節に合わせます。

日本には、四季があり、さらに細分化すると二十四節気、七十二候にも季節が分かれます。72回も季節の違いを感じる機会、節目があるのです。嬉しいことですね。

(3)    時間に合わせる

1) 炭でお湯を沸かす。

みなさん、炭でお湯を沸かしたことがありますか?もしくは、焚火でも構いません。炭を使い釜1つ、およそ3リットルの水を沸かすにはどのくらいかかるのでしょう。正解は1時間半もかかります。そして、1回の炭でどのくらい温度が保てるでしょう?電気ポットでは電気を入れて置けば、ずーっと一定の温度を保つことができますが、炭ではなかなかそうはいきません。だいたい3~5時間くらいでしょう。

炭にもいろいろ種類があります。ナラ、備長炭、クヌギ、そして炭の形にもいろいろな種類があります。

胴炭(どうずみ)最も大きな道具炭。
丸毬打(まるぎっちょ)胴炭よりも細く、長さが半分の炭。
割毬打(わりぎっちょ)丸毬打を縦半分に割った炭。
管炭(くだずみ)胴炭と同じ長さで、 太さが半分以下の細い炭。
割管炭(わりくだずみ)管炭を縦半分に割った炭。
枝炭(えだずみ)ツツジやクヌギなどの枝をやいた炭。

などがありますが、これらを屈指して、適温の状態を保つために工夫をいたします。例えば、炭どうしをくっ付ければ空気が入らないので、なかなか火は熾きませんが、ゆっくり燃えるため長時間燃え続けます。逆に、炭と炭の間に空間を取ると、空気が入るため、早く燃え始めます。しかし、短時間で燃えてしまします。 

また、炭を水で洗って準備をします。炭の汚れを取ることにもなりますが、乾きすぎて早く燃え尽きてしまわないよう、適度の湿度を与えた状態にしておけば火持ちがいたします。

これらのことを考え、お客様の到着時間に合わせ、準備するのです。そして、お客様の滞在時間が延びると火も小さくなってしまうのでお湯の温度も下がります。こういう時は、炭を足すことがあります。このように、炭で沸かすお湯の温度管理は難しいのです。従って、お客様も時間通りに到着しますし、亭主も手際よく準備を進めなければなりません。ですので、時間というのは大切なのです。お茶の世界では、楽しいひと時は、ふたときを超えないと言われております。ひと時は2時間、合計で4時間を超えないということになります。

2) 着物を着てみる

みなさんは、着物を着て外出したことはありますか?まず、着物を着るには、どのくらいかかるでしょう?男性と女性では、また違いますが、私が最初に着物を着て袴を穿くには、50分もかかりました。昨今では、ユーチューブというものがありますので、その動画を見ながら、巻き戻しては確認し時間がかかりました。今では10分もかかりません。

さて、着物を着て草履を履き歩きます。着物を着ていると大きく歩幅が取れないことに気付きます。近くのお寺、恵林寺の境内を通常5分で歩ける時間を10分もの時間がかかるのです。一度、こういう経験をすると余計に時間がかかるものだと認識して、逆算し余分に時間をとって、ゆとりある時間配分をするようになります。

時間というものは、普遍的なのにいろいろな要素で変わるのですね。時間は捉え方1つで変化するのです。普段は、もの凄く短い波長の時間を過ごしていますが、お茶会の時やOFFの時は、緩やかな時間を意識的に過ごすようにしています。というより時間を意識しないで済むように心掛けています。

 

(4)    自然に合わせる

  お茶の世界に「雨はごちそう」という言葉があります。雨が降ると着物の裾は濡れるし。傘も差さなければならない。不都合なことだらけ、そんな中でも「雨はごちそう」という心境、境地とはどんなものなのでしょうか。

2021年10月2日(土)めったにできない経験を致しました。それは、恵林寺で行われた夕顔茶会の時です。その日は、土曜日でしたので、朝6時から恵林寺坐禅会に参加して、帰る途中、長澤和尚とお会いしました。今年、長澤和尚が恵林寺の東駐車場の端に、夕顔を植え、その花の白さが実に美しく見事でしたので、せっかくだから本日、夕方から夕顔を愛でながらお茶でも飲みませんかと提案し、実現した茶会でした。その日の天気予報では、全く雨の心配がない予報でしたので、もちろんテントは張りません。しかも10月ですから急な雷雨の心配などするはずもありません。

16:00から始まったお茶会は順調に進み、17:30。残すところ1組になった時、西北の空に真っ黒な入道雲が、夕日に照らされて赤黒く実に奇妙な恐ろしさを感じるほど上空高く立ち上がってきました。もう少しだからと思っていたら、あれよあれよという間に稲光と雷鳴を轟かせ、我々の上空まで迫ってきました。

あと3人分お茶を点てようと思っていたら、滝のような夕立になってしまいました。そしたら、周りにいた方々が、傘をさしてフォローしてくださったのです。師匠の前嶋宗芳先生もおられました。しかもお着物で!!恵林寺の受付をなさっていられる柿崎さんもおられました。

4本くらいの傘で囲まれながら、お茶を点てました。

手際よく、お茶を点てお出ししたのですが、みなさん、ゆっくり味わって飲んでおられました。なぜかこの状況を愉しまれているようでした。子供たちは雨に濡れながら喜んでいたました。さて撤収です。まず、濡れてはいけないものを、車に積み込み、多少濡れても構わないものを後回しにしました。特にお茶碗は、急いで割ってもいけないので、テーブルの上に並べてそのままにしておき、夕立でしたので2時間後に雨が上がった後、持ちに来ました。

私が、宗空というお名前を頂き、初めての茶会でしたので、天から素晴らしいお祝いを頂いた気持ちになりました。こんな天候、美しい花、そして素晴らしいお仲間との茶会はもう二度と行おうと思ってもできないでしょう。その後の後片付けはご想像通り大変でした(笑)

年末の掛軸に「無事」という字を掛けることが良くあります。それは、1年間、何事もなく無事終わったという意味ではないそうです。多かれ少なかれ、生きていれば何かしらあるものです。そんな中でも、無事と思える心境になれるよう日々の精進をするということなのでしょうね。いつかそんな境地に立ってみたいものです。


(5)    お道具に合わせる

お茶碗には様々な形があります。井戸茶碗、平茶碗、筒茶碗など、大きさも違えば、口、胴、腰、茶だまり、高台、見込みも多種多様です。

美味しいお茶を出すには、お抹茶をちゃんと溶かさなければなりません。表千家の場合は、半月と言って泡と泡でない部分が半分半分にと言われています。要は、お抹茶を混ぜ過ぎず、混ざるか混ざらないかの境目、潔さが求められているのだと思います。

そうすると茶筅の振り方もお茶碗によって変わってきます。場合によっては、茶筅の持ち方すら変わる場合もあると思います。私の解釈ですが、茶筅通しの1つの理由の中に、お茶碗がどういう形状をしているか、どう点てるかを考える場を与えているのではないかと思うのです。

棗や、茶杓もそうですね。その形状に合わせて、袱紗で清めます。

 

この「合わせる」という行為は、自分の器を広げることにも繋がります。

そのために自分都合を極力捨て対象物に合わせる訓練が必要になるのです。

茶道にはそういう1面もあるのです。モノであれば、ある程度、可能かもしれませんが、対、人となるとなかなかそうはいきません。心理学者のアドラーも「すべての悩みは対人関係である」といっています。
私は、気に入らないことがあった時、すぐ反応しないように心掛けています、イラっとしたときは、大抵、息が止まっているのです。そういう時は呼吸を意識的にして、一呼吸おいてから考えるようにしています。坐禅の呼吸法は、こういうときにも役立つのです。そうは言っても道はまだまだ遠いです。

なかなか思い通りにはいきませんよね。そんなとき、逆に「合わせてみる」選択肢もあるのではないでしょうか

「合わせる」というお話でした。

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