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茶道と介護

令和3年。禅を初めて7年。茶道を初めて6年が経ちました。工場の片隅に作った喫茶スペースで年間1,300杯のお茶を点て、来客される方々と愉しい時間を過ごしております。

初めて打ち込んでみようと思えるものに出会いました。それが茶道です。正座が怖い。右手左手どっちで持つの?お茶碗をどっちに何回回すの?お金がたくさんかかるの?入門してみて今までイメージしていた堅苦しい茶道とは別の茶道がそこにありました。ぜひ、この素晴らしい茶道の世界を皆様に知って頂きたいと思い筆を執ることにいたしました。
「茶禅一味」という言葉があります。

茶禅一味とは、茶道と禅は一つの味である。一体のものであるという意味ですが、日々の生活の中にこそ、その素晴らしさがあり大切であるということを学んでいます。ですから茶道だけでなく、禅から学んだ小さな気づきや、どう日常生活に生かしているか、取り込んでいるかをお話していきます。


今後、以下のような内容についてなど順不同ですが、書いていこうと思っています。

一期一会
お先に。お続きいかがですか?
雨はごちそう
初めて2か月で蛍茶会
茶道との出会い
北野天満宮の月窯
天行健なり
目利き
準備本番後片付けと5S
仲秋の名月茶会
茶禅一味
なぜ、茶道を始めたのか?など

  

初回は、「茶道と介護」についてお話したいと思います。なぜこのテーマを最初に選んだかというと、昨年12月1日母が他界しまして、最新の気づきですのでこのテーマにいたしました。

 

茶道のお点前には、手順があります。これがまたよくできているのです。お道具を所定の位置に準備してお茶を点てます。そぎ落とされた最小限の工程で理にかなった手順がすべて決まっているのです。また厄介なことにこの手順通りに行わないとお点前が途中で止まってしまうこともあるのです。例えば、お茶碗にお抹茶を入れた後に、水差しの蓋を取ります。しかし、この工程を忘れていると、お点前の最後の方で、水差しから水を汲むということが蓋を取ってないためできないのです。その時に蓋を取ればよいと思うかもしれませんが、蓋がとってないので柄杓を一度置き、蓋を取って、また柄杓を持たなければならなくなり、工程が増えるのと、あまり美しくないと思うのです。やはり最後の方に使うことを、先回りして事前に準備しておくというのは、大切なことだと思うのです。

 

今回、お話する介護をするときに、とてもこの考えが役立ったのです。

 

ちょっと話はそれますが、まずは母の看病についてお話をしたいと思います。最後は自宅介護に行きついたのですが、そこまで行きつくプロセスや考え方が禅的には大切だと思うのです。また、詳しく書く機会があると思いますが、キーワードは、今を生きる。最善の模索。合わせる。です。

 

2019年5月に癌が見つかりました。見つかった時、既に進行状態がステージⅣの状況であり、余命1年を宣告されました。当時、母の年齢は84歳でしたので、本人と家族で相談して抗がん剤治療をせずに、あと1年、生きている間、美味しいものを食べ、楽しいことをしよう。そして最後は、緩和ケアに入院して最期を迎える計画でした。

 

治療をしない選択に大いに役立ったのは、春光堂さんの2019年9月の読書会。選書は『大往生したけりゃ 医療とかかわるな 自然死のすすめ』という本です。とても役になった内容は、抗がん剤治療を行うと最後、痛みがでるので避けた方が良い。そして「花が萎むように」と書いてありました。この本のおかげで、母の最期は、全く痛みがなく、花がしぼむような最期でした。

治療をしないと言っても、思いつくことすべて、様々なことを致しました。1つは、秋田の玉川温泉への湯治治療、2年に渡り、2週間ずつ3度行きました。後は、ビタミンⅭ、スルフォラファン、セサミンDHAEPA、ファイチ、胡桃の焼酎漬けなどのサプリメントの服用などです。ほぼ毎日の温泉通い。これらについての詳細も機会があればお話ししたいと思います。

 

計画を変更して、自宅介護に切り替える決断に影響したのは、コロナでした。緩和ケアに入院しても面会がままならないことが分かりました。母に相談すると、「寂しいので、できるだけ自宅に居たい」というのです。そこで、2021年3月に、訪問医療ができる病院を探して頂きました。すると私が住む松里から数キロ離れたところに、牧丘病院という全国的にも有名な訪問医療の素晴らしい病院があったのです。このことについても、いつかまた、詳しく書きたいと思っております。

 

さて、自宅介護で最終的に大変なのは下の世話だと思います。私は畳屋で32㎏の畳を日日担いでいる人間でさえ、動けなくなった大人の人間を持ち上げること、動かすことは難しいのです。いろいろな状況の変化に伴い、亡くなる2か月前には、介護用ベッド、車いす、自動昇降用座椅子のスタイルが完成いたしました。この介護用器具を使っても最後の数歩を自分で歩き、便座から立ち上がらなければならないのです。

寝たきりで、オムツをする方法もありますが、母と相談、協力してできるだけトイレで用を済ます方法を模索いたしました。

最後の1か月はお腹に水が溜まり、足も浮腫んでいましたので、朝晩の足湯、ソンバーユを塗ってのケア。これは、足が浮腫んで小さな水泡ができ始め割れてしまうと、そこから水が漏れ1時間おきぐらいに包帯を交換しなければならなくなるのを防ぐためでした。最後に浮腫みを取るためズボン型の足マッサージ機にかかりました。この方法のおかげで、最後の数歩を歩ける状態を、亡くなる2日前まで続けることができたのです。

 

この時に、お互いの負担を減らす方法を模索したのが、茶道で培った「最小限の工程で、事前準備をしておく」という考えです。この考えは、プログラミングにも似ていますが、さらに逆算して工程を考えたりもします。

とりあえず、やってみて行き詰まったら考え、工程を減らす方法、介護者の負担が減る方法(介助者の工程が増えても介護者の負担が減る場合もある)などを改善していきました。

 

居間の6畳からトイレに行くには、こんなことをしておりました。

部屋の間取りは、6畳の居間、掘り炬燵になっていて、日中は自動昇降用座椅子に座ってここにいます。隣には間続きの8畳間が2つあり、奥の部屋が寝室になります。その向こうに幅1mくらいの廊下があり、6m先にトイレがあります。

(1)    パルスオキシメーターで酸素量を測る

(2)    トイレに行き、電気をつけドアと便座の蓋を開けておきます。トイレットペーパーを丸め必要量取っておきます。これを2つ作ります。(ゴミ箱にビニール袋、使い捨てビニール手袋、使い捨てティッシュなど常設)

(3)    車いすを用意します。

(4)    昇降用座椅子のUPボタンを押して、つま先立ちくらいの高さまで上げます。これは、既に立った状態になるので腰を切らなくて済みます。そして座椅子を90度回転させ、立たせます。そして、手すりに沿って180度、身体を回転させ、車いすに座らせます。この時、車いす越し、後ろから脇の下に手を入れ、転ばないようにします。

(5)    酸素のホースを絡まないようにしながら、車いすでトイレに連れていきます。

(6)    車いすのストッパーを止め、母の両手を持って“せぇーの”の声と一緒に立たせる。このとき、母の手に力が入ってからじっくり引き上げる感覚。

(7)    酸素量が足りない場合は、簡易ボンベを併用する。

(8)    トイレに取り付けた手すりに沿って小さく4,5歩移動し便座に座る

(9)    パルスオキシメーターで酸素量を測り、酸素量を調節

(10)  オムツとパットの準備

(11)  6畳の部屋に戻り、自動昇降用座椅子を座れる高さまで下げて置く

(12)  用が済んだら、ワイヤレスチャイムを鳴らす。

(13)  車いすに乗せ、6畳の居間へ

(14)  パルスオキシメーターで酸素量を測り、酸素量を調節

これが最終的な工程ですが、これに行きつくまでには、段取りが悪く時間や負担がかかりました。

 

もう1つが「置き合わせる」という考えです。茶道では、お茶碗や棗などのお道具を所定の位置にバランスよく置くというのがあります。要は、ちょうどよい居心地の良い場所に置く、人間が寝るベッドにも、ちょうどよい場所があります。例えばボタン1つで、ベッドが2つに折れ、背もたれが上がってくる介護用ベッドがあります。このときのベストポイントは、ベッドが折れ曲がる位置に隙間なくお尻がくることです。おしりの部分とベッドの間に隙間があると背骨に負担がかかってしまうのです。

ここで大切なのは、1度ずり落ちてしまうと、もう自力では元に戻せないという病状になっているということです。

 

ベッドについている柵の位置、大きさも大切です。寝返りができなくなった状態、もう自力では、自分の身体を動かせなくなった場合、良い位置に一回で横たわらせることはとっても大切なことです。ベッドの横に立ち、座り始める位置は、ベッドの頭の方、三分の一あたりから座るようにします。そうするとおしりがちょうど、ベッドの中央付近、折れ曲がる位置にきます。すなわちベストポジションに来るわけです。しかしながら、柵の標準は、柵がベッドの中央まであります。そして、それにはL字の手すりが付くのです。当然、四分の一サイズの柵もありますが、それにはL字の手すりが付かないのです。

ここで大切なのは、介助1人でできる器具の設計が大切だと思います。2人で出来れば有難いですが、現実的に自宅介護でそんなにサポートできません。老老介護のならなおさらです。お互い楽に介護できる器具の位置、患者の立場に立った使い方の知識も必要なのです。

 

それと最後に良い商品をご紹介いたします。トイレ以外ほぼ1日中、座椅子に座っていましたので、尾骶骨に小さな床擦れがでました。何か良いものがないかとホームセンターを探していると、ハニー構造のクッション材を見つけました。卵を置いて座っても割れないというやつです。2,000円弱と安かったので試しに買ってみましたが、母はこれは良いねと大変喜んでいました。

 

 

今回、茶道からの学びで、伝えたかったのは、

(1)    機能的な最小限の工程を考える。

(2)    置き合わせる。ベストポジション、居心地の良さ、空間の取り方。

 

 

お茶は常の事と言われています。きっとその他の日常生活でも使えるのではないでしょうか。

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