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LIVE備忘録 vol.10 【小山田壮平と親戚になりました】

『小山田壮平 弾き語りツアー 2022』at LINE CUBE SHIBUYA


夏真っ只中の7月に発表された弾き語りツアー。



ファイナルは東京。

9月18日に無事お子さんをリリースされてから、はじめて全国を回るツアー。



かなり前から新しいアルバムを制作していることを匂わせていたものの、未だ発表されずに迎えたこのツアーでは、新曲が聴ける可能性への期待があった。



いざツアーが始まるとTwitterで色々な方のライブレポが流れてくるのだが、初日の金沢公演のレポからもう

セトリやばい…

の感想が。
セトリやばい!!ではなくセトリやばい…。
ゴールデンキウイを雨上がりの空に投げる歌をやった?みたいなツイートを見てしまって、見ないふりをしたり。


そんなの気になって仕方がないが、セトリは当日までのお楽しみ。






12月1日。

つい2, 3日前まではびっくりするぐらい暖かい毎日だったが、すっかり冬の訪れを感じ始めたこの日。
やや浮かれる身体を引きずって大学へ向かい、授業を終えたカツヲは渋谷へ向かった。




都会のコンクリートジャングルに浮かぶ会場に入ると、中にはバカでかいサリーのオブジェが。(写真は撮り忘れたので、ぜひ「LINE CUBE SHIBUYA   人喰いヒヨコ」で調べてみてください)



そして座席へ。

この1階4列8番。
てっきりその席番号通り前から4列目だと思っていたのだが、なんと1, 2列が取り除かれていた関係で前から2列目。
今までで一番近いこの座席は、座るや否や期待感爆増。



落ち着いた洋楽が流れる会場には沢山のカメラマン。
もしかして映像化するのかな?
カメラの通り道のために1,2列がないのかな?
なんて思っていると会場が暗転し、いよいよ開演。
アナウンスが映像収録に関する注意事項を伝え、カメラマンの多さに再度納得する。





やや前のめりに上手から出てきた小山田壮平は、ツアーTシャツを着ていた。



1曲目は“投げKISSをあげるよ”。
歌声もギターの音も純粋にはっきりと聴こえて、もう間違いない。
今までのライブでは若干歌声が本来よりも高く聴こえることが多かったのだが、今回はしっかりと小山田壮平の声がそのまま聴こえた。
スピーカーが近かったのも関係してるかしら。


ギターの最後の音まで逃さまいと、観客はその音が鳴りやむまで待ってから拍手をした。
少しフライング気味で次の曲に行きそうになりながらも、その優しい拍手に微笑む小山田壮平。



2曲目は“革命”。
たしかここら辺で後ろの暗幕が上がって、骨組みむき出しの背景に赤い照明。
非常に楽しそうに歌っていて、ああこの人はほんとうに歌うことが好きなんだな、と思った。
それなのに歌声には凄まじいエネルギーが。
半音上げで歌っていたからか、なおさら心を突き刺す演奏だった。

今まで聴いた“革命”で一番良かったかもしれない。




イントロをブルースハープで奏でた“1984”は、ちょっと堪えきれなかった。

改めて思ったのだけれど歌詞やばいよな。

5限が終わるのを待ってた わけもわからないまま
椅子取りゲームへの手続きはまるで永遠のようなんだ

1984”  andymori

愛想もなく流れていく日々に無力感を感じながらも、わたしたちの胸で騒ぐファンファーレと熱狂。原風景。
パーカッションで刻むサビでは、ファルセットが心地よく響く。



開幕からandymoriの曲を3曲続けて歌い、すっかり会場を自分の空気にした小山田壮平は、ここでこの弾き語りツアーへの感謝を述べた。

全国7、、8箇所まわってきて、今日が千秋楽です
こうして今年もツアーができるのは観に来てくれる皆さんがいるからです 

ありがとうございます

not 原文ママ 

ここのタイミングだったかは怪しいが、こんなMCも。

ここまで渋谷の街を歩いてきて、忘年会だな、って思いました。
今年もこうやって12月にライブができて、、、こうして年末に会っている皆さんは僕と親戚です。

not 原文ママ


そして歌ったのは“それは風のように”。
2017年のツアー以来やっていないこの曲は、YouTubeにアップされたあまり良くない動画で聴いたことがあった未音源化の曲。
変化をつけたメロディーとストロークのこの曲は、まさに小山田壮平の良さが凝縮されたフォークソング。
もちろんライブで聴くのは初めてで、予想外の選曲に驚きつつも美しい歌声に圧倒された。




アコギにピッタリな“ゆうちゃん”、歌い叫びながらも、その熱とともに微笑む様子も見えた“ベンガルトラとウィスキー”に続いて歌ったのは“遠くへ行きたい”。

あ、やばいですね。

andymoriとして初のEP『andyとrockとベンガルトラとウィスキー』に収録されたこの曲は、2019年6月振りの披露
落ち着いたアルペジオと、優しいながらも憂鬱を含んだ歌声で歌われる。

‘遠くへ行きたい’ってほんとにそうで、‘誰にも見つけられない星になりたい’ってほんとにそうで。

熱狂のない日々で生まれるささやかな憂鬱を、諦めてしまった思いを、まるでそんな気持ちすらなくなってしまったかのように、鈍い脳ミソが気づかなくなってしまったかのように消えて行きたくて。
ケータイの電源が消えるみたいに、誰も知らないうちにふらっと居なくなってしまいたくて。
生かされた彼女の心電図が直線になるみたいに、誰も知らないうちにふらっと居なくなってしまいたくて。

そうして、そんな自分のことを忘れてしまって欲しくて。

すべてのしがらみを背負ったフリをして遠くへ行きたいけれど、結局電車の音だけを追いかけながらまたいつもの玄関をくぐってしまう。


小山田壮平はこの歌だけは天井を眺めながら歌っていた。
お子さんが産まれ多くの幸せに包まれる今、何を考え、誰を思いながらこの歌を歌ったのだろうか。



続いて歌ったのは“16”。
なにも覚えてない。
間違いなく今年一番聴き、今年一番歌った曲。
この歌は一生聴き続けるんだろうな。



9月に初めての子どもが産まれまして、、、

2ヶ月たったもののまだまだ泣いてばかりで。

こうやってツアーで遠くから帰ってきても知らんぷりで。なんだコイツは、って思うんですけど、、、笑。

生まれてから1ヶ月経った10月末に、初めて息子の入浴をひとりでやったんですけど、ずっと泣いているか虚無の息子が、

わーわーわーわー(息子が泣き騒いでいる様子を表現する小山田)

すぅーーー、、、(抱き抱えている息子を湯船に浸かってもらおうとゆっくり下ろすジェスチャー)、

ちゃぽんっ。

っはぁ。かーかーかー(息子が寝落ちする様子を表現する小山田)

ってなってそのまま5時間寝て。
こうやって少しづつ喜びに触れていってほしいと思いました。

いつも息子を寝かしつけるときはこうやって、、、縦横に揺らしながら、、、まるでナンをこねるように。2ヶ月経ってナンをこねくり回すのも様になってきました。
最近では、テレビで『男はつらいよ』を観ながらこうやって、ナンをこねくり回すように、、。



子どものほうは別に頼んでもいないのに大人たちによって産み落とされてしまって。突然こんなカオスな世界にわけも分からないまま連れてこられて、悲しいことばかりで泣き続けるしかなくて、、、。

皆さんもきっと産まれたばかりのころは悲しくて泣いてばかりいたと思います。でもこうやって立派に成長されて、静かに座っていて、、偉いです。

おめでとうございます。笑

not 原文ママ

急な祝福に思わず笑みががこぼれる。
周りからは「成人式みたいだな笑」という声も聞こえた。



素敵なMCが明けて歌ったのは“輝く飛行船”。
上半期一番聴いたALの曲。

あの空に輝く飛行船を見たんだ
幼い心が見つめてた あの日
あの夢に優しい鐘の音を聞いたんだ
懐かしい父母の笑顔 許されていた頃の記憶 あれから

輝く飛行船” AL

先日父親になったばかりの小山田壮平が歌うこの歌詞に、ある種の特別な思いが込められているように感じた。


一昔前は頻繁に見かけていた飛行船は現在どうなったのだろうか。大型スーパーの屋上からその物体を発見すれば、祖父母と父と母を呼んではしゃぎ合う。
エアホッケー台やら、動物の形をしたエアードームやら、小さなパンダの乗り物やら。私の記憶を彩っていた‘平成の景色’はもうなくなってしまった。

その景色に溶け込んでいた飛行船。

今の子どもたちの時代のシンボルはどうなるのだろうか。



続いて歌ったのは“ローヌの岸辺”。
この曲、ベース音が心地いいんだよね。
静かに時を刻むベース音と川の流れのようなアルペジオ。

そしてブルースハープをセットすれば“恋はマーブルの海へ”。
いやーブルースハープよ。ブルースハープ。
間奏を彩るその楽器はもう完全に小山田壮平のもので、歌うように奏でる様子に目が離せなかった。
「君の呼ぶその声に〜」からブリッジミュートでギターを弾いていたのも印象的だった。



僕はよく意味のわからない言葉を歌詞にすると思うんですけど、ちゃんと意味がある時もあるんですよ。

例えば「表面張力」もちゃんと意味があって。皆さんはなんだそれって感じだと思うんですけど。

東京に住んでた30歳ぐらいのときに、よく行ってた『アルティッチョ』っていうバーがあって。
そのマスターがじゅんやくんって人だったんですけど、よくダーツで負けた人がテキーラを並々注いで飲むっていう、、。表面張力が発生するぐらい並々注いで飲むっていう、、、。
っていう意味なんですよ!表面張力って。
何やってんだ、って感じですよね笑

アルティッチョはイタリア語で「ほろ酔い」っていう意味なんですけど、これじゃあ「ベロ酔い」じゃん、っていう、、。

ほんとに何やってんだ、って感じですね笑

not 原文ママ


「お酒を並々注ぐこと」なんだろうなと思っていた「表面張力」の意味は、やはり「お酒を並々注ぐこと」で、それを丁寧に説明する小山田壮平がなんだか可笑しかった。



そんでこのMCからはもちろんこの曲。
“アルティッチョの夜”。

いや〜、カッコよかったな。

音源よりもやや長めにブレイクを取って、「誰かが やっ       てくる」、「テキーラ の          みます」と歌っていて痺れました。



そして“雨の散歩道”もカッコよくて。
やっぱりギターすげえな、
って思ってたらギターソロも弾いていて!
何気にこの曲のギターソロを小山田壮平が弾いているところを初めて見た。

そんでこの曲ってまさに小山田壮平のフォークソングって感じなのよ。
“雨の散歩道”という曲自体が‘小山田壮平’の形をしていて、この曲を歌っている姿があまりにも似合いすぎるというか、細胞レベルで混じりあっているかのようにしっくりと来て。
ん〜上手く言語化出来ないけど、「自分もこうなりたいな」と思った。
 


続いて歌ったのは『革命』から“ダンス”。
日々の生活で凝り固まったストレスと憂鬱を解してくれるように「愛をあげるよ そんなに大したものじゃないんだ」と歌う。
肩の力を抜いて心のさすらうままにダンスしようぜ!


そして“サイン”。
この曲が来るともうクライマックスという感じで、もう来たか、と思った。
やっぱり裏声と地声の切り替えが凄まじい。
いや、そもそも歌うますぎるだろ。今更言うことでは無いけれど。

そして「The Beatlesの曲をやります」と言って歌ったのは、“Blackbird”。
めちゃめちゃ左手が動くギターとともに届いた歌声で、ツイキャスでも歌っていた曲だと気づく。
いつも部屋の隅で聴く、真っ暗なツイキャスの画面の向こうの景色が見えたような気がした。
いやもちろんかける思いもコンディションも全然違うだろうけど。

野暮だけど鮮やかな指弾きを見ると清水美和子が浮かぶよな。



そして“FULL OF LOVE”。
かはァ。

なんだかささやかに溜まっていく憂鬱に気付かないふりをしていたけれど、確かに心は石鹸みたいにゆっくりすり減っていて、色々なことを複雑に難しく考えてしまっている日々。

でも小山田壮平はこう歌う。

時は流れるよ 単純なことだよ
幸せになるなんて 簡単なことだよ

“FULL OF LOVE”  FULL OF LOVE

‘愛’ってなんだろうな。案外シンプルなものなのかもしれないな。


続いて歌った新曲は“君に届かないメッセージ”と言うらしい。
歌詞は全然分からなかったけど、「右も左も分からないまま」、「腹が減って泣いて」、「散歩に出かけよう 花を見つけて」みたいな歌詞があった気がする。
なんとなく、お子さんが生まれてからできた曲なのかな、という印象で、天井を照らす照明は花の形をしていた。
歌詞の雰囲気はどことなく“Sunrise & Sunset”に通ずるものがあった。



“夕暮れのハイ”を歌えばもう完全にクライマックスで、燃え上がったボルテージを鎮めるように続けて“時をかけるメロディー”を歌う。
ポロンポロンと鳴らされるまさに‘時をかける’ようなギターの音色に混ざる心地よいファルセット。

光を連れていく 時代に殴られても
瞳に映るこの人が また歌えるように

“時をかけるメロディー” 小山田壮平

ずっと歌っていてくれ。



本編最後は“旅に出るならどこまでも”。

旅なんだよな、この曲は。
地声からファルセットまで。
ピック弾きから指弾きまで。
アップテンポからスローテンポまで。
色んな景色があって、色んな色に触れて。
どこまでも続く旅がそこには広がっている。


そして、「ありがとう」と言った小山田壮平は、会場全体に目を配りながら礼をして去っていった。



大きな拍手がアンコールの手拍子に変わってすぐ、やはりやや前のめりに小山田壮平は上手から出てきた。
予想外の早さでの再登場にどよめく会場。


アンコール1曲目は“スライディングギター”。
いや、最高だな。
有り余る熱を爆発させるように足を踏み鳴らし、高らかに歌う。

小山田壮平だ。これが小山田壮平だ。
あまりにもこの曲を歌っている姿が似合いすぎるというか、しっくりくるというか。
小山田壮平が歌うカントリー・ブルースのひとつの形と言うべきか。
「ああ、自分もこうなりたいな」って思った。



そして最後の曲は“Sunrise & Sunset”。
ブルースハープによって奏でられるなんともテンションの上がるイントロは、風CAMP特別動画のときのアレンジ。


天井を照らす照明が“君に届かないメッセージ”と同じく花の形だった。

いつもよりやたら発音よく歌われた「Sunrise & Sunset」のフレーズに続く、どこかやるせなさと諦観を感じる歌詞。
ポップな曲調に乗せて歌われる、大きな憂鬱への無力感とそこに混ざる‘君’への叙情的で小さな愛。

こうして、自分が今年最も聴いた曲の一つである“Sunrise & Sunset”は、『小山田壮平弾き語りツアー2022』を締めくくった。


そして、
また親戚で集まりましょう
と言って、舞台袖へ去っていった。





いつもライブ備忘録は4000字以内で収めようとするのですが、今回は(というか今回も)ダメでした。
セトリももちろんのこと、なんか全体を通してめちゃめちゃ良かった。

思い出効果もあって2020年の中野サンプラザ弾き語りライブを超えることはないと思っていたけど、今回、過去一だったかもしれねぇっす。


ありがとう小山田壮平!
また来年も忘年会しましょう!





 [セットリスト]
1. 投げKISSをあげるよ
2. 革命
3. 1984
4. それは風のように
5. ゆうちゃん
6. ベンガルトラとウィスキー
7. 遠くへ行きたい
8. 16
9. 輝く飛行船
10. ローヌの岸辺
11. 恋はマーブルの海へ
12. アルティッチョの夜
13. 雨の散歩道
14. ダンス
15. サイン
16. Blackbird (The Beatles cover) 
17. FULL OF LOVE
18. 君に届かないメッセージ
19. 夕暮れのハイ
20. 時をかけるメロディー
21. 旅に出るならどこまでも

~アンコール~
22. スライディングギター
23. Sunrise & Sunset

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