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LIVE備忘録 vol.17 【すごい速さ】

『小山田壮平 バンドツアー 2024』at Zepp DiverCity



グズグズした天気が続いていた。
台風迫る5月下旬の東京はなんだかいつも以上に忙しなく、どっちつかずの気温に目下迫る梅雨の気だるさを漂わせていた。


2019年に始まり、コロナ禍による開催縮小などもありつつ今年で6年目となったバンドツアー。

当初からサポートメンバーとして小山田壮平バンドを支えていた濱野夏椰が、昨年12月にGateballersの活動に集中するということでサポートを辞め、福岡出身のギタリスト岡愛子に変わってからの初めてのツアー。

さらに、今年の1月に2ndフルアルバム『時をかけるメロディー』をリリースし、“アルバムリリースツアー”的なニュアンスも大きい。


時をかけるメロディー



4月6日の新潟公演から全国津々浦々7箇所回ってきて、8箇所目となる東京公演。






5月30日 (木)


晴天だった。
吹きすさぶ風からは台風の気配を感じるが、空に広がる青と煌めく太陽からは夏の匂いすら感じていた。


ライブってのは良い。やっぱり良い。

その予定があるだけで気分は上がる。心が晴れる。


大学院キャンパス内のネコとツーショットに成功




研究室のコアタイム17:30きっかりに研究室を出発しZepp Diversityに向かう。




最近の小山田壮平はちょくちょくライブに出ているのだが、自分はTwitterを全く見ていないから割と置いていかれている感はあるんだけど、ラブシャよ、ラブシャ。えぐい。

あまりにも良すぎる、でお馴染みの“クラブナイト”や“青い空”のライブ映像が残っているラブシャ。
andymoriとして“一回目の解散ライブ”をした2014年のラブシャ以来10年振りのラブシャ。

発表された時はそりゃもう歓喜歓喜。



10年振りの出演に合わせて、DVDには収録されなかった2014年の“途中からチューニング爆狂いSunrise & Sunset”が公開されたりして歓喜歓喜。


結局ラブシャには行けなかったが、後に公開されたアフタームービーを観ればもう。


そよ風に吹かれながらアコギを弾く小山田壮平。良すぎ。


⬆嘘みたいな富士山をバックにコメントをする小山田壮平


そんなこんなで着いたZepp DiverCity。
地味に初めて来たがセンスありすぎだろこの名前。

インスタのストーリーから、どうやら工藤祐次郎も来ているらしかった。




流石に学校終わりだとこの時間。かなりステージからは遠かった。





開演時間になると、ツアーTシャツ(プラジャパティ)を纏った小山田壮平、赤Tの藤原寛、黄Tの久富奈良、オフィスカジュアルな岡愛子が下手から現れる。



1曲目は“スライディングギター”。最近は“夕暮れのハイ”から始まってクライマックスを感じさせるセトリが多かったが、今回は“スライディングギター”から。
ジャキジャキとしたアコギの音と、ボトルネック奏法によるふわふわしたエレキギターの音が心地よい。
何度でも言うけどマジで小山田壮平の作るフォークの最高到達地点だよこの曲。


2曲目はサイン。
ピアノバージョンとは異なり、豊かな音の波が魅力的。
力強いドラムと変化に富んだギターにのせられたコーラスが響く。


ここらでメンバー紹介を挟み、寛の滑るようなベースのリフから始まる曲は月光荘。
2,3年前に弾き語りで聴いて、バンドアレンジがあまりにも良すぎる曲だ。
濱野夏椰のエッセンスが凝縮されたギターのフレーズが、これまでの楽曲になかったアレンジでとてつもなく良い。
そんでタイトなドラムも良い。今回のライブは特にドラムがメリハリついて聴こえた気がする。


ALの順番通り続いた“彼女のジャズマスター”では、演奏後に観客の「かっこいい!!!!!」という叫びが響く。


そして“Life Is Party”のイントロが鳴らされると一際大きな歓声が上がった。
これがもう良かった。

10年たったら 旅に出よう 南の国がいいな
みんなきっと驚くって 絶対ね

Life Is Party


2014年のandymori解散ライブをこの曲で締めくくり10年経つ。

なんかもう忘れてしまったがリードギターの音色が特に良く、アウトロでそれぞれの楽器が爆発しつつ余韻を残さずにキッパリと曲が終われば、さらに大きな歓声が上がっていた。



小山田壮平の弾き語りから始まる“16”ではブルースハープも登場した。
ほんとにこの曲エグい。
何歳になっても染みるし、何回聴いても心をしゅんわりと突き刺す。
ここ最近辛いことなんて何一つなかったのに涙を流してしまった。


小山田 「ありがとうございます」

小山田 「今回のツアーからギターを弾いてもらってる岡愛子さん。福岡出身なんです」

観客 「あいこーーー!!!」

岡  「すごい私のファンの人が1人いますね」

小山田  「なんと僕と同い年で、1984年生まれなんですよね」

観客  「若い!!!」

岡  「ありがとうございます、、笑」

小山田  「15年前に出会ってね。“BAND A”というバンドをやっていて」

小山田  「だから前3列、、前3枚は同い年なんですよ。後ろの奈良君だけ1994年生まれで、、若い。」

小山田  「寛も1984年生まれ、、なんだよね?」

寛  「うん」

小山田  「そんな寛のベースから始まる曲をやります」

not 原文ママ


ツアーも終盤ということで、流石に仕上がってきたMC。
15年前ということは丁度andymori結成の頃に出会ったんだな、と感慨深くなる。




“ベースマン”かと思いきや始まったのは話の流れで“1984”。

あかん。これもまた。
“16”も“1984”もほんとに素晴らしい。
小山田壮平のアコギの音の裏で鳴る岡愛子のエレキギターの音は夕暮れの太陽の叫びのようで。5時のサイレンのようで。



照明がカラフルな“恋はマーブルの海へ”はやっぱり流れるようなリードギターのアルペジオが良い。
濱野夏椰の時は音源とは違う弾き方だったような気がするため、地味に新鮮だ。

ポリリズム的なギターのセッションによるイントロから始まる“投げKISSをあげるよ”が続き、“雨の散歩道”では岡愛子のバッキング中心のギターソロがかっこよかった。




最近はセトリから外れ気味だった“スランプは底なし”は自分にとってかなりサプライズで、この曲の流れでMCへ。


小山田  「みなさんスランプにはなりますか?」

寛   「ならないな」

岡  「私はスランプになる前に諦めるタイプです。2人とも違うタイプだけど役に立たないね笑」

小山田   「僕は結構スランプになるんですけど。」

小山田   「ライブ前とかはやっぱり緊張するんですけど、奈良君にどうしてるか聞いたら瞑想してるみたいで」

小山田   「だから自分も真似して、楽屋でこういう感じで死体のポーズを取って。副交感神経を優位に、、」

寛   「ヨガの死体のポーズね」

小山田   「でもライブ直前になると結局張り切って「からだダンダンダン!」ってなります」

not 原文ママ


これまたヘンテコなMCをしつつ、小山田壮平から出た「からだダンダン」という言葉に“パパ”としての姿が見えれば、なんだか感慨深い気持ちに。

“鉄人”としてお馴染みの寛はやはりスランプにはなったことがないらしく、あまりにも音楽に対してこだわりがないインタビュー記事を思い出す。



小山田  「僕はスランプになると、道端の草木や花に話しかけられる感じで」

小山田   「次はそんな曲です」

not 原文ママ


そう言って“それは風のように”を歌い、思いがけない曲同士ののつながりを知る。


“ゆうちゃん”はもうこれぞ小山田壮平のフォークの最高到達地点(2つ目)という感じ。珍しく歌詞を間違えなかった気がする。


続く“汽笛”では、遠くて見えなかったため確実では無いが、岡愛子によって鉄琴(?)とシンセサイザー(?)が鳴らされる。

段々とボルテージが上がっていく“君に届かないメッセージ”が歌われると、ブルースハープも相まってクライマックスのよう。


小山田  「風の噂で聞いたんですけど、インドに行きたいみたいで」

岡   「はい、行きたいです」

小山田   「左様でござるか」

not 原文ママ

なんだか棒読みのやり取りに微笑みつつ、そこから始まったインドトークは複雑な固有名詞が沢山出てきて脳みそが混乱したが、ぼんやり聞こえた「ブーゲンビリア」に、未音源化の“この窓の向こう側”に出てくる単語だな〜、と考える。

小山田   「インドはね、ふわっ、、、!ってなるんですよ。ふわっ、、、!って」

岡   「ふわっ、、」

岡   「インドはどこに行ったらいいですか?」

小山田   「やっぱりコナーラクですね。街から15 kmぐらい離れてて、、」

小山田   「ふわっ、、、!ってなります」

not 原文ママ


持ち芸のように「ふわっ、、!」を繰り返す小山田壮平はなんだか可笑しい。

珍しく寛のほうから無茶ぶりしてた気がするんだけどこのMCの時だったかしら。



この話の流れから始まるのはもちろん“コナーラクへ”。小山田壮平のメロディーセンスが光りまくっている曲だ。
インドを自転車で駆け抜ける情景を想像しつつ、テンポダウンしてフェードアウトしていくように終わると、ステージの上から聴こえた暗闇を貫くようなギターの音に、会場のボルテージが急上昇する。

最近ではライブの定番となっている“光”に合わせて、一気にたくさんの拳が上がった。
andymoriの曲の中でもメロディーセンスも歌詞のはめ方もリズム感もピカイチだよな、“光”って。
そのまま余韻を残さずに“革命”が始まりもうたまらない。
大歓声のまま“グロリアス軽トラ”が始まると、「東京の空の下」で一際大きな歓声が上がった。
andymoriの4th AL『光』から、2nd AL 『ファンファーレと熱狂』まで、時代を遡っていくようなそのセトリに大満足。

「言い忘れてましたが最後の曲です」とつぶやけば“夕暮れのハイ”。
正直に言うと、音源の多重コーラスがあまり好きでは無いため普段ほとんど聴かないのだが、ライブで聴くとそりゃめちゃめちゃ素敵よ。


あっという間だったけども、素晴らしい旅だった。







アンコールでひとりで出てきた小山田壮平はアコギを取り出す。

実は今日は僕の姪っ子が初めてライブに来てくれてるんです。
高校生になったばかりの“ちぃちゃん”って言うんですけど、昔はすごく小さくて。

not 原文ママ

「姪っ子が居たのか!」という驚きだけでなく、「もう高校生なのか」という驚きもありつつ、「弟さんのお子さんなのかな」という想像をしつつ、「高校生ということはちょうどandymori結成の15年前頃に産まれたんだな」ということに感慨深くなりつつ。


小山田壮平がひとりで出てきてアコギで弾き語りを始める、ということは“時をかけるメロディー”のアルペジオが聴こえて来るわけで。



そんなことを想像していた脳ミソを突き刺した

「すごい速さで夏は、、、って曲をやります」

という小山田壮平のMCに目を丸くしたカツヲの耳に届いたのは、軽快なストロークで奏でられる「ジャジャジャジャジャ・ジャ・ジャーン」というAコードの音だった。


きっと世界の終わりもこんな風に味気ない感じなんだろうな

すごい速さ


ここ数ヶ月で某アプリでバズり、ネットの海をサラサラと流れていっていた“すごい速さ”が始まり、会場からは今日イチの歓声が上がった。


すごい速さで夏は過ぎたが
ラララララララ
熱が胸に騒ぐ

すごい速さ


熱が胸に騒いで止まらない観客を突き刺す小山田壮平の叫び。

でもなんかやれそうな気がする
なんかやらなきゃって思う
だってなんかやらなきゃできるさ
どうしようもないこのからだ何処へ行くのか

すごい速さ


この曲は初っ端の
「きっと世界の終わりもこんな風に味気ない感じなんだろうな」
があまりにもすごい歌詞すぎて注目していなかったが、ここの部分もすごい。

モラトリアムと焦燥感と使命感と諦観が混ざる初期andymoriらしい歌詞。
ってことに大バズのおかげで改めて気づいた。

そのままラスサビに突入してアウトロのベースもしっかり鳴らしつつ、最後の「ジャーン」が上手く決まらず恥ずかしそうに微笑んだ小山田壮平にカツヲもまた微笑めば、すごい速さで過ぎ去った2分間だった。



騒ぎすぎた胸の熱を鎮めるように“時をかけるメロディー”を爪弾けば、再度バンドメンバーを呼び戻す。


東京公演のスペシャルゲストとしてテルミン奏者の街角マチコさんを紹介すると、波の音から始まったのは“マジカルダンサー”。

『時をかけるメロディー』からの完全新曲である“コナーラクへ”と“マジカルダンサー”。
小山田壮平の非凡なメロディセンスとソングライティングが光るこの2曲はどちらもインドにルーツのある曲だ。

後半から妖しいテルミンの音が響いて曲を彩る。
初めてライブで“マジカルダンサー”を聴けたことに対する嬉しさを噛み締めつつも、やっぱり気になるテルミン。
存在は知っていたけど、改めて見ると不思議な仕組みだよな。


最後の曲は“アルティッチョの夜”。
原曲には無いテルミンの叫びが音の密度を増し、「ほろ酔い」というよりは「ベロ酔い」だった。





⬆共感

昔と今をシームレスに繋いだ24曲に渡るセットリストに、シラフなのにすっかりベロ酔いになったカツヲは、“すごい速さ”でオシャレにも程があるアジア料理店に足を運んでレモンサワーを摂取し、余韻満天の身体にコンビニで買ったハイボールをぶち込みつつお台場の街を散歩して帰宅した。


⬆関取花さん、来てたみたい。




ギターが変わってから初めてのツアーで、明らかに完成されつつあることを感じた今回のライブ。
濱野夏椰と岡愛子で全く違うタイプのギターを弾くために、これからの楽曲のアレンジも多少変化しそうではあるがそんなことより“すごい速さ”。

いつ頃からだったかは定かでは無いが、ソロでほとんど歌われることのなかった“すごい速さ”は、2021年頃から、工藤祐次郎が小山田壮平とのデュエットの際に半強制的(?)に歌わせるようになっていた。


なによりも印象的だったのは、コロナ期間中ではあったために無観客開催となってしまったものの、小山田壮平主催のフェスとして秩父ミューズパークで開催された『風CAMP 2021』だ。

工藤祐次郎は最後の曲として“ゴーゴー魚釣り”を小山田壮平と「ちゃんボーイ」こと生田竜篤の3人で歌い、退場した小山田壮平を呼び戻してハーモニカを渡せば、困惑する小山田壮平に目配せをして適当なフレーズを吹かせてたはずだ。

工藤祐次郎がしたり顔で“すごい速さ”を歌い始めると、「やられたっ!」という顔をした小山田壮平はAメロでは歌わなかったものの、サビに入るとハイテンションで歌い叫んでいた。


そういった工藤祐次郎の誘惑(?)もあってか、昨年後半から頻繁にセトリに入っていた。
そりゃもう“すごい速さ”を生で聴きたくてたまらないカツヲは、先のライブのセトリに期待してワクワク過ごしていた頃に某アプリでバズると、とても落胆した。



andymoriにまつわるあれこれ(インスタ、YouTubeなど、、)はレーベルの人が動かしており、小山田壮平は了承しただけで全く関与していない(ツイキャスにて発言)らしいが、andymoriをもっと知って欲しい、というレーベルの人の思いは見事に叶った。
YouTubeチャンネルの登録者は、2019年頃(カツヲがandymoriを知った年)と比べて2倍に増えているし、再生回数も如実に増えている。
そのおかげで新たなライブ映像が公開されたり、レコードが再販されたり、そりゃもう嬉しいことだらけではある。
「雑に消費されるのは嫌だ」という意見はごもっともではあるが、少しでも彼らの曲が刺さってくれる人がいればそりゃもう嬉しいことだし。
ただ、諸々の活動による利益がどこへ行くのか、、といった疑問が残ったり残らなかったり。


正直言ってandymoriがバズっていること自体に関しては特になんとも思っていない。
ただ、やっとセトリに組み込まれるようになり、聴ける可能性を大いに秘めていた“すごい速さ”を、商業的に音楽を消費することを避けてきた小山田壮平が、また封印してしまうかもしれないことにショックを受けたわけだ。


だからと言ってバズってるから歌います、みたいなしょうもないことは絶対にして欲しくなかったし。



そんななか今回のライブでの流れはあまりにも最適解だった。
終始「バズっている」ということについては触れずに、まさに某アプリ世代である高校生の姪っ子1人に向き合って歌った。
何がきっかけだったのか。
ひょっとしたら姪っ子に「歌って欲しい」と言われたのかもしれないし、ファンにリクエストされたのかもしれない。
どんな理由であっても、ただただ東京公演でサプライズで歌ってくれたことにとてつもなく嬉しくて、普段はしない酒飲み散歩をしてしまった一人の男がいる訳だし。
大バズきっかけで初めてライブに足を運んだ人がいたかもしれないし、姪っ子さんの思い出の一日になったかもしれないし。

結局、ほんまありがとう、ってことよ。


あー、また語りすぎてしまいました。
ライブ全体の感想はと言うととてつもなく良かったよ。
そりゃ濱野夏椰のサイケデリックなギターの音が恋しくもなったりしたけれど、すごい速さで季節は流れていくもんで。


また会いましょう。





[セットリスト]
1. スライディングギター
2. サイン
3. 月光荘
4. 彼女のジャズマスター
5. Life Is Party
6. 16
7. 1984
8. 恋はマーブルの海へ
9. 投げKISSをあげるよ
10. 雨の散歩道
11. スランプは底なし
12. それは風のように
13. ゆうちゃん
14. 汽笛
15. 君に届かないメッセージ
16. コナーラクへ
17. 光
18. 革命
19. グロリアス軽トラ
20. 夕暮れのハイ
21. すごい速さ
22. 時をかけるメロディー
23. マジカルダンサー
24. アルティッチョの夜

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