「精神的に向上心のない者は、馬鹿だ」-こころ

夏目漱石の「こころ」は学生時代に国語の授業で読んだ。授業で読んだというより、夏休みの読書感想文の課題図書として指定されていた。この本を読んだ時から忘れられない言葉がある。

「精神的に向上心のない者は、馬鹿だ」

当時高校2年生だった私は、全くその通りだ、とこの言葉を強く胸に刻んだ。受験を考え始めなければいけない夏に与えられた課題だったから。その約1年半後、第一志望の大学と、それ以外の志望校と滑り止めの大学全てに合格できた。

それからかなりの月日が経つ。大学を卒業後、社会人として生きてそれなりの年数も経った。学生時代に深く胸に刻んだ言葉は、今でも鮮やかに胸に刻まれたまま、私に語りかけてくる。

「精神的に向上心のない者は、馬鹿だ」

今の私には何ができるだろう。私は何をしたいんだろう。何を目指しているんだろう。数年前と何が変わったんだろう。いや、何も変わってない。何一つ。ああ、向上心がなかったんだ。日々働いて、時々やってくる快楽に溺れて、いくらかの罪悪感に苛まれ、また向上心をもってしようとしても、前に進めず、砕け散って、また働く日々。変わろうとしなければ、変える行動をしなければ、現状から抜け出せない。向上心を持て、向上心を…。

過去私のモチベーションになってくれたこのフレーズは、今の私を苦しめているのかもしれない。現に「こころ」の中でこの言葉を放った彼は、この言葉の呪縛で自殺している。

向上心がなくて馬鹿だったとしても、何も悪いなんてことはない。やりたいことをやりな。向上心がなくても死にやしない。分かってるけど、理解して、心の持ちようや世界への解釈を変えられない限りは、私は精神的な死の縁を彷徨いながら、今日を生きていくんだと思う。分かっているのに、なんで変えられないんだろう。精神的に向上心がないからなんだろうか。


おわり

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