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春消さ

広川なつきとタタクーク
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朗読:広川なつき 写真:広川なつき

割れた水晶体、眼球の組織一つひとつに弟の全身像が映り込み、共犯として仲良く手錠をかけた
優しい放火魔
キッチンバサミで切られた髪
手を繋いで笑った
とても綺麗に首を絞めてくれて、その時間はとてもなだらかで
胸の底から温もりが溢れ出し幸福感が表情筋を動かしてくれる
優しい弟。
潰れた目を丁寧に縫ってくれたり牛乳を買ってきてくれたり

もういいよ

2007年8月25日昼の2時頃寝ている弟に口移しでマグロを食べさせてチューブのマヨネーズを突っ込んだらまるで漁村だねって咀嚼して目を細めるその寛容さに腹が立ち炙ったカッターで左手首に星のマークを刻んだら射精していたね

多分そんな我々を八百万の神々は見捨てず
清廉潔白な故郷にいつかきっと原爆を落としてくれる

午前中雨が降っていたのに今になってこんなにも蒼天でぬかるんだ土に乱暴に太陽光が染み込んで、息がしづらくて体力が奪われて
と頭の中の言葉をホワイトボードに書き写して弟に見せたら頬を撫でて頭を掻きむしってこの街の全てのカタツムリを蹴り散らかしてくれたね
潰れた裸体から溢れ出す水色と青と紫とピンク、
つまり紫陽花の根幹がこの鬱陶しい雨上がりの権化だとしたら動物愛護に反対し、環境を破壊しよう
青空に生殖器を晒し続けるのだ 2人で

弟と呼んでいるこの女の魂は私だけのもので、
私の全ては弟以外に帰属しない
私の目玉のコラーゲンの味は弟しか知らないし
私が酸っぱいもの好きなのは弟の焼けた脛の肉由来だ。

ユニットバスに 玄関に クローゼットに 居間にガソリンは撒き終わり
寝室に転がる一斗缶に反射するくゆった赤
笑顔の匂いが染み付いた壁から燻る粉塵
胸いっぱいの愛と恐ろしいスピードの鼓動
繋がれているのにわざわざ手を握って汗を交換し
テディベアスタイルで2人で壁に寄りかかり
外から見たら綺麗だろうな
大好きで大好きで優しすぎて嫌いになってしまった
これは恋だ
ここは鋼鉄のゆりかごだ
とても嬉しくて幸せだから今のうちに死のう
弟の顔を見ると自然と笑みが零れてしまう

私達の体に春が塗れ出した

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